新規事業創出プログラム「SAP」から生まれたロボット玩具「toio」

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 ソニーが、新しい商品を生み出す革新力を取り戻しつつある。その原動力となっているのが、新規事業創出プロジェクト「シード・アクセラレーション・プログラム(SAP)」だ。“既存領域外”をテーマに、機動力や柔軟性を生かし、すでに12のプロジェクトを市場に投入した。月内には玩具(がんぐ)「toio(トイオ)」を発売する予定。新分野でヒット商品を生み出せるか。

製品誕生の背景 
ソニーらしい新しいエンターテインメントを作りたかった」。トイオを開発した田中章愛統括課長は、製品誕生の背景をこう明かす。培ってきた技術を活用し、ユーザーが実際に触れることができるエンターテインメントを実現することにこだわった。この考えを基に、ロボット技術を活用し、自分が作ったキャラクターを自由に動かせる玩具のコンセプトが生まれた。

 トイオはゲームカートリッジを差し込む本体と、リング型のコントローラー、キューブ型ロボットで構成する。キューブ型ロボはモーターと高精度な位置認識機能を搭載し、コントローラーで自在に動かせる。キューブ上に好きなキャラクターなどを載せることで、対戦ゲームなどの遊びを創作しながら楽しめる。田中統括課長は「子どもが自ら世界観を作れる点を重視した」と話す。

1年間で事業化
 トイオの着想を得たのは5年前。ロボット技術などに携わっていた田中統括課長と、ソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)でゲームなどのインタラクションを研究するアレクシー・アンドレ氏の雑談から生まれた。その後、田中氏はSAPの立ち上げに関与する傍ら、絶対位置センサーの内蔵技術などを確立。2016年に自らSAPに応募し、1年間という短期間で事業化にこぎ着けた。

 SAPにより、エンジニアの発想をなるべく“高い純度”で事業に落とし込む仕掛けはできてきた。ただし、すでに市場投入している製品を含め、それぞれの事業規模はまだ小さく、収益への貢献には至っていない。SAPの役割について、吉田憲一郎副社長は「事業を興すカルチャーを根付かせることが重要」と断言する。ただ、それを継続するには、売上高のような具体的に目に見える成果が必要だ。

外部企業と連携
 トイオは今後1―2年かけて、外部の企業などとも連携しながらゲームタイトルを拡充する方針。さらに将来は周辺アクセサリーを増やすなど「案は練っている」(田中統括課長)。玩具という枠だけにとらわれず、さまざまな分野での応用展開も視野に入れる。田中統括課長は「『トイオ』が一つのプラットフォームとして認知されるくらい、ブランドを確立したい」と意気込む。

 14年にSAPが立ち上がり、3年半が過ぎた。全社としては18年3月期に営業最高益も見えている。SAPは次の段階へと移行できるか。そろそろ答えを出すタイミングと言えそうだ。
(文=政年佐貴恵)