夢の抗がん剤といわれたオプジーボ。2018年はさらなる価格下落を余儀なくされそうだ(写真:小野薬品工業)

2017年末に固まった厚生労働省の「薬価制度の抜本改革」。2021年度から2年に1度だった薬価改定を毎年改定に改めるほか、画期的な新薬に高い価格を付ける新薬創出加算制度の厳格化、後発品がすでに販売されている長期収載品の薬価引き下げなど、医療費抑制のために幅広いメニューが盛り込まれた。

その中で、またしても厚労省から“標的”とされた薬がある。小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」だ。

高額薬剤の代名詞に

オプジーボはがん細胞がかけている免疫へのブレーキを解除し、人が持つ免疫力を発揮させることでがん細胞を攻撃する。がん細胞を直接たたく従来の抗がん剤より高い治療成果があるといわれ、新たながんの治療薬として注目された。

注目されたのは治療成果だけではない。その高額な価格だ。2014年9月、皮膚がんの1つである悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として発売された当時の価格は、100ミリグラム瓶1本で約73万円。1人の患者の年間使用料金は3500万円にもなる。医療財政への影響を懸念する声が急速に高まり、オプジーボに対する値下げ圧力が強まった。

実際に2017年2月、オプジーボは価格を一気に半値に引き下げられる。根拠は、特例市場拡大再算定という医療用医薬品の引き下げルールだった。

このルールを極めて単純化して説明すれば、急拡大し大きな販売額に達した薬は、当初の価格設定時より儲かっているから値段を下げてもいいだろうという理屈。だが、この値下げは異例尽くしだった。

まず次の薬価見直しのタイミングは2018年4月に予定されていたが、それを待たずに値下げされたこと。もう1つは半額に引き下げられた根拠だ。半額への引き下げには、薬価ベースで年度販売額が1500億円以上になることが必要だが、値下げが決まった時点でオプジーボは販売額1500億円まで届くかは不透明な情勢だった。

もともとの値段が高すぎた

それでも最終的に値下げで決着したのは、もともとの値段が高すぎたという事実がある。

国は薬価を決める際に、同じ種類の病気に同じ働きをする類似薬がある場合はそれを参考にする。だが、オプジーボの場合はまったく新しい働きをする画期的な新薬であるがゆえに、2014年7月の初承認時点では類似薬は世界中どこを探してもなかった。

そこでオプジーボは原価計算方式という別の方式によって薬価が決められた。この方式では、開発期間が長く、メラノーマという対象患者数が限られていた疾患で適用されたオプジーボの価格は高くならざるをえなかった。ただ、この価格決定の過程は外からは見えず、「明らかに厚労省の相場観がなさすぎた」という批判も関係者から出ている。

そしてオプジーボは、今回の薬価改定でも値下げの対象となりそうだ。今回の理屈は、「用法用量変化再算定」という別の引き下げルールだ。

このルールでは、厚労省の承認する用法用量の変化に伴い薬の量が増えても、1日当たりの薬価が同額になるように調整する。たとえば患者に出す量が1日1錠から1日2錠になれば1錠当たりの価格は半分になる。

厚労省は2018年度から同ルールを見直し、効能追加(適応拡大)によって用量が拡大した場合もルールの対象にする方針だ。オプジーボは上市後、非小細胞肺がん(2次治療での利用)、腎細胞がん、胃がん(3次治療での利用)など順調に適応を拡大しているため、新ルールの適用は確実といわれる。

このルールに従うと、オプジーボの場合、半額引き下げ前をベースに約56%の価格引き下げになる。つまり、元の価格(100ミリグラムで約73万円)を100とすると、44(同約32万円)となる。現在の約36.5万円と比べると、約12%の値下げということになる。

しかし、オプジーボの受難はこれで終わりそうにない。さらなる値下げが有力視されているのだ。UBS証券の関篤史アナリストは「オプジーボは現行価格に比べ25%程度の引き下げを予想している」と話す。

追加引き下げの根拠になりそうなのが、外国平均価格調整制度だ。新薬の薬価改定に際して、米英独仏4カ国の医薬品価格を参照し調整するもの。

半額になったとはいえ、日本におけるオプジーボの値段は欧州に比べまだ高い。通常薬の価格が高いといわれる米国とはほぼ同列だが、薬価の厳しい英国と比べればまだ倍以上の価格差がある。今後欧州諸国を1つのベンチマークに値下げになるのではないかとみられている。

さらに2019年度に本格実施が予想される「費用対効果」の影響も気になるところだ。厚労省は今回の改革に、健康保険などから支払われる薬の費用に見合う効果があるのかを検証し、見合わない薬に関してはその価格を引き下げるというルールを盛り込んだ。オプジーボもすでにその試行的導入対象品の1つに指定されている。

小野薬品社内からは安堵する声も

2017年11月の中間決算会見で、小野薬品の相良暁社長は「オプジーボの価格がどうなるかはまだわからない」と発言しつつも、薬価制度改革の流れで、オプジーボの価格下落をもたらす可能性のある要因の1つとして、この費用対効果の影響を否定していない。

ただ、小野薬品にとってオプジーボが業績の牽引役であることに変わりない。今2018年3月期は、オプジーボの価格が半値になったために営業利益は前期比3割近い減益を見込むが、それでも利益額は500億円水準を維持する見込み。オプジーボ効果が現れる前のどん底期の2015年3月期の営業利益147億円とは雲泥の差だ。

むしろ小野薬品の社内からは「今回の抜本改革でようやく国内価格が打ち留めになる」と安堵する声も聞かれる。突然の制度見直しなど、医薬品メーカーにとって日本の薬価政策は予見性がないと評判が悪いが、「ことオプジーボに限って言えば、これからは(価格の)予見性が上がる」というのだ。

小野薬品が強気ともいえる姿勢を維持できるのは、価格下落をカバーできるほどの数量増を見込めるからだ。だが、新薬開発はそう簡単ではない。

そもそも難度の高い稀少疾患に開発対象が移り、バイオ抗がん剤・再生医療など開発コストがかさむ傾向は強まっている。このままでは医薬品メーカーが日本では薬を開発せず、市場規模が大きく予見性の高い米国など海外をより優先することにつながりかねない。

患者のためになる画期的新薬を日本から生み出しつつ、いかに持続的な医療財政を保つか。オプジーボは、この難しい二律背反に対する解が見つかっていない日本の医薬開発の実状を映し出す鏡になっている。