木次線で運行されているキハ200形(筆者撮影)

2018年3月末でJR三江線の運行が終わる。現地はいま、「お名残乗車」の人々で賑わっているという。また、沿線地域では廃線跡地の活用に向けた動きも始まっているようだ。その一方で「明日は我が身」とざわついているのが、三江線の隣にあるJR木次線の沿線だ。

JR西日本が自社サイトで公開した「区間別平均通過人員および旅客運輸収入(2016年度)」によると、三江線の平均通過人員は1日あたり83人で最下位。その次に平均通過人員が少ない路線が大糸線の1日あたり100人。大糸線は北側がJR西日本の管轄、南側がJR東日本の管轄で、この数字はJR西日本側である。その次が木次線の1日あたり204人だ。

大糸線の起点、糸魚川駅は北陸新幹線も停まる。次の統計年度で営業成績は改善されているかもしれない。いっぽうの木次線には近年、大きな外的活性化要因はない。島根県では「トワイライトエクスプレス瑞風」が宍道駅に停車し、バスで雲南市を観光してくれるけれども、木次線とは関係ない。同じ島根県を通る三江線が廃止されると、平均通過人員の少ない路線として木次線が大きくクローズアップされることになる。沿線の危機感は大きい。

路線とトロッコ列車、ともに存続の危機

木次線は三江線の東側。山陰本線の宍道駅(島根県松江市)と中国山地の山中にある備後落合駅(広島県庄原市)を結ぶ。営業キロは81.9kmで、三江線より約20km短い。鉄道ファンには出雲坂根駅の三段式スイッチバックで知られている。

春から秋までトロッコ列車「奥出雲おろち号」が走る。途中駅の亀嵩駅は松本清張の小説『砂の器』に重要地点として登場する。地域輸送だけではなく、観光客も訪れる路線だ。


木次線の中心駅、木次駅付近。背景の川はヤマタノオロチ伝説で知られる斐伊川(筆者撮影)

2016年は木次線の前身、簸上(ひかみ)鉄道が開業して100周年。2017年は国鉄による木次線全通から80周年。2018年はおろち号の運行開始から20周年になる。この3年連続の周年を活かし、沿線の人々に木次線の価値を再認識してもらう試みが行われている。

おろち号の運行開始20周年は素晴らしい。とはいえ、使用車両の老朽化が懸念されている。2016年の全般検査こそクリアできたが、機関車・客車とも3年後の検査に合格できる可能性は低いという。安全と走行に必要な部品が壊れた場合、交換用部品の入手が難しくなってきたからだ。もし、致命的な故障が発生したら、3年を待たずに運行不能になるかもしれない。

つまり、木次線は「路線存続の危機」と集客の頼みの綱「トロッコ列車の危機」を同時期に抱えてしまった。

2016年3月22日、木次線開業100周年記念事業として「これからの木次線を考える会」が開催された。私も出席させていただき、「いますぐに新しい観光列車を始めるべきだ」と説いた。


奥出雲おろち号(筆者撮影)

おろち号が運行できなくなってからでは遅い。全国に観光列車が100種類以上もあるなかで、木次線に観光列車の空白期間を作ってはいけない。おろち号がある間に、2本目の観光列車を走らせれば話題になる。20年も続いたおろち号の利用者が、再び訪れるきっかけになる。


2016年春に筆者が提案した観光列車の基本プランから 定期列車に併結する運行は明知鉄道の食堂車がヒント

2本の観光列車はグレードを変えるのがよい。おろち号は乗車券と指定席料金のみのお手軽な列車だ。ファミリーや若いグループ向けである。そこで、新たな観光列車は食事やサービスを提供し客単価を上げる。もちろん提供するのは地域の名産品だ。可処分所得と可処分時間の多い熟年世代層に訴求すれば、沿線で買い物をするだろうし宿泊も期待できる。地域の活性化につながる。

車両に関しては、新造や改造の費用がないことから、既存車両に会議室テーブルを設置し、テーブルクロスなどで装飾する形で始める。成功して集客が見込めたら、あらためて専用車両を検討すればいい。そのためにも、まずは運行して実績を作ることが必要だ。

木次線は単線で、スイッチバックもある。交換駅も少なく、運行本数を増やせないという声が出るかもしれない。だとしたら、定期列車に観光列車を連結して走らせればよい。

「木次線ワイン&チーズトレイン」が不調に

2016年の秋に「木次線ワイン&チーズトレイン」という観光列車が企画された。沿線の雲南市には「ワイナリー奥出雲葡萄園」がある。また、木次乳業は日本で初めてパスチャライズ(低温殺菌牛乳)を商品化しており、東京でも高級食品店で売られている。牛乳だけでなくチーズも作っている。そこでワイン&チーズだ。車両はおろち号の一部座席が用いられた。


「木次線ワイン&チーズトレイン」立ち寄り地の奥出雲葡萄園


併設レストランのランチ(筆者撮影)

