「意味があるのか」と叩かれながら成果を創出した若手研究者の挑戦

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 若手研究者にとって研究の内容以外の悩みといえば、自らのポストと研究室の環境が上位に来るだろう。「おだやかな性格だが、研究では目立ちたい。常にチャレンジ、選択肢はより困難な方を選ぶ」。東京工業大学物質理工学院の稲木信介准教授がこんな強さを獲得した背景にも、研究室後継へのプレッシャーと将来のポストの不安があった。

 京都大学で高分子合成化学に取り組んで博士号を取得。その後、「水の電気分解」のように電解酸化還元で反応を起こす「電解合成」をテーマとする、東工大の渕上寿雄教授(現名誉教授)の研究室に助教として赴任した。

 ところが教授の定年退官まであと5年しか残っていない。それまでに講師へ上がらなくては研究室は閉鎖、自らもまた職を探す羽目になる。体重は1年で5キログラム減。頼りになった教授と同門の教員も、まもなく他大学に転出してしまった。

 昇任には論文の数に加え質も求められる。高分子膜の酸化還元反応は可逆が常識だが、途中で生じるイオンに電解反応を施し、膜に別の機能を持たせる戦略を採った。「『変なことを手がけて可能なのか』『意味があるのか』と叩かれながら」成果を創出。困難な道を乗り越えて目立つ快感を覚えることとなった。

 近年は通常の電解装置の液中に置く、導体がプラスとマイナスに分極した「バイポーラ電極」に着目する。

 バイポーラの両極間で生じる電位勾配を使い、高分子膜の色を傾斜的に変化させたり、電解合成の進み具合に違いを出して機能差を持たせたりした。これらの成果で2016年度の「文部科学大臣表彰若手科学者賞」を受賞した。

 日本化学会の若手による「新領域研究グループ」では同年、電子移動に注目した「サステイナブル・機能レドックス化学」を立ち上げた。電解のほか試薬型の合成、光反応、反応デバイスなど「普通ならつながらない分野に横串を刺した」形で議論する。春の年会での「特別企画」を今春も引き続き開催する予定だ。

 研究室の学生には“自由にやらせる”のが方針だ。「絶対にうまくいかないと思った学生のアイデアが、大きな発見につながるケースもある。見極められないからおもしろい」。変なことをする中から生まれる可能性を大切する。

(編集委員・山本佳世子)