「オムニ7 HP」より

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●バズワード化している「オムニチャネル」

 ビジネス誌を眺めていると、あらゆるところで「オムニチャネル」という文字を目にする。オムニチャネルのバズワード(定義や意味があいまいな言葉)化が進んでいる。これは「デジタルマーケティング」なども同様で、新たなビジネスタームはその定義があいまいであるため、なんでもかんでもオムニチャネルやデジタルマーケティングと呼ぶことが多い。本稿では、そもそもオムニチャネルとはなんなのか、どうしてオムニチャネルはうまくいかないのかを考えてみたい。

●チャネルの進化

 そもそも、チャネル(購買の場所)は以下のように4段階で進化、発展してきている。

1.シングルチャネル
2.マルチチャネル
3.クロスチャネル
4.オムニチャネル

 古く物々交換から始まり、長い間チャネルはシングルチャネルだった。市場であれ、スーパーであれ、リアル店舗が購買の場所(チャネル)であったのだ。ところが、1995年に米国でAmazonがサービスを開始し、日本でも2000年にサービスが開始された。ここで、ECチャネルという新たなチャネルが誕生する。当初は、カタログ通販のウェブ版のような扱いだったが、ご存じの通り消費者の購買チャネルとしてあっという間に浸透した。次第に、流通小売業や製造業もECチャネルを開設し、リアル店舗とECチャネルの複数のチャネルを持つようになった。

 これがマルチチャネルである。日本企業のなかには、複数のチャネルを持てばオムニチャネルだと勘違いしている企業も多いが、これはマルチチャネルの段階にすぎない。

 マルチチャネルは複数のチャネルを持つのだが、別々の部門という考え方をすることが多い。私たちはリアル店舗を担当、あなたたちはECチャネルを担当、別部門だよね、と。なので、在庫を共通化するという発想はなく、リアル店舗とECチャネルで在庫を別々に管理する。そうすると、インターネットでバズった商品があり、ECチャネルで売り切れになっても、リアル店舗から在庫を補充するという発想がない。せっかくの販売機会を逃すことになる。この販売機会の逸失を乗り越えようと考えたのが、クロスチャネルの始まりとなった。

●日本ではクロスチャネルが先進事例

 クロスチャネルとは、マルチチャネルのサプライチェーンを統合し在庫管理を一元化する一方で、ECチャネルで注文した製品をリアル店舗で受け取れるなど、複数のチャネルをまたがった購買が可能になるチャネルのことである。

 先日ラルフローレンで買い物をしたのだが、こういう消費者体験をすることができた。ネットでラルフローレンのおしゃれなダウンジャケットを見つけ、試着をしたいと思い銀座三越へ出かけた。しかし、欲しい色がなく違う色のダウンジャケットでサイズを試した。店員が「いかがですか?」と言うので、「サイズは良いんだけど、欲しい色が違うんです」と返事をすると、「少々お待ちください」と言い、バックヤードに入っていった。

 数分後、その店員が「お待たせ致しました。今、銀座には在庫がないのですが、新宿にも上野にもこのお色の在庫がございます。新宿や上野でお取り置きもできますし、明日銀座に在庫を移動させることも可能です。または、ご自宅へお届けることも可能です」と説明してくれた。これがクロスチャネルである。サプライチェーンを統合し、ロジスティクスは顧客のリクエストに応じ変幻自在。非常に便利で、顧客満足度が高くなる。

 このクロスチャネルをオムニチャネルと呼ぶのが、セブン&アイ・ホールディングスである。セブン&アイはオムニ7という“オムニチャネル”を運営しているが、「オムニチャネルとは、リアル店舗やオンラインストアなどの販売経路や流通経路を統合し、どの販売チャネルからも同じ商品を同じ価格で購入できるようにすることです」と定義しており、サプライチェーンの統合がなされている。今の日本企業のチャネルの進化としては、最前線にある企業のひとつであり、優れたチャネルの進化であることは間違いない。しかし、これは今まで述べてきたようにクロスチャネルにすぎず、オムニチャネルではない。

 では、オムニチャネルとはなんなのか?

●オムニチャネルとクロスチャネルの違いは、顧客理解

 オムニチャネルとは、企業が消費者と接するリアル店舗やECチャネルを統合し、チャネルにまたがった購買を可能とし、ユーザーIDの統合と顧客理解から最適な購買体験を提供するチャネルである。「……購買を可能とし」というところまではクロスチャネルと同じ定義だが、「ユーザーIDの……」というところからは、オムニチャネル独自の定義になる。すなわち、顧客一人ひとりをID化し、購買行動履歴を蓄積し、そのデータをもとにOne to Oneマーケティングを行うことに、オムニチャネルの特徴があるのである。この顧客理解に力を入れているのがAmazonであり、ユニクロを運営するファーストリテイリングであり、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイであり、洋服の青山を運営する青山商事だ。

 ECチャネルの雄であるAmazonは、米国でWhole Foodsを買収し、リアル店舗へも着々と進出を進めている。また、レジレスのAmazon Goを展開しようともくろんでいる。Amazon Goはレジレスに注目が集まるが、本質はそこにはない。そうではなく、消費者心理の理解に本質がある。

 Amazon Goのレジレスは、日本で主流のRFIDではなく、画像認識で行われる。店舗内に多数のカメラが設置され、画像認識で購買行動を把握するわけだ。入店の際には、駅の改札のようなゲートにスマートフォン(スマホ)をかざして入ることになる。この時、同時に画像認識で、顔とスマホのユーザーIDが統合される。そして、店内で例えばプリンとゼリーを比較し、プリンを購入した場合、このユーザーIDにとってプリンの競合アイテムはゼリーだとわかるのである。

 このように、消費者が100万人だろうと1億人だろうと35億人だろうと、それぞれの消費者にとって何と何が競合アイテムなのかということがわかるようになる。しかも画像認識をしているので、その表情から心理まで把握しながら。

 一方、ユニクロや青山やZOZOは採寸に力を入れる。体形データから消費者を理解しようとしているのだ。体形を把握すれば、ECチャネルにおいて大きすぎる、または小さすぎるアイテムを除いた検索結果を消費者に表示できる。消費者は体形に合わなかったらどうしようという心配をすることなく、買い物を楽しむことができる。リアル店舗は採寸と試着の場になり、リアル店舗でも購買と決済はタブレットで行うようになる。そうすると、リアル店舗での、検品、在庫管理、レジ打ちなどの作業はなくなり、接客により集中できるようになるだろう。

 このように、「ユーザーIDの統合と顧客理解から最適な購買体験を提供する」のがオムニチャネルであり、この定義に従えば、日本でオムニチャネルを実現している企業は、現在のところ存在しない。ユニクロもZOZOもオムニチャネルを目指し、がんばっている最中にある。多くの企業がオムニチャネルがなかなかうまくいかないと困っているが、当たり