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 視覚障害児や視覚障害者にとって、音によって周囲の状況を認知する技能の獲得は不可欠である。この技能には、自動車など音を発する物体を察知するだけではなく、壁のように音を発しない物体を反射音などで把握するといった高度なものも含まれる。

 しかし、視覚障害教育・リハビリテーションでの訓練では、実際の環境で経験を積み重ねる以外に有効な方法がないのが現実であった。これでは、訓練に慣れていない視覚障害者が訓練時に危険に遭遇したり、限られた生活環境の中での訓練しか行えないなど、安全性・多様性の面で改善すべき余地があった。

 このような背景を踏まえ、産総研は2003年より国立障害者リハビリテーションセンターと共同で、3次元音響と呼ばれる音のバーチャルリアリティー(VR)技術を活用し、仮想空間内で多様な訓練を安全に行える技術の研究開発を開始した。そして、05年に最初の訓練システムを世界に先駆けて完成させた。

ストレス軽減
 実証実験の過程で、音のVRを用いたこのシステムを利用すると、歩行訓練時のストレスの軽減効果や、訓練生が本来の歩行経路から外れて歩いてしまう現象についての軽減効果があることも明らかにした。

 さらに08年より、東北大学などと共同で、訓練システムの小型化、低コスト化の検討を進めた。従来の3次元音響技術では高価な専用半導体素子を用いていたが、これを普通のパソコンとソフトウエア処理だけで実現することができた。

計測精度向上
 VRに必要な、利用者の頭部位置の計測については、高価格・高精度の位置センサーの代わりに、低価格のゲームコントローラーに内蔵された低精度の位置センサーを用い、ソフトウエア処理によって位置計測の精度を向上させた。これらの改良により、この訓練システムを、特殊な装置が不要のパソコンのソフトウエアとして実現し、利用者の経済的負担を大幅に低減して、容易に導入できるようにした。

 開発した訓練システムのソフトウエアは、10年にβ版、13年に正式版を公開し、視覚障害関係団体に無償で提供している。現在も改良を継続しており、17年12月までに5回のアップデートを行い、公開してきた。提供実績は国内外90件に達している。今後も利用者からのフィードバックをもとに、改良研究を継続してアップデートを続ける予定である。

【一言メッセージ/産総研人間情報研究部門身体適応支援工学研究グループ上級主任研究員 関喜一】
北海道出身。四半世紀に渡り、視覚障害者が音によって周囲の様子を把握する能力の研究に従事。研究成果を基に、視覚障害教育・リハビリテーションで使用する聴覚訓練システムの開発と運用、視覚障害生活訓練専門職員の育成、国土交通省バリアフリー法ガイドラインの作成、情報アクセシビリティーに関する標準化などを行う。