ラスベガスの繁華街を走る自動運転タクシー。自動車部品メーカーの英アプティブと、タクシー配車サービスの米リフトが共同で実証実験を行った(写真:Aptiv)

毎年20万人近くが集う世界最大のテクノロジーの祭典、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)。開催地の米ラスベガスで今年、未来の自動運転車を一足先に体験できる実証実験が行われた。

CESの会期中、多くのホテルやカジノが立ち並ぶストリップ地区から展示会場までの道路はひどい渋滞に陥ることもしばしば。歩行者の飛び出しも少なくない。こんな場所に表れたのが、自動運転タクシーだ。白い車体の後ろには、「SELF-DRIVING VEHICLE(自動運転車)」の文字が目立つ。

市街地での自動運転を実際に体験

車の開発を手掛けたのは、自動車部品メーカーの英アプティブ(旧・米デルファイ)とタクシー配車サービス会社の米リフト。リフトはあのウーバー・テクノロジーズと双璧をなす米国で人気のサービスだ。

アプティブは、2017年10月に自動運転技術のソフトフェアを開発するベンチャー、nuTonomy(ニュートノミー)社を4億5000万ドル(約500億円)で買収、自動運転技術の商品化に向けてアクセルを踏んできた。その成果が、今回お披露目されたというわけだ。

自動運転がラスベガスの市街地を走る様子。ドライバーの手はハンドルから離れていることが見て取れる(記者撮影、音声はありません)

これまで複数の企業が、試験場などの限られたスペースで自動運転の実験を行ってきたが、複雑な交通状況の中でのケースはまだまだ少ない。いったい、どのような乗り心地なのか。安全なドライブができるのか。実際に体験してみた。

この自動運転タクシーの配車は、通常のリフトの配車アプリを使う。出発地はCES会場の駐車場だが、目的地はストリップ地区に密集する約20カ所のホテルから選ぶことができる。今回は、巨大なエッフェル塔のモニュメントで知られる「パリスホテル」へ向かうことにした。

目的地を決めてしばらくすると、迎えに来るタクシーが決まり、アプリ上にはタクシーの位置情報を示す車の絵が出現。迎車の時間と、目的地に到着する時間も表示される。ここまでは、通常のタクシー配車と同じ手順だ。


リフトのアプリで配車を依頼すると、車の居場所と到着予定時間が表示される(写真はリフトのアプリをキャプチャしたもの)

唯一異なるのは、事前に同意書へのサインが求められたことだ。同意事項には、「自動運転車に乗車することによって深刻なケガや死に至るリスクがあることをよく理解している」など、ドキリとする文言もあるが、背に腹は変えられない。

しばらくして、タクシーがやってきた。今回アプティブが自動運転技術を搭載したのは、独BMWのセダン「5シリーズ」。車体には、車の“目”として360度をカバーする21個のセンサー、カメラとライダー(レーザーによる位置測定システム)のセット、そして2種類のレーダーなどが搭載されている。

なお、自動運転車両の中には、ぐるぐると回るライダーが屋根の上に搭載されることも多い。その点、同車の場合は車体をぐるりと囲むように上手く組み込まれているため、一見して自動運転車とはわからないスマートなデザインだ。車内前方に設けられたディスプレーには、これらで認知したものや車体の走行位置が、色分けされた線や囲みによって逐一表示されるようになっている。

ドライバーは手をハンドルから離した


よく見ると通常の車にはないセンサー類が多数取り付けられていることがわかる(記者撮影)

いよいよ出発。後部座席の画面に表示された「Start ride」のボタンを押すと、車は発車した。駐車場から出るまではドライバーがハンドルを握るが、いざ公道に出た途端、その手は膝の上に置かれてしまった。ここからが自動運転モードだ。

平日の昼間にもかかわらず、道は相変わらずの大渋滞。周囲からはクラクションの音も聞こえてくる。自動運転タクシーはほかの車よりも車間距離をしっかり取りながら、少しずつ進む。途中、やや気になったのは前を走る車が急ブレーキを踏んだときのこと。これを検知したタクシーは、ドライバーの補助なしに「キキッ」という音とともに急停車したが、車間距離は十分にあり、やや過剰な反応に思えた。

このシーンをのぞけば、あとは安全運転そのもの。車線の間の並木に隠れた人間もレーザーがすべて把握し、パリスホテルまでの10分程度のドライブはあっけないほど快適に終わった。

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)によれば、特定の場所に限り、緊急時の対応も含めてすべての操作を車が行うアプティブの自動運転技術は「レベル4」に定義される。現在はレベル4に達した市販車はないが、同社はこれを2019年までに量産したい考えだ。


赤いホイールが目立つ、BMWのセダンをベースにしたアプティブとリフトの自動運転タクシー(記者撮影)

かといって、2019年に実際の道をこの自動運転車が走るということでもない。アプティブの担当者は、「技術的に実用化できたとしても、実際に販売される車に搭載できるかどうかは国や地域によって異なる。法整備の進展次第で、先を見通せないのは頭が痛いところだ」と話す。

米国ではIT大手の開発競争が激化

米国は、世界の中でも自動運転に関する法整備が最も進んでいる。グーグル、アップル、ウーバー、インテル、エヌビディアなどの米国企業が、自動運転開発でしのぎを削っているからだ。アリゾナ州では今年、グーグルの持ち株会社アルファベット傘下にある開発会社・ウェイモが、完全自動運転タクシーのサービスを始める予定だ。

日本においては、未整備といっても過言でない。ハンドリングや加減速を補助する「レベル2」の自動運転技術までしか実用化されていないのが現状だ。もし事故が起きたときに責任の主体は何になるのかといった議論も、まだ方向性が定まっていない。

今回のCESではアプティブのほかにも、日産自動車が脳波を活用した運転支援技術を、米半導体エヌビディアがレベル4の自動運転タクシー向け半導体を紹介するなど、自動運転の実現に向けた技術革新が着実に進んでいることが鮮明となった。

止まらないテクノロジーの発達に、社会はどう対応していくべきか。アプティブとリフトの取り組みのように、まず多くの人が自動運転に触れる機会は必要だろう。慎重な議論は不可欠だが、いつまでも先延ばしにしていられない段階に入ってきた。