JR九州の観光列車「或る列車」(撮影:今井康一)

2018年がはじまりました!皆さまいかがお過ごしでしょうか? 久しぶりの「鉄道会社に直撃インタビュー」は、昨年1年間の取材や旅の中で、念願叶ってようやく乗ることができたJR九州の「或る列車」についてお届けします。2015年のデビュー以来、鉄道ファンのみならず多くのお客様を楽しませてきたスイーツトレイン。「ななつ星in九州」を彷彿させるゴージャスな車両にこだわりのコース料理、そして一流のサービス。さぞ”敷居の高い”列車なのだと思っていたのですが、いざ取材してみると……!?
今回は、そんな新しい時代の観光列車「或る列車」が走ってきた軌跡を辿るべく、九州旅客鉄道(JR九州)鉄道事業本部営業部営業課の山口哲矢さんにお話を伺いました。

7〜8回乗ったリピーターも

――「或る列車」に試乗しましたが、ため息が出るほど洗練されたスイーツの数々にそれを演出する空間で、何から何まで「ななつ星in九州」クラス。そんな「或る列車」の要となるメニューは、どのように決めているのですか?


この連載の記事一覧はこちら

九州(沿線)のこだわりの生産者さんの食材を使って、月替わりで決めています。監修は東京・南青山のレストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ成澤由浩氏です。自然環境をテーマにした料理をつくり続けることで有名な成澤さんに、九州の沿線食材を活かしたアレンジを考案して頂いています。

――コース料理はお弁当箱から始まって、4種のデザート。さらに飲み放題のドリンクも宮崎のスパークリングワインに、日向夏のジュース、ミネラルウォーターまで地元のものを用意するなど徹底されています。月替わり提供は大変だと思いますが、そこにこだわるのはリピーターの方にも対応できるようにという心配りですか?

詳しい統計をとってはいないのですが、最近では1便につき1〜2組程度リピーターの方がいらっしゃるので、その対応も含めてです。多い方だと、すでに7〜8回ほどご乗車頂いていますので、背筋が伸びますね。半分くらいは九州外のお客様ですが、運行ルート沿線の福岡や大分からのお客様も多数いらっしゃいます。

――地元の方でリピーターも多いとなると、憧れでもあり、記念日に楽しみに乗る列車としてもその地位を確立・定着したのですね。お誕生日や結婚記念日の際は、サプライズでお祝いのサービスもされるのですか?

公式に”このようなことができます”とはっきりとは言えないのですが、できる限り臨機応変に対応させて頂いています。たとえば、ご両親へのプレゼントで乗車された方などは事前に情報を頂いてできる限りサポートをさせてもらいます。また、お料理の量が多い・少ないといった点や味に関しても、ご意見があれば乗務員が作成するレポートを共有した上で、次回以降のメニュー開発の参考にさせて頂いています。ドリンクメニューを変えてみたり、車内販売も商品を充実させてみたり。

――2017年春の大分ルートから、車内限定販売のお土産が増えましたね。「或る列車」シンボルマークのハートと星のキーホルダーは女性乗務員さん発案と聞きました。とても可愛らしくて、早速購入してしまいました!

少しずつですけれど、お客様のリクエストも組み込んで、妥協のないように準備しています。

グラスは世界に一つだけ

――メニューもサービス内容も、言わば”お客様と共に育ててきた”と。絶えずリピーターを獲得してきたのには、そのような戦略があったのですね。ところで、内装の中でお客様の評価が高いところはどこですか?


「或る列車」車内で食事を楽しむ久野知美アナウンサー(撮影:村上悠太)

組子細工が好評です。職人さんがこの列車のために特別に作って下さったのですが、特に2号車が硬い木材を使っているので難しかったと聞いています。窓上の星型のマークは木彫りになりますが、それを囲むようにある組子は特に細かい仕事です。内装に加え、本物にこだわっているのでサービス用のグラスもガラスです。リスクはありますが、今のところ大きなトラブルはありません。作成は特注で、長崎の吹きガラスの職人さんにお願いしています。一つ一つ高さやガラスの厚みなども異なるのが味わいになっています。

――世界に一つしかないものを使って飲む贅沢というのは、病みつきになりますね。大切なグラスやお皿を守るために、下敷きにラバー製のコースターを用いているのもさすがです。ランチョンマットもザラッとした触感の紙を使用されているので、お箸やお弁当、お吸い物の器も滑らないですね。

試運転の時から研究を重ねました。列車自体も衝撃をなるべく抑えるようにスプリングや台車も改良してもらいました。

――現在運行中の長崎ルート(長崎―佐世保)や大分ルート(大分―日田)以外の新しい運行ルートの可能性はありますか?

