恋多きタイプの女性が、結婚相談所で結婚相手を見つけるのはとても難しい(写真:【Tig.】Tokyo image groups / PIXTA)

「横田さんとのお付き合いは、どう?」

昨年10月に見合いをし、交際に入っていた横田徹(46歳、仮名)との交際状況を聞くと武井由美(39歳、仮名)は、いったん口ごもり、とても言い出しづらそうに、こう切り出した。

なぜ“交際終了”となった相手と?


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「横田さんとメールのやり取りはしているんですが、最近はあまりお会いしていなくて。それで、あの実は……佐伯さん(49歳、仮名)と復活したというか。1カ月くらい前にメールをいただいて、ここのところ頻繁にお会いしているんです。なんだかこちらがうまくいきそうで……」

「えっ? 佐伯さんって、あの“交際終了”になった佐伯さん?」

「はい」

佐伯は8月に見合いをした相手だ。交際に入ったのだが、5回会ったところで向こうから“交際終了”を出してきた。彼女は、見合い直後から彼に夢中になっていたので、そのときは見ていて気の毒なくらい落ち込んでいた。

横田とは佐伯との交際が終わった直後に見合いをし、交際に入っていた。横田と交際していたはずの由美が、なぜ“交際終了”になった佐伯とまた会っているのか?

そもそも交際終了になった相手に連絡を入れるのは、結婚相談所内ではタブーな行為とされている。放置すればストーカー行為にもつながるからだ。ペナルティが科される場合もある。

由美もルール違反だとわかっていたから、私には黙って佐伯に会っていたのだろう。ただ、大好きだったのに振られた相手からの連絡。ルール違反だとわかっていても、二つ返事で会いに行ったに違いない。

「実は、最近結婚の話も出てきているんです」

由美はうれしさを押し殺すように言った。

好きな相手との結婚。本来なら手放しで喜ぶべきことだ。しかし今回のケースはいかがなものか。ルール違反もさることながら、佐伯の取った行動が私にはどうも腑に落ちなかった。最初から、交際終了にした後に由美に連絡を入れるつもりではなかったのか?

「佐伯さんは、相談所にまだ登録しているの?」

「はい、でも今は休会しているって言ってました」

なるほど。彼のもくろみが見えた気がした。見合いをして結婚できそうな女性に当たりをつけ、いったん交際を終了させてから自分は“休会”をする。休会している会員に関して相談所は、活動状況を把握、管理しなくなる。交際終了した女性に再び連絡を取っていることも知らないだろうし、“休会”からそのまま“退会”をしたとしても、相談所は結婚を決めての退会だとは思わない。由美と結婚までたどりつけなかったら、休会を解除してまた活動を復活させればいい。

このやり方なら、結婚相談所で相手を見つけ、成婚料を払わずに退会するのを、仲人に怪しまれることなくやってのけることができる。

佐伯の相談所に連絡を入れようかとも思ったが、うまくいっている2人にここで水を差すのもはばかられた。また、このまま2人が結婚するかどうかもわからない。というよりもこの2人は結婚に至らないような気がした。ルールを犯す人間は、どこかで馬脚を露わすものだ。

ひとまずここは2人の成り行きを見守り、本当に結婚することになったら、ことの経緯を佐伯の相談所に報告することにした。

結婚を難しくさせる3タイプの女性

仲人の経験則から言えば、30代40代になっても独身でいる女性は大きく3つのタイプに分けられる。

まずは、恋多き女タイプ。恋愛に刺激とドラマを求めるので、好きになる相手を見誤ることが多い。自分を結婚相手に選ばない男性ばかりを好きになり、気がつけば適齢期を過ぎている。次に、高学歴、高収入のバリキャリ。なんでも論理的に考える癖があるので、恋愛も頭で考えてしまうから気持ちが動かない。年を重ねていくうちに何を選択すれば結婚できるのかがわからなくなっている。3つ目は、これまで一度も恋愛をしてこなかったタイプ。経験がないから、何からどう恋愛を始めたらいいのか、そのやり方がわからない。

由美は、典型的な恋多き女タイプだった。大学を卒業後、イタリアに語学留学をし、そこで宝石に魅せられて、帰国後に現在のジュエリー会社に入った。自社のシンプルな高級ジュエリーをいつもさりげなく身に着けているおしゃれな女性だ。学生時代も社会に出てからも、たくさんの刺激的な恋愛をし、20代後半で一度婚約したものの、その彼とは最後の最後で結婚には踏み切れずに自分から婚約破棄をした。

