デジタルマーケティングエージェンシーであるアイソバー(Isobar)のグローバルCEOであるジーン・リン氏は、45以上のマーケットを管轄し5500人以上の社員を上海オフィスから統率する。エージェンシーの持株グループのCEOは、広告の中心地であるニューヨークやロンドンを拠点とすることが多い。なぜ中国に拠点を置くのか。

同氏は、米DIGIDAYのインタビューに対して、中国の広告の現状、コンサルティング会社の役割、そしてバイドゥ(Baidu)、 アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)の3社(頭文字をとってBATとして知られている)との仕事について語ってくれた。

以下、会話の内容を読みやすく編集したものを紹介する。

――なぜ上海なのか?



私自身がこの地域の出身というのもあるが、アジア太平洋全体の成長が著しい。世界経済フォーラムは、2030年までに世界のGDP(国内総生産)に貢献する都市の上位15位を発表している。そのうち都市は中国で、さらに東京とジャカルタ(インドネシア)が入っている。特にデジタルエコノミーについては、アジア太平洋地域(APAC)で大きな変動が起きている。その市場の近くに居たいし、世界はもっと新たなマーケットにも目を向けるべきだ。

――中国に見る変化とは?



まずは進化のスピードがものすごくて驚かされる。数カ月前、アリババと提携してケンタッキーフライドチキン(KFC)にキャッシュレス決済を導入した。中国では、携帯電話とWeChatさえあれば済むので、私も財布をいっさい持ち歩いていない。ほとんどのお店がWeChatかアリペイ(Alipay)に対応している。この進化は小売サービスと金融サービスに波及し、人々の生活を変えている。

――中国の広告業界の注目は?



「O2O(オンラインツーオフライン)」や「OMO(オンラインとオフラインの融合)」は注目されている。O2OやOMOを実現するためには、中国の複雑なマーケットを理解しないといけない。異なる業界・業種、仲介業者の役割や、いかにブランドのロジスティクスを強化し、ブランド体験を設計すべきか学ぶ必要がある。

中国で顕著なのは、モバイルアプリの利便性と、中国人がモバイルサービスを使い慣れていることだ。たとえば、中国ではモバイルからの配達サービスがすごいスピードで登場してきている。昨日、同僚が食料品の配達を注文していたが、わずか15分で自宅に届くという。中国ではブランド各社は、実際の取引に至るまでのサービス提供にかかる時間をいかに短縮できるかを考えている。

――BATの影響力は?



BATのおかげで、米国より中国の方がマーケティングやりやすいということはない。既存のチャネルは依然として強く、BATだけでは足りない。一方で、自動車関連と金融領域では新たなサービスが次々に生まれている。BATだけでは13億人を超える中国の人口にはリーチできないが、BATは非常に重要だ。BATそれぞれの強みを見据えて、各社とはそれに合った提携をしている。

――具体的には?



バイドゥは検索大手のため、人工知能の開発は明らかな強みだ。また、バイドゥとは、さまざまな音声認識プロジェクトでも協力している。中国には30以上の方言があるため、ブランドがユーザー体験を向上するには、各地域の方言に合わせたコミュニケーションが必要になる。そこで、中国の全省を網羅し、30以上の方言を認識できるKFCのロボット注文デバイス「Dumi」を、バイドゥと共同開発した。

――アリババとテンセントは?



アリババとは、オンラインとオフラインをつなげる取り組みを共同で行っている。たとえば、独身の日前後には、クライアントの店舗体験とオンラインプロモーションの向上に取り組んだ。また、アリババは物理的な空間への取り組みも強化しているため、リアル店舗での実証実験も行なっている。

テンセントとは、ターゲティングの向上で協力している。昨年、中国の旧正月頃に(料理関係の)ユニリーバ・フード・ソリューションズ(Unilever Food Solutions)が実施したキャンペーンでは、(旧正月中にレストランで働かなければならず)春節を自宅で家族と祝えないシェフたちにターゲットを絞った。これができたのは、テンセントのデータがあったからだ。

――代理店とコンサルの関係性は?



1999年にWwwinsコンサルティングを設立し、その会社がアイソバーの中国オフィスになった。コンサルティング企業とエージェンシーが顔を合わせる機会は増えており、クライアントが目標を実現するための選択肢が増えていると言える。コンサルティング会社側の課題は、クリエイティブとデザインにある。彼らが積極的にデザイン会社やクリエイティブエージェンシーを買収する理由はそこにある。しかし、そこで問題となるのは、強力なコンサルの企業文化とクリエイティブ文化を一体化させることだ。

コンサルティング企業はまだ四苦八苦している段階だ。一方のエージェンシー側は、インサイト、消費者行動、ブランドへの愛着、そしてそれがブランド体験全体に与える影響などについて十分な理解がある。コンサルティング会社とエージェンシーの双方が、もっと互いを取り込んだ提案をしようと拡大を進めていて、両社のあいだに競争が生まれている。選択肢が増えるクライアントにとっては良いことだろう。

Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)