そちらはまだ秘密です(笑)。年に数回、佐世保から佐賀駅を通って唐津へ行く特別ルートを運行させているのですが、佐世保と大分にある専用の厨房を拠点にしたオペレーション関係の課題がクリアできれば、評判を見ながら増やしていきたいという思いはあります。

――今は数カ月ごとに各ルートを案内しているのが基本ですよね。お客様、特にリピーターからのリクエストもあるのでは?

そうですね。まずは長崎ルートと大分ルートのどちらも乗ってもらって、という流れになりますので、制覇される方が増えていけばといったところでしょうか(笑)。

――昨年は、日田も豪雨で一時運行が危ぶまれた中、できる限り最善を尽くして走らせ続けていらっしゃることに感銘を受けます(2017年8月14日付記事「JR九州、鉄路被災でも観光列車維持に大奮闘」)。ただ、「或る列車」そのものの運行は4年目を迎えています。現在感じている課題はありますか?

「或る列車」は、デビュー当時から”スイーツ・料理”に特化した特殊なD&S(デザイン&ストーリー)列車としてブランドを築いてきました。ですので、まずはスイーツ・料理に変わらず注力するというのがベースになりますが、途中の駅で乗ったり降りたりといったアトラクションを実施していない分、沿線の魅力をどう伝えるかという点は日々考えています。

九州産食材を車内でPR

――いま運行中の長崎ルートで何か新しく仕掛けていることはありますか?

運行開始の時から食材に沿線のものを使うということは徹底しているのですが、あわせて乗務員がお客様のもとをたずねて、珍しい九州産の食材のよさをPRして”地域を体感して頂く”という試みを少しずつ進めています。たとえば、その月のメニューに用いていたブッシュカン(仏手柑)という食材をご覧いただく試みなどをはじめました。

――食材や産地に思いを馳せるだけでなく、見て・触れることができるというのは魅力的ですね。ちなみに、昨年の11月23日に運行された特別な佐賀ルートは、お客様の反応はいかがでしたか?

年に数回の実施ということもありまして、沿線の方がおもてなしのためにたくさん集まって盛り上げてくださり、感激しました。唐津で式典を行ったり、佐賀で市民の方に集まって頂き、小さなバルーンを飾ったり旗を振って頂いたり、有田にはゆるキャラが来たり。さらに、肥前山口では沿線の子ども達がダンスを踊ってくれたりと盛り沢山でした。2月・3月にも佐賀ルートの運行があるので、自治体や旅行会社さんにご協力頂きながら盛り上がれば光栄です。

――昨年「日田―大分ルート」に乗車させて頂きましたが、駅の美しさと”待っている間のワクワク感”も含めての「或る列車」ブランドだなぁと感心しました。日田駅での駅待合スペースのテーブルや椅子も水戸岡鋭治さんプロデュースらしい温かみがあり、本棚も設置されていて地元のお母さんがお子さんに読み聞かせをしている姿が見られます。日田にもゆっくり降りないと損だなと思わされました。


停車中の「或る列車」と久野知美アナウンサー(撮影:村上悠太)

降りて頂くためには、まず「或る列車」を知って頂くこと。さらに、着地の魅力や地元の魅力を発信していくことがより求められると思います。昨年は「かわせみ やませみ」も走り出しましたし、D&S列車と沿線の魅力発信については常に考えています。

――日田は酒どころも多いですよね。今回は乗り継ぎの関係で滞在時間がとても少なかったので街の中までは伺えなかったのですが、駅で「或る列車」コラボの限定ラベルなどが買えたら嬉しいなと欲張りな気持ちになりました。

駅のすぐ近くでそうしたことができれば一番なのですが、日田には小京都と称される「豆田町」があるので、そちらに誘導できればという思いはございます。

外国人向け案内の充実は?

――他の鉄道会社では、たとえば乗客の皆さん限定のスタンプラリーを設けて街に繰り出す仕組みを作っている例もあります。そうした試みもこれから増えてきますでしょうか?

