第62回有馬記念を制したキタサンブラック。ラストランを飾った(写真:共同通信社)

2017年12月24日。中央競馬の暮れの大一番となるグランプリ、G蟻62回有馬記念が中山競馬場(千葉県船橋市)で行われた。競馬の枠を超えた日本の年末を代表する国民的イベントで、結果は一般的なニュースだけでなくワイドショーでも取り上げられた。結果は周知のようにキタサンブラックが鮮やかに逃げ切りラストランを飾った。決してエリートとは言えなかったキタサンブラックは実績を積み重ねて最後にJRA(日本中央競馬会)最多タイのG7勝目を挙げ、歴代の賞金王にもなった。

役者もそろっていた。スーパージョッキー武豊騎手が騎乗し、馬主は国民的歌手の北島三郎さんが会長を務める大野商事。キタサンブラックは競馬ファン以外にも認知された希代のアイドルホースとなった。武豊騎手が公開枠順抽選会で絶好の2番枠を引き当ててファンを沸かせ、完璧な騎乗で花道を飾った。北島さんはレース後のお別れセレモニーで新曲の「ありがとう キタサンブラック」を映像で披露し、「まつり」を熱唱した。10万人を超えるファンが詰め掛け、セレモニーには5万人が残ってキタサンブラックとの別れを惜しんだ。


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「歌いませんよ」と言い続けていた武豊騎手が最後はマイクを持った。壇上には菊花賞の時の北村宏司騎手や、調教パートナーを務めた黒岩悠騎手の姿もあった。

「キタサンまつり」の最高のハッピーエンドで場内は温かい雰囲気に包まれた。今年1月9日に発表された2017年JRA賞では年度代表馬に選出された。2年連続の年度代表馬は史上7頭目の快挙。キタサンブラックは今春から種牡馬(しゅぼば・繁殖用の牡馬)となる。次は第2のキタサンブラックの誕生を期待したい。

有馬記念「買い控え」の懸念

中山競馬場の当日の入場者は10万720人で前年比で2.1%増。10万人の大台を回復した。ただ、有馬記念の全国の馬券の売り上げは441億9957万5700円で前年比で1.6%減だった。2017年のJRAの売り上げは堅調に推移し2兆7476億6248万4800円と前年比で2.9%増。G汽譟璽垢盍存の平地(障害レース以外の競走)21レース中、13レースで前年より売り上げを伸ばしていた。この時点で有馬記念が前年比で微減だったことは関係者の誰もがあることを懸念した。「買い控え」である。

有馬記念は世界一馬券が売れるレースだ。JRAは1980年から1年の開催の最終週に有馬記念を置いた。ファン投票のグランプリをフィナーレとして定着させ、国民的なレースに育ててきた。1990年にはオグリキャップの劇的なラストランVもあった。サクラローレルが勝った1996年には875億104万2400円と、中央競馬の1レースの売り上げレコードも記録した。毎年名勝負が繰り広げられ、競馬ファンでなくても最後の有馬記念には参加するという人も多い。最後の大一番というムードが一層盛り上がる。

ところが、昨年は「中央競馬のフィナーレを飾る」という前置きが使えなかった。日程変更で有馬記念の4日後の12月28日にも開催があり、新設の2歳G汽曄璽廛侫Sが行われることになった。平日の木曜開催。しかも、一般的には仕事納めの日である。さらに、翌29日には大井競馬場でダート最強馬決定戦の交流G掬豕大賞典がある。28日の開催が東京大賞典にどう影響を及ぼすかも注目された。

なぜ新設G気有馬記念後に行われることになったのか。その流れを簡単に述べたい。

もともと12月28日から1月4日までは中央競馬は開催しないというのが慣例だった。これは1991年に農水省と旧自治省が局長通達という形で出した。祝日の開催も年2日に限定されていた。これは地方競馬との「すみ分け」のためだった。12月29日に固定されていた大井の東京大賞典を含めて年末年始は地方の収益確保の場と規定したからだ。