由美のような恋多きタイプが、結婚相談所で結婚相手を見つけるのは、とても難しい。相談所の場合まずは条件で相手を選び、ホテルのティールームにお見合いに行く、いわば安全地帯での婚活だからだ。電光石火の恋愛ドラマは、そこでは起こらない。

ただ、佐伯との出会いには、ドラマとまではいかないものの、それまでの見合いとは違ったドキッとする要素がいくつかあった。

実は由美は、最初佐伯から申し込まれた見合いを受諾するべきかどうか迷っていた。上場企業に勤めていて年収はよかったが、10歳年上、父はすでに他界し、老いた母との二人暮らし。住居が二世帯になっていた。結婚後は同居のようなものだろう。ただ自分も39歳。条件にこだわっていられる年齢ではない。「会ってみるだけ、会ってみます」最初は、そんな気持ちで見合いに臨んだ。

ところがホテルのティールームの前に立っていた彼を見つけるなり、彼女の顔が華やいだ。

私も引き合わせで同伴したのだが、現れた佐伯のダンディぶりに目を見張った。長身に仕立てのいいスーツをスラリと着こなし、写真よりもずっと若々しい男性だった。バツイチ、子どもなし。生活感を感じさせない身のこなしは、経済的に余裕がある中で、子育てをせずに独身生活を謳歌してきたからか。

見合いの後、由美は弾んだ声で電話をかけてきた。

「佐伯さん、私と出身大学が同じだったんですよ。こういうのをご縁っていうんですかね。お見合いが終わって別れ際に、『またぜひお会いしましょう。××(大学があった街)にも行ってみませんか?』とおっしゃっていただけたので、きっと交際希望がくると思います。私も交際希望でお願いします」

その後“交際”となり、デートを重ねるようになり、由美はどんどん佐伯に引かれていった。

「佐伯さんが連れて行ってくださるお店って、隠れ家的なところが多くてすごくセンスがいいんですよ」

「この間行ったレストランは、丸テーブルにイスを隣り合わせで座ったんですね。そしたら、“遠いな、もっとこっちにおいで”っていって、私のイスを自分のほうにグッと引き寄せて、さりげなく私の肩を抱いてきた。久しぶりになんだかドキッとしちゃいました。ただ、かなり女慣れしている感じなので、そこは要注意ですね」

“要注意”と言いながらも、声が弾んでいて、すでに夢中になっている様子がうかがえた。

ところが、5回のデートを終えたときに“交際終了”となったのだ。

“アメとムチ”で気持ちをワシづかみ

なぜ由美が自分に夢中なのを知りながら、佐伯は“交際終了”を出してきたのか。そして、その後にまた“交際復活”のメールを入れてきたのか。一度どん底に落とし、次に甘い言葉ですくい上げる。佐伯が意図的に“アメとムチ”を狙ったかどうかは定かではないが、ここにも作為的なものを私は感じてしまった。

そうして交際を復活させた由美は、佐伯にますます夢中になっていった。対して、交際中だった横田とは、まったく会わなくなっていった。

私はあるとき、由美に言った。

「今横田さんとは、お会いしていないんでしょう?」

「はい。でもメールのやり取りは、3日に1回くらいはしています」

「由美さんの中でもう横田さんとの結婚は考えられないなら、このまま引っ張っているのは失礼じゃないかしら。結婚相談所は、近い将来に結婚を見据えてお付き合いする場所だから、彼の時間も無駄にしてしまう。交際終了にしたら?」

「そうですよね。ただ、佐伯さんと結婚できるかどうか今はわからないし。横田さんをお断りするのは、もう少し具体的に佐伯さんとの結婚が見えてきたらでもいいですか?」

その後由美は、佐伯との結婚をより確実なものにするために、外堀を埋める作戦に出た。逗子に日帰りデートをした帰り道、由美の地元を案内し、自宅に寄って両親に佐伯を紹介した。突然のことだったが、佐伯は嫌がる素振りも見せず、由美の両親の前で紳士然としたあいさつをした。

「今お嬢様とお付き合いさせていただいている佐伯と申します。とてもすてきな女性ですし、大切に思っています。日を改めましてお許しをいただきに参りますが、結婚も真剣に考えております」

由美は、“結婚”という言葉を佐伯が出してくれたことがうれしかったようで、このことをその日の夜に、私にメールで報告をしてきた。

おカネに関する考え方の違い

ところが、結婚という言葉が出て、具体的にそこに向かう話が進んでいくうちに、だんだんと雲行きが怪しくなってきた。結婚生活の話になると2人の考え方にかみ合わない部分が多く出てくるようになったからだ。ことおカネに関する考え方が大きく違っていた。