そうした声は、自治体さんからも出ているので検討していきたいなと思っています。赤米入りアイスや鰻の焼きおにぎりなどの名物も是非現地で召しあがって頂きたいですし。

――ちなみに、駅前のお店をさっと回ったらインバウンド対策で英語メニューなどを用意されている店舗も多いようにお見受けしました。対策はいかがですか?

多言語表記はJR九州全体で取り組んでいます。「或る列車」も月に1〜2回ほど外国の方向けのチャーター便などを設けることもありますので、その際には英語のメニュー表をご用意しています。ほかのD&S列車でも外国のお客様は多く、客室乗務員も英語を勉強したり、対応力を高める努力は常に行っています。

――D&S列車のはしりでもある「ゆふいんの森」は、中国や韓国からのお客様で賑わっていて、日本人を探すのが大変な日もあるほどの外国人観光客の数だと聞いています。迎える側の皆さんの多言語案内をはじめとするインバウンド対策に加えて、お客様にとっては宿泊地探しも大変そうですね。

「或る列車」ご利用のお客様の、現地での滞在地としては湯布院や大分市内・別府の町も人気です。長崎でしたら、市内やハウステンボスも定番です。日田でも昨年、弊社グループの旅館がリニューアルしましたので、楽しみ方の幅は広がっていると思います。

最後に、JR九州鉄道事業本部営業部営業課長の鷹野恵一さんからもお話を伺いました。

――「或る列車」が走り出した翌年の2016年には株式上場も果たされて、外から拝見する限り会社全体が上り調子のようにお見受けします。実感としてはいかがですか?


久野知美アナ(中央)とJR九州・鉄道事業本部営業部営業課長の鷹野恵一さん(左)、山口哲矢さん(右)(撮影:村上悠太)

そうしたお声を頂くことが多くて有り難いです。とはいえ、震災や豪雨災害もございましたし、これからもどのような環境になるか未知数です。阿蘇地域では豊肥本線が不通になってしまっていますし、まだまだ厳しい面もあります。ただ、近県の地区でこうしてD&S列車が走っていることで、被災地や九州全体への活気づけにも繋がればと期待しています。

――近県まで観光列車が走っていることで、人によっては、たとえばレンタカーを借りて少し阿蘇まで足を伸ばしてみようと思われる方もいるかもしれないですね。

今、熊本駅と宮地駅を結ぶ「あそぼーい!」が運休になっていますが、昨年は期間限定で大分駅と別府駅から阿蘇駅へ向けて走らせました。大分から熊本へ、元気を運ぶ・パワーを発車するといった意味合いで走らせたのですが、このような試みは続けていこうと思っています。

――震災・災害復興に向けて、会社を挙げて動いていらっしゃる。それにD&S列車が一役買っているというのがJR九州らしいですね。

これからも多くの方に大分や熊本を訪れて頂いて、熊本の震災復興にお力添え頂ければ幸いです。

<取材を終えて>
今回、初めて現地で乗車した上で「或る列車」のこだわりについて様々なお話を伺うことができ、徹底したブランド管理とそのポリシーを垣間見て深く納得。一方でお客様の声を反映させる柔軟さも併せ持つところに感心しきりでした。九州全体のD&S列車としても、決して一筋縄ではいかない自然環境の中で、走り続けて沿線を元気にしていることもよくわかります。
ちなみに、新たな試みを続ける「或る列車」らしいニュースも入ってきました。1月13日に長崎駅で、運行開始以来初めてとなる一般公開が行われるとのことです。普段は10歳以下は乗車できない「或る列車」ですが、今回はお子さま向けの写真撮影会なども実施される模様。これを機に新たなファンも増えるのではないでしょうか。
<追悼>


「絵画で贈るD&Sトレイン九州紀行」で展示された故・佐藤正昭館長の作品(筆者撮影)

九州の鉄道を語る上で外せない「九州鉄道記念館」(福岡県北九州市)。佐藤正昭館長の絵画作品を展示した企画展「絵画で贈るD&Sトレイン九州紀行」が昨年10〜12月に開催されましたが、佐藤館長は昨年11月に急逝され、これらの作品が遺作となりました。「或る列車」を含むD&S列車の様々な表情を捉えた作品の数々に、佐藤館長の情熱を感じられる温かな展示でした。心より御冥福をお祈りします。