しかし、1998年から始まった中央競馬の売り上げ減で状況が一変。JRAは年末年始と祝日開催へかじを切った。2003年には有馬記念を28日に開催。その後、規制緩和の観点から2006年11月の農水省生産局長通達で地方側と十分な調整ができた場合、祝日使用は年4日以内まで可能となった。

2008年、2014年は有馬記念を28日に開催した。祝日を含めた3日連続開催も年4回定着した。これは2010年以降、IPAT(インターネット上で馬券の購入などができるJRAのサービス)の地方発売を含めて中央・地方のネット投票による相互発売が大幅に拡大し、ようやく中央と地方の「ウイン・ウイン」の関係が成熟してきたからだった。とはいえ1991年の通達は生きていたのだ。

そして、2015年の競馬法改正に決定的な文言が含まれた。この時は海外競馬の国内発売がクローズアップされたが、競馬法施行規則2条2項(1)で定める競馬を開催できる日取りは「日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、1月5日から同月7日まで」に加えて「または12月28日のいずれかの日取り」とされた。つまり、12月28日は平日だったとしても中央競馬を開催できる日と規定されたのだ。

ホープフルSがG犠些覆28日開催に

JRAはあくまで12月28日が日曜になった時だけ有馬記念を問題なく開催したいということを望んでいただけだった。恒久的に12月28日に競馬を開催したいという意思を持っていたのは中山馬主協会だ。「競馬の日」として12月28日に有馬記念を固定するという構想を提示した。だが、「仕事納め」の平日になるケースがある12月28日に有馬記念を固定して開催するというのは一般的に考えて無理があるのは当然だ。

朝日杯フューチュリティステークス(FS)が2014年から中山競馬場から阪神競馬場に移り、中山で開催するG気1レース減っていた。JRAは協会の顔を立てる意味でもホープフルSをG気望些覆気擦12月28日に開催することを決めた。いわば折衷案であり、これが事のいきさつである。

有馬記念前に取材した限り、厩舎関係者、ジョッキー、ファンがこの12月28日の開催を歓迎するという声はほとんど聞かれなかった。何より、有馬記念を年末最後の風物詩として定着させてきたのはJRAの努力だった。だからこそ有馬記念は国民的レースとなったのだ。あのキタサンブラックの劇的なラストランで終わっていればという声すら聞かれた。

中央と地方にとって「ウイン・ウイン」でない28日と29日の連戦の日程は痛み分けの可能性すらあった。JRA職員でも疑問視していた人は多かった。JRA内部から「平日に開催していいという法律のお墨付きを得た。今後へ向けての新しい展望になるかもしれない」という声が聞かれたが、それはあくまで将来的なことである。

劇的な「キタサンまつり」の後で蛇足のような「祭り」をはさんで、最後に地方競馬の「祭り」までにぎわうのか。

2018年もすでに12月28日のホープフルS開催が決定しており、この日程変更が失敗に終わってももう一年我慢しなければならないことも考えられた。有馬記念の売り上げ減は本当に「買い控え」だったのか。ホープフルSと東京大賞典の売り上げがどうなるかは大きな焦点だった。

ここまで悲観的な材料を並べてきたが、結果は簡単に言えば「取り越し苦労」だった。ホープフルSの売り上げは112億4769万4500円でG兇世辰唇貂鯒との比較で362.9%の大幅増は当然だが、日曜日の12月17日に阪神で開催された同じ2歳G気猟日杯FSが133億9761万2200円で、平日開催ということを考慮すれば比較しても悪くない数字だ。3月末に中京で開催された高松宮記念の111億4717万7100円よりもホープフルSは上回っている。

12月28日の入場者数は3万77人で朝日杯FS時の阪神競馬場の2万6513人よりも多い。JRA関係者でさえ「80億円程度で100億円を超えれば十分」という見方をしている人が多かっただけに大成功と言っていい。少なくとも平日でもG気離棔璽澄璽薀ぅ鵑噺世┐100億円は上回った。

