せっかく便利なITツールも使いこなせないと意味がありません(編集部撮影)

少子高齢化と好景気による空前の人手不足。働き方の多様化による職場コミュニケーションの複雑化――。サービス業界の中間管理職である「店長」の求められる現場マネジメント要件は構造的に高度化を余儀なくされている。サービス業界の健全化に向け一石を投じるべく、店長受難のリアルをレポートしていく本連載。第3回はITに翻弄されるベテラン店長の採用活動の実態に迫る。

「仕事探しはインディード♪」

「バイト探しはインディード♪」

昨年ごろからテレビでよく見聞きするフレーズです。斎藤工(さいとう・たくみ)さん、泉里香さんという、男女それぞれに人気の高い旬なタレントを起用したCMが記憶に残っている人も少なくないでしょう。

世界最大級のオンライン求人サービス


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インディード(Indeed)はアメリカを発祥とする、求人情報専門の検索エンジンを手掛ける企業です。求人サイト、新聞などのメディア、各種団体、企業の採用Webページなど、数千のWebサイトを巡回して求人情報を収集。独自のAI(人工知能)テクノロジーを駆使し、求職者の検索条件に合わせて一覧表示する仕組みです。

インディードは求人情報を掲載した企業が、アカウントを持って求人票を作れば、原則として無料で掲載できます。その求人情報の応募効果を高めるために露出を増やし、クリックに応じて課金される有料広告が主な収益源とみられます。

ちょっと大げさかもしれませんが、「求人業界のグーグル(Google)」と言ってしまえばわかりやすいかもしれません。インディードのページでキーワードと勤務地を入れると、さまざまな仕事が検索結果として表示され、推定年収や会社名、職種名、雇用形態などで詳細検索することも可能です。

インディードの創業は、フェイスブックから遅れること9カ月の2004年11月。2010年には世界7大陸すべてでサービスを展開する初のWebサイトとなり、現在では50以上の国と地域、28言語での検索に対応する世界最大級のオンライン求人サービスへと成長しました。日本で運営を開始したのは2009年、2012年にはリクルートの買収により、同社の完全子会社となっています。

関係者によると、世界全体では毎月2億人以上のユーザー(ユニークビジター)が訪れているインディードの、日本における求人掲載件数は約200万件。既存求人サービスの最大手タウンワークが同約80万件、Web求人サイト大手のバイトルが約20万件であることと比較しても、その件数の多さがわかると思います。

一方、日本では外食や小売り・サービス業などのパート・アルバイト求人の分野において、「バイト探しはインディード♪」というTVCMのフレーズのようには、インディードの利用が広がりにくい土壌もあります。それはWebを使った仕組みの求人サービスを使いこなせない「アナログ店長」が少なくないからです。

アナログ店長のデジタル化を阻む壁

「いつもの出しといて〜」

パートの欠員募集が必要になったとき、関西のある地方都市に展開するスーパーの店長Aさんはこう言います。A店長は58歳。「いつもの」とは、20年以上使い続けている新聞折り込みの求人チラシのことです。

A店長が求人チラシにこだわるのは、手に取って見えるアナログな紙媒体であるということに限らず、A店長がそれを経由した電話での応募でないと求職者にうまく対応できないからです。

一般的に求人サイトには応募者管理システムがセットされています。Web経由の応募をためておいて、応募者とのやり取りができる便利なツールなのですが、A店長はこのシステムが使いこなせない。というか、そもそもログインすらできません。

職場で毎日のように使うストアコンピュータなどは、扱えないと本業に支障を来しますが、必要なときにしか触れることがない採用関連のデジタルツールは、なかなか身に付かないのです。これはA店長に限ったことではありません。

カフェや居酒屋といった外食産業の店長は比較的若い世代が多く、スマホなどでWebに慣れ親しんでいるものの、スーパーの店長やコンビニのフランチャイズオーナーといった小売店の採用責任者は50代、場合によっては60代の人も少なくありません。

そんな彼らは、IT機器の扱いが苦手なケースが多く、インディードという最新の採用ツールどころか、一般的な求人サイトさえ使いこなすことができていません。

アナログ店長のデジタル化を阻む壁は、日本の求人ビジネス業界の構造にも原因があります。日本は、リクルートに代表されるように、世界に類を見ないほど求人広告メディアが発達しています。各求人広告メディア会社には営業マンが多数在籍。彼らが採用担当者の多岐にわたる要望に応えつつ、採用プランを練り求人広告に落とし込んでいく、というのが求人の一般的スタイルとして定着しています。

たとえて言うなら、サザエさんに登場する三河屋さんのような存在がたくさんいるということです。三河屋さんは、しょうゆやビールを届けてくれるだけではありません。もうすぐみそが切れそうだと察知して、頼んでもないみそを先回りして持ってきてくれたりします。日本においては、採用担当者と求人広告営業マンの間にそういった親密な関係性が出来上がっています。

アナログ店長が、仮に使い慣れない求人サイトを利用したとします。そのときに発生する煩わしいデジタル作業は、求人広告営業マンが代替するケースも少なくありません。この依存体質がアナログからデジタルに進化できない大きな理由なのです。

作業が煩わしいだけでなく、料金体系もわかりづらい

インディードの料金体系もアナログ店長を悩ませます。インディードの有料広告はグーグルと同じく1クリック当たりの単価を入札し、その単価によって表示順位が決定されていく仕組みです。

求人広告の料金は、求人誌の時代に「広告枠の大きさ」で料金が決まるという体系が確立されました。これは採用担当者にとっては明朗会計と言ってもいい、わかりやすい料金システムです。このシステムに慣れ親しんできたアナログ店長にとっては、インディードの料金体系は複雑化した携帯電話の料金プランと同じくらい摩訶不思議な世界に映っているはずです。

一方、某居酒屋チェーン大手の本部でアルバイト採用責任者を担当するBさんは、Webマーケティング会社からの転職組で、インディードも使いこなしています。彼は、前職で培ったWebマーケティングスキルを総動員し、既存の求人メディアだけでなく、あらゆる手段を駆使しながらコストパフォーマンスを重視した採用活動を実践しています。

AさんとBさんの採用力には、雲泥の差が存在します。求職者1人当たりに何個の仕事があるかを示す有効求人倍率は1.5倍を超え、少子化も手伝って空前の人手不足は2018年も続きます。アナログ店長が従来型の採用に終始しているようでは、この人材難を戦っていけません。

かといってAさんに今からデジタルスキルの習得を迫るのは拷問のようでもあります。少なくとも本部の採用セクションには、BさんのようなWeb、ITのデジタル知見をもったタレントが必要な時代に突入したのかもしれません。