由美は私に言った。

「佐伯さんは、『結婚したら、生活費をキミに預けるけれど、僕が15万、あなたが15万、母が15万、45万で生活できるかな』と言ってきたんですね」

つまり、3人できれいに等分して出し合う。しかし、由美は、年老いた母からも同じ金額の生活費を取ろうとしている彼の了見が理解できなかった。

また、結婚したら今の仕事を辞めるつもりでいた。宝石のようなきれいなものに囲まれて仕事をするのは楽しい。しかし、今の職場は人間関係がうまくいっていなかった。女店長の性格がキツく、販売員がどんどん辞めていくので、入れ替わりが激しい。新人に仕事を教え面倒な仕事を処理するのは由美の役目だった。立ちっぱなしの仕事も、今後年齢的にキツくなっていくだろう。今と同じだけの給料を稼げなくてもいいから、自分にできる好きな仕事を見つけたい。そんな転職を見据えての婚活でもあった。

「私が、『結婚したら今の会社を辞めたい』と言ったら、すごく反対されたんです。『えっ? 働かないの? 僕は専業主婦は望んでいないよ』って。だから私、『働くけれど、今の会社は辞めて転職をしたい』と言ったんですね。そうしたら『転職はいいけれど、パートタイムの仕事は困るな』って言うんですよ」

すると、そこから佐伯は持論を展開しだした。

「女性は自立していてこそ、魅力的だ。僕が今まで付き合ってきた女性は、生き生きとプライドを持って仕事をしていた人たちばかりだった。食事をした後に、『ごちそうさま』と笑顔で言って財布を開かないような女性は、依存心が強く、自分のことは棚上げして男性に多くを求めすぎる。結婚はお互いが生活を築いていくものなのだから、立場はフィフティフィフティ。そう考えられる女性と僕は結婚したい」

実際、佐伯とのデートは、食事をするときっちり割り勘ではないものの、由美も半分弱は支払いをしていたという。

「どうしてこんなにおカネのことばかり言うんだろう、って。佐伯さんの年収なら、ぜいたくをしなければ奥さんが働かなくてもやっていけるはず。もちろん私は、専業主婦になるつもりはありませんけど」

由美は、何かにつけておカネの話をしてくる佐伯に疑問を感じ、燃え上がっていた気持ちもしだいにクールダウンしていった。

そんなときに、メールのやり取りだけはしていた横田から、「久しぶりに会いませんか?」とメールが来たので、神楽坂で一緒に食事をした。

そこで由美は、聞いてみた。

「横田さんは、結婚した後に女性に働いていてほしいほうですか?」

「そうですね。僕は専業主婦は好きじゃない。なんらかの形で女性は社会とつながっていたほうがいいと思うから、働いていてほしいです」

「それって、結婚後も女性がフルタイムで働くということですか?」

「働きたければそれでもいいけれど、自分の好きなものを買える、お小遣い程度稼いでくれればいいですよ。この年齢だと、子どもは授かれるかどうかわからないですしね」

長い年月の結婚生活を考えると…

この話を聞いて、由美はなんだかほっとして肩の力が抜けたという。佐伯と横田、女性をドキドキさせ夢中にさせるテクニックは、確かに佐伯がずば抜けて長けている。おしゃれな店も知っている。見た目も佐伯のほうが断然すてきだ。

しかし、長い年月の結婚生活を考えたら、何かにつけおカネにうるさい佐伯と暮らすよりも、日常に転がっている小さな幸せを積み立てながら、のんびりと横田と暮らしたほうが穏やかで楽しいのではないだろうか。

由美は私に言った。

「もう一度真剣に横田さんと向き合ってみます」

由美が、“結婚はやっぱり考えられない”ことを告げると、佐伯は慌ててその理由を問いただしてきたそうだ。

「どうして急にそんなことを言い出すの? もしかして、この間話した家計のこと? じゃあ、僕が20万、キミが10万、お袋が10万の40万で生活すればいいんじゃないの?」

佐伯はどこまでもおカネに固執してきた。

後にわかったことだが、佐伯はすでに相談所を退会していた。佐伯の相談所は休会の場合、月に数百円程度の在籍料を払わなければいけなかったようで、由美と結婚できると踏んだ彼は、その在籍料を払うのも惜しくなったのだろう。

結局佐伯との結婚を取りやめ、現在、由美は横田と結婚に向けての“真剣交際”に入っている。

ドラマチックな恋愛が大好きだった由美の終着点は、穏やかな日常を紡ぐ結婚になりそうだ。