さらに29日に大井競馬場で行われた東京大賞典は42億7307万1200円で一昨年と比べて14.5%増。地方競馬の1レースの売り上げレコードを記録した。大井競馬場の29日の売り上げ70億4365万7260円も地方競馬の開催日のレコードとなった。

「祭り」があれば競馬ファンは楽しむ

全く問題ないどころかこちらの想像をはるかに上回る結果だった。有馬記念の売り上げ微減はホープフルSと東京大賞典を控えて確かにムード的に少し買い方をセーブした人はいたのかもしれないが、残った2つのG気稜笋蠑紊欧鮓れば全体的には大きな問題ではなかったという結果が如実に現れた。

我々が有馬記念を締めくくりにした方がいいと考えていたのはもはや情緒的すぎるということだろうか。中央競馬の一年の終わりは有馬記念で締めくくらなければならないというのは、日本人なら大みそかは茶の間でこたつに入って紅白歌合戦を見るべきというようなものなのかもしれない。時代は変わったということか。

目の前にG気箸いΑ嶌廚蝓廚あれば、そこに面白い競馬があれば楽しむ。競馬ファンの懐の深さを感じた。

筆者は28日に中山競馬場、29日に大井競馬場で取材していた。好天に恵まれたこともあったが平日とは思えないにぎわいがあった。東京大賞典当日は日本競馬最多のG議婿11勝を挙げたコパノリッキーが引退の花道を飾った。大勢のファンが残っていた。心から競馬を楽しむ大勢のファンの姿を目の当たりにした。

昨年のJRAの総売り上げと「お客さま総数」の数字を分析すると昨年末の結果があらためて見えてくる。2017年の売得金(総売り上げ)は2兆7476億6248万4800円で前年比で2.9%増。

このうち現金投票は9080億7233万6900円で前年比2.7%減。ネット投票は1兆8395億9014万7900円で5.9%増。このネット投票の数字に海外競馬の売得金101億7709万3100円は含まれていない。実に売得金の3分の2以上をネット投票が占めている。

中央競馬に参加したファンの合計を示すお客さま総数は延べ1億7772万4662人で前年比4.4%増。2008年の1億7768万0929人を上回る過去最高を記録した。

内訳は開催競馬場が617万5238人(前年比2%減)、パークウインズ(開催していない時の競馬場)が633万2647人(前年比1・3%減)、ウインズ(場外馬券発売所)は4607万1299人(前年比1・3%減)。これに対してネット投票は1億1914万5478人で前年比7・4%増だった。

ネット投票の伸びが顕著に

お客さま総数もネット投票が全体の3分の2を超えた。もちろん12月28日に時間をつくって中山競馬場やウインズに出掛けた人も多かったはずだ。だが、現状は全体の3分の2以上がネット投票の参加になっている。12月28日が仕事納めだった人もスマホで簡単に馬券を買うことはできた。

あらためて数字を見るとファンは手軽に競馬を楽しんでいる。東京大賞典もJRAのネット投票で買える。地方の交流重賞(中央、地方の所属に関係なく出走できる競走)はJRAのネット投票で売り上げを伸ばしてきた。東京大賞典の売り上げレコードの大きな要因でもある。だからこそホープフルSと東京大賞典は堅調に売り上げを伸ばした。

今回の有馬記念後の12月28日開催は、私たち伝える側が少し情緒的に反応しすぎたのだろうか。年末の風物詩として有馬記念が中央競馬の1年のフィナーレを飾る意味を大事にしてほしいと思う半面、これだけホープフルSと東京大賞典で売り上げがあればファンのニーズにも応えなければならないとも思う。年末の競馬は変わるのだろうか。これが定着するのだろうか。

追い風は吹いた。今後、12月28日が日曜日と重なる場合は有馬記念が28日でホープフルSは前日か同日開催か。これが新たな焦点になるだろう。ネット投票が競馬を、ファンの投票行動を確実に変えていることをあらためて感じた。

ただ、有馬記念の特別感を損なうことがあってはならない。有馬記念が特別なものだからこそ、年末の「祭り」も盛り上がる。JRAもそこは十分意識しているはずだ。そのことだけは注視し続けなければならない。