1月2日、米調査会社のユーラシア・グループが「2018年の10大リスク」を公表した。その筆頭は「中国の影響力」だが、8位に「英国」がランキングしている点にも注目したい。なぜ英国がリスクかというと、ブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)の期限が2019年3月末に迫るなか、英国が首尾よくこの離脱手続きを進められるかが問われているためだ。

 ロンドンに拠点を置く日本の政府機関も、「英国とEUとの間で交渉の進め方に隔たりがある」と懸念する。英国は離脱に関わる清算金の交渉にケリをつけ、離脱後の貿易条件を協議したいところだが、「EUから自由になりながらもEUとの関係を維持したい英国の思惑に、EUは反発している」(同)という。

 EU離脱は英国経済や社会に短期的な弊害をもたらす。一方、EU残留は長期的な苦痛をもたらす――そんな判断のもとブレグジットを選択した英国に対し、国際社会は「2018年のリスクは英国そのものだ」と悲観的な視線を向けている。

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ブレグジットは「リスクよりチャンス」

 しかし、“ブレグジットは好機だ”とばかりに英国に急接近を図っている国もある。中国だ。

 2016年6月、離脱をめぐる英国の国民投票が僅差で「離脱」という結果になったとき、中国は歓迎しなかった。中国による英国企業の買収が進む中、「中国が投資した資産価値はどうなるか」が懸念されたのだ。

 だが時間の経過とともに、「英国のEU離脱は、中国にとってリスクよりチャンスが大きい」と楽観視する空気が形成されていき、英国に同調する記事も徐々に増えてきた。

 例えば、中国商務部のシンクタンクに所属する研究員は、中国紙への寄稿で次のように指摘している。

「EUの管理システムは官僚主義だ。そのルールは世界で最も細かくて煩わしく、事務効率は主要先進国に比べて低い。これらは英国の経済的活力をそいできた」

 EUとの交渉を担当した日本の通産省OBも、「EUは各国の寄り合いなので意思決定に時間がかかるのは事実。そもそも『欧州の統合』という高邁な理念のもとに結成された組織なので、理念先行のきらいがある」と明かす。

 英国はこうした大陸諸国とは異なり、よりプラグマチックに思考する。「経済的実利」を追求するという点では、むしろ中国とそりが合うといえるだろう。両国がブレグジットをきっかけに接近を図ってもおかしくはない。

英国市場へのアクセスが容易に?

 話は10年以上前にさかのぼるが、2005年に繊維製品の輸入数量規制が撤廃されると、EU市場にどっと中国製品がなだれ込んだ。このとき、EUは緊急輸入制限(セーフガード)の発動を発表するが、英国は自由貿易を主張して輸入制限に反対した。中国は今なお、このときの英国の対応を評価している。

 そして、英国のEU離脱に対しても、英国との貿易の障壁を低くし、英国市場にアクセスしやすくするものであると確信しているのだ。

 2017年1月、浙江省義烏と英国ロンドンを結ぶ国際貨物列車が運行を開始した。鉄道によって中国と英国の市場はますます接近している。義烏から運ばれる貨物は大半が日用雑貨だと言われるが、ロンドン発の復路にはウイスキーが積まれている。

 ウイスキーは英国にとって、国内産業をけん引する重要な商品である。しかし人口6500万人(2015年)の島国である英国にとって国内市場は今後の成長が見込めない。そのため輸出拡大への取り組みを避けることはできない。そこにタイミング良く打ち出されたのが中国の「一帯一路」構想だった。英国のウイスキーは今後「一帯一路」に乗って中国へ大量に運ばれるだろう。

 中国メディアは「『一帯一路』はブレグジット後の英国に、市場のみならず自信も与えることになるだろう」と論じている。

 中国は、英国が債務問題を抱え、生産現場が資金不足に陥っていること、大量のインフラが老朽化していることを知っている。「英国にはパートナーが必要だ。中国の投資で製造業を復活させてやろう」――中国がそう目論んでいることは想像に難くない。

両国は「英中黄金時代」を宣言

 中国の掲げる「一帯一路」と英国の「ノーザンパワーハウス(Northern Powerhouse)」(イングランド北部の経済振興策)、中国の「メイド・イン・チャイナ2025」(製造業の強化を図る政策)と英国の工業政策「The future of manufacturing」など、両国の経済政策には類似性があり、さまざまなプロジェクトの相互乗り入れが検討されている。

 また、中国は「ロンドンが、中国の人民元の国際化を推進する橋頭保になる」と期待している。ブレグジットが決まった際、「ロンドンは国際金融センターとしての地位が低下し、パリやフランクフルトに取って代わられるだろう」との見方があった。しかし今では、「結局、ロンドンの地位が他所に取って代わられることはなく、影響は限定的だった」(中国の電子メディア)と捉えられている。

「一帯一路」構想で世界への影響力を強めようとしている中国にとって、ブレグジットは渡りに船だ。すでに両国は「英中黄金時代」を宣言しており、ブレグジット後の英国の運命は“中国とのタッグ”に強く支配される気配さえする。

 果たして数年後、世界の10大リスクから英国の名前は消えているだろうか。

筆者:姫田 小夏