キャリアも幸せな結婚も、そして美貌も。

女が望む全てのものを手にし、したたかに生きる女たちがいる。

それは、東京の恋愛市場においてトップクラスに君臨する女子アナたちだ。

清純という仮面をかぶりながら、密かに野心を燃やす彼女たち。それは計算なのか、天然なのか。

そして彼女たちはどうやって、全てのモノを手にしようとするのだろう…?

局の絶対的エース橘花凛と同期でありながら、地味枠採用の田口レミ。花凛への嫉妬から大物政治家・幸一郎を狙うものの、逆に花凛から仕掛けられたトラップにはまってしまう。




花凛と幸一郎さんの一件があって以来、私はぼうっと空を眺めることが多くなった。

―花凛には、永遠に敵わない。

しかしそんなこと、最初から知っていたのだ。

でも…どうしてだろう?同じアナウンサーという土俵に上がり、自分も少し有名になってしまった途端に、自分もいつか花凛のような立場に上り詰められると思っていた。

あの一件以来、世間からの評価はこうなった。

花凛は、彼氏を奪われた可哀想な女子アナ。
私は、同期の男を奪った最低な女子アナ。

人の噂も七十五日、なんて言うけれど、噂は収束する兆しが見えない。

当の本人である花凛は「レミちゃんは、大好きな同期なので」なんて言い出す始末で、私への風当たりは強くなる一方だった。

「もう、辞めちゃおうかな・・」

そもそも、女子アナなんて身にあまる職業だったのかもしれない。そう投げやりになった時、ポケットに入っていた携帯が震えた。

それは、航平さんからだった。


レミに救世主現る!?航平が電話をしてきた理由とは・・


慶應のエース・航平からの予想外のオファー


「・・もしもし。」

「あぁ、レミちゃん?久しぶり。何か色々大変そうだけど...大丈夫かなと思って。」

いつも変わらぬ優しい航平さんの声に、私は思わず涙腺が緩む。

「何とかやってます。航平さんは、お元気ですか?」

「うん、元気だよ。昔から幸一郎は女癖が悪くて...。迷惑かけちゃってごめんね。」

謝るのは、航平さんではない。本来ならば、あの二股野郎・幸一郎が謝るべきはずなのに、彼からは何の連絡もないのだ。

「ところで突然なんだけどさ。レミちゃんは、今の局を辞めてフリーになる気ないの?」

予想外の航平の発言に、手から携帯が滑り落ちそうになり、慌てて握りしめる。

「ふ、フリー?」
「そう、フリー。電話でも何だから、会って話さない?」

私と航平は『銀座 くどう』で落ち合う約束をした。




完全個室、1日3組限定の『銀座 くどう』。シンプルながらも極上の食材のみを取り扱い、素材本来の味が楽しめる店だ。

「レミちゃん、ちょっと痩せた?今夜は美味しい料理を、お腹いっぱい食べよう!」

相変わらず爽やかで優しい航平を見て、花凛への嫉妬、そして蹴落としたいという欲望のためだけに幸一郎のほうへいったことを、私は後悔し始めた。

「いやぁ〜まさかレミちゃんまで幸一郎のことが好きだなんて思ってなかったよ。」

航平の発言に、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。口が裂けても、花凛に対するコンプレックスは言えない。

「それよりこの前電話で話した一件なんだけど。レミちゃん、フリーに転向すること、考えたことないの?」

急にトーンダウンする航平に、思わずこちらも声が小さくなる。

「考えたことないと言えば嘘になるけれど...でもほら、私なんてフリーになってもやっていけないと思うから。」

私には、自信がなかったのだ。

会社という大きな組織を飛び出すこと。そして局という看板なしで、個人の名前だけで勝負できる自信なんて、どこにもない。

「・・レミちゃん、そんな考えもったいないよ。」

顔を上げると、航平が真っ直ぐこちらを見つめていた。


航平が提示した条件。花凛に勝つには勝負すべきなのか?


「実は、知人が新たなアナウンサーの事務所を立ち上げることになって、そこの事務所の看板になってくれる女性アナウンサーを探しているんだよ。」

その知人とは大手芸能プロダクションの社長であり、新たにアナウンサー専用の事務所を子会社として作るという。

身に余るほどの、良い話だ。

権力者が贔屓にする事務所か否か。それによってフリー転向後の明暗が分かれることくらい、私でも知っている。

「でも...何で私に?」

私だって一応大手キー局のアナウンサーではあるが、花凛の方が認知度も人気度も高い。

花凛は「フリーになれば年収5,000万は下らない」という憶測を呼んでいるくらいだ。

「それこそ、花凛の方が稼ぎ頭になるじゃないですか。」

航平のオファーは私にとっては有難いものだった。しかし、私より花凛の方が先方にとってもプラスになるに決まっている。

「それはそうだけど、僕は花凛よりレミちゃんの方がフリーになったら強いと思っているんだよね。花凛はたしかに華があるしスター級ではあるけれど、それがフリーになって成功するとは限らない、ってその知人も言ってたよ。」

有名女子アナの顔が、何人か頭に浮かぶ。

たしかに、局に在籍中は絶大な人気を誇っていたのにも関わらず、フリーになった途端に想像以上に泣かず飛ばずで、今では全く地上波で見かけない人も多い。

「それに、言いにくいんだけど...今回の一件で、レミちゃんのイメージは落ちているでしょ?フリーになれば、それを逆手に取ることもできるし、上手くいけば花凛よりレミちゃんの方が売れると思う。」

-花凛に、勝てるチャンス・・?

その航平の話に、平静を装いながら、日本酒を飲みつつ静かに聞いていた。




「フリー、かぁ。」

航平にマンションの下まで送ってもらい、タクシーを見送りながら、しばらく夜空を見上げて佇む。

今の局にいれば、会社員として組織に守ってもらえる。毎月決まったお給料に、特別手当、そしてボーナス。

何よりも、局という大きな看板がある。

しかし一度しかない人生、大きな勝負に出てみるのもありなのではないだろうか。

-花凛に勝てる、チャンスかもしれない。

強い風が吹いた。

外見では、勝てる可能性はない。私にとって最後に大逆転のチャンスを掴めるのは、仕事なのではないだろうか。

大きく息を吸い込み、もう一度夜空を見上げた。

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レミはフリーに転向するのか?花凛の動向は?