フィリピンの首都マニラの景観。フィリピン国民は家族第一主義で親日的だという(資料写真)


 日本能率協会(JMA)は2011年に、日本国内ならびに中国、アジア諸国の生産拠点において、改善・改革に努めながら成果を積み重ねている優良企業を表彰する「GOOD FACTORY賞」を創設した。「アジア・共進化」を念頭に置いて選定を行い、これまでの7年間で44工場を表彰させていただいた。筆者はこの表彰制度の創設から関わっている。

 2017年11月、GOOD FACTORY賞を受賞した28社の事例から、その成功の秘訣を解説した『最強の工場をつくる48の工夫』(一般社団法人 日本能率協会 GOOD FACTORY研究会著、日経BP社)という書籍を出版した。

 本連載では、その書籍の中から、アジア地域で現地人従業員の自立化を促して大きな成果を上げている3社の日系現地工場を取り上げ、そのマネジメントについて紹介している。前回は、日立金属タイ工場のマネジメントの取り組みを取り上げた。

(前回の記事)「日立金属タイ工場はなぜ離職者がほぼゼロなのか」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51848

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語学力が優秀で、家族第一主義

『』(日経BP社)


 今回取り上げるのは、フィリピン・ラグナにある東芝情報機器フィリピン社(TIP)である(2011年受賞)。同社は1995年に東芝 セミコンダクター&ストレージ社の100%子会社として設立された。この地域に住む女性を中心に約7700名が働いており、PCやサーバーなどに使用されるHDD(ハードディスクドライブ)とSSD(ソリッドステートドライブ)を作っている大変大きな工場である。

 同社は会社のポリシーとして「マネジメントのオープン化とフラット化」を進めており、一般従業員とのコミュニケーション推進は工場運営の柱となっている。

 まず、フィリピンについて、概要を記しておきたい。

・国土面積:30万平方キロメートル(日本は38万平方キロメートル)

・人口:約1億人(2013年)

・宗教:カソリック83%、その他キリスト教10%、イスラム教5%

・貿易額:輸出=621億ドル(日本:21.3%、USA:14.1%、中国:13.7%)/輸入=624億ドル(中国:16.4%、USA:9.2%、日本:8.4%)(いずれも2013年度)

・経済成長率:7.2%(2013年)

 人口1億人のうち20〜30代の労働人口が厚く(ピラミッド型)、平均年齢も24〜25才と若いことが特徴だ。

 フィリピンの国民性について、受賞当時の同社社長であった矢野義行氏は以下の7つの特徴を挙げている。

1.親日的(日本の若者と同様にアニメが大好き)。
2.英語が公用語。海外労働者が人口の10%で海外志向も強い。
3.家族第一主義。「会社より家族」で、家族といれば幸福。家族を支えることが当然で、工場の従業員も皆仕送りをしている。
4.国民の大半が敬虔なキリスト教徒(カソリック)。
5.従順な性格で、高い学習能力を持っている。語学力も優秀。
6.明るくて、きれい好き。女性は働き者が多い。お祭りが大好き。

TIPの経営ポリシーを具現化する施策

 こうした国民性を踏まえて、矢野社長は様々な施策をTIPに定着させてきた。その経営ポリシーは下記の7つである。

◎TIPマネジメントの矢野7大原則

1.基本は5Sと現場主義(5ゲン主義)
2.オープンでフェアな会社運営
3. 常に仕掛けの創造。アイデアと我慢で将来の布石を打つ
4.ローカル化の加速(グローバル人財の育成、部品・治具や設備等のローカル化)
5.常にベンチマーク(良い会社に学ぶ)
6.夢を語る(ナンバー1のHDD工場に)、強みを創り出す、生み出す。
7.常に感謝を忘れない(フィリピン社会に生かされている自覚を持つ)

 どれをとっても工場運営の現場体験から生まれたもので、重要な項目ばかりである。今回はこの中から、特徴的な3つの取り組みをご紹介したい。

【現地従業員との対話会】

 1つ目は「2.オープンでフェアな会社運営」の一項目である「様々な対話会」である。現地人スタッフ、一般従業員の課題を吸い上げ、課題解決を推進するために、以下のように階層ごとに、事業部トップや工場トップと現地従業員との対話会を定期的に開催している。

(1)社長対話会(週4回):部門ごとに部長、課長、監督者、担当と社長との対話を階層別に実施。自部門での課題等をヒアリング。

(2)総務部対話会(月1回):総務部と工場の一般従業員との対話。主に勤務時の不具合や意見を吸い上げて改善へつなげる。

(3)非管理職対話会(月1回):各部門から選ばれた非管理職代表との対話。各部門での問題、課題等を協議し早期の解決につなげる。

様々な対話会


【ラインごとに毎日2回の報告会】

午後1時と午前1時のミーティング


 2つ目は「3. 常に仕掛けの創造」の一項目である「Daily 1pm/1am Meeting」である。毎日の生産状況、品質状況および異常値報告を、午後1時・午前1時と時間を決めて、毎日実施する。午後1時は社長が司会。午前1時は課長級のリードで実施している。

 午後1時のミーティングでは、ラインごとに現場責任者が前日の生産結果を報告し、その場で社長の指示を受ける。ほんの15分くらいで、全工場の報告を済ませるため、進行はスピーディである。現場責任者は、自工程の生産進捗、不良状況、問題点などを要領よくまとめ、報告するノウハウが身につき、的確に問題を把握し報告できるようになるという。社長は、何か異常の報告があればその場ですぐ指示を出し、必要があれば現場に出向いて指導を行う。

 1日2回のミーティングのメリットは、工場の全ライン担当者が集まって合同で行うために、自工程だけでなく他工程の状況も情報として入り、工場全体の動きをすべてのライン担当者が把握できることになる点にある。工場全体の動向を意識の中に入れることになるのだ。

【地域への社会的貢献活動】

 3つ目は「7.常に感謝を忘れない」の一項目であるCSR(地域への社会的貢献)だ。これは地味だが、大変重要な活動である。この活動によって地域社会が自社工場を存在価値のあるものかどうか判断する材料になると言っても良いくらいである。

 同社は地域の学校に向けて、教育支援活動を以下のように行っている。

(1)近隣小学校への教科書支援
(2)図書館の改善と書籍の寄贈
(3)東芝製パソコンを公立学校へ寄贈
(4)奨学金制度

 このうちの(1)と(2)は地域にある小中学校の生徒を対象としたもので、教科書が全員にいきわたるように寄付を行っている。このほかに、図書館を整備して蔵書を確保するための支援も行っている。図書館の整備や引っ越しなどの際には、多くの社員が参加して手伝うなど、地域に密着した活動になっている。

 (3)のパソコン寄付も同様だ。近隣の公立学校へ東芝製のパソコンを寄付し、同時にインストラクターを派遣してパソコン教室などを行うことで、地域住民のコンピュータリテラシーの向上を支援している。また、同社の社名を冠した奨学金制度(TIP奨学金制度)を設けており、学校に通えない恵まれない子供たちに対して、カレッジや職業学校に通えるように年間10名に奨学金を提供している。こうした様々な活動を通じて、同社はフィリピンのこの地になくてはならない存在となっているのだ。

 矢野氏は日本に帰国された後、東芝関連会社の社長を経て会社をリタイヤされたが、現在もフィリピン協会理事のほか、経営コンサルタントとしてフィリピンの工場改革に携わっている。矢野氏とフィリピンの今後のますますの発展を祈りたい。

(文中の会社概要、数字はすべてGOOD FACTORY賞受賞当時のものです。)

筆者:廣瀬 純男