しかし、この企画は不調に終わる。20名の枠に対して参加者は最少催行人員ギリギリだった。現地集合現地解散の日帰りで1万2800円は高いという声もあったけれども、チーズ作り体験もあり、地酒の酒蔵も訪ねるというプランは、酒好きの参加者から好評だった。充実した内容からすると妥当な料金であるし、個人旅行ではできないツアーだ。となれば、問題は告知不足だろう。準備期間が短く、地元メディアなどへの広報も足りなかった。

ワインは世界の共通語。世界から集客できるはず。順調に運べば、米国カリフォルニア州の「ナパバレー・ワイントレイン」のような存在に育てられる。それが集客的には失敗。関係者一同、意気消沈であった。

雲南市と奥出雲町は諦めなかった。ワイン列車の経験を教訓とし、新たな観光列車を企画した。飯南町・雲南市・奥出雲町に住む女性が結成した「おくいずも女子旅つくる! 委員会」の協力を得て「癒やしの汽車旅 木次線 おくいずも女子旅列車」を開催した。


車内はカーペット敷き、パステルカラーのカフェ空間(筆者撮影)

2017年11月18日。ふだん使われているキハ120形気動車の室内が、カーペット敷き、ロングシートにソファカバーを被せたカフェ空間になった。満席の女子旅列車は定期列車に増結される形で出雲横田まで往復した。行きの車内では地元のカフェが特製スイーツを提供。帰りの車内では地元名産の和スイーツを配布。くつろぎのカフェ空間、友人の部屋に遊びに行ったような居心地の良さ。地元の楽しさを知り尽くした女子ならではの企画だ。

出雲横田でのお弁当、観光体験を含めて、代金は8800円。前回よりは安くなったが、若い女性にとってはちょっと高めだったようで、今回も集客には苦労したという。また、当初は2回開催予定だったけれども1回になった。車内装飾用部材の一部がJR西日本の難燃化の規定に合わず、代用品の手配が間に合わなかったからだ。

地域とのつながりができた

最少催行人員15名のところ、今回は満席の25名。その人数で儲かったとか、地域の活性化ができたとかを語れない。しかし、この列車の運行は大きな意味があったと思う。


女子旅列車の運行を知って、地元の祭り関係者が駅に集まった(筆者撮影)

その第1の理由は、地域と木次線のつながりを作ったこと。私のようなよそ者の提案ではなく、地域の人々が立案し、地域の商店、食材を使ったことだ。木次線ではおもしろいことができる。木次線に関わるとビジネスに結びつく。自分は木次線に乗らないけれど、木次線に関わると利益がある。そういう認識が広まるきっかけになった。

第2の理由は、JR西日本の米子支社、本社に木次線をアピールできたこと。地域が木次線と結びついて、さまざまな集客活動をしている。成功すれば、木次線だけではなく、近畿圏、山陽圏から木次線へ往復する鉄道利用者も増える。木次線がJR西日本にとっても必要な存在だと認知される要素となった。

第3の理由は、地域と、JR西日本の地元の所管部署である木次鉄道部の絆が強くなったこと。実は、ワイントレインの時に普通車両のテーブル設置を提案したところ「できない」の一点張りだった。JR西日本に限らず、大企業は稟議に時間がかかり、前例のない事例を始めにくい。地方の第三セクター鉄道では社長の鶴の一声でできることが、JR西日本ではできない。

しかし、今回は地域と木次鉄道部の丁寧で粘り強い交渉の成果で、日本初となるカーペット敷きカフェトレインが実現した。


観光プログラムは扇子の文字入れ体験だった(筆者撮影)

ワイントレインの頃の木次鉄道部は頑な印象だったけれど、今回は木次鉄道部長も同行し、女性社員も手伝っていた。ロングシートのソファに鎮座し、参加者にかわいがられていた大きなぬいぐるみは、なんと、木次鉄道部長宅の私物だったそうだ。

第4の理由は、「JR西日本では、こんなにおもしろい企画列車を作れる」という事例ができたこと。木次鉄道部長は「団体貸し切り扱いだし、内部がどうであろうと、安全に利用していただけるなら問題ない」という。これは木次線沿線以外の自治体も、路線活性化の参考となる事例となった。

観光列車は地域活性化の手段

初心に立ち戻り、木次線の観光列車が走る理由は何だったか。観光列車で儲けよう。地域を活性化しよう、ではない。本来の目的は、木次線を廃線の危機にさらさないため。つまり、観光列車は目的ではなく、木次線存続、活性化の手段だ。そのシンボルとして観光列車を作り、地域の関心を高めていく。

その意味で「癒やしの汽車旅 木次線 おくいずも女子旅列車」は成功だった。ワイントレインにくじけず、次の手を打った雲南市と奥出雲町も粋だ。

取材の帰り、ある職員が私に言った。

「また何かやりますから、来てくださいね」

次の知らせが楽しみで仕方ない。2018年も、引き続き木次線、そしてローカル線と関わる地域の取り組みに注目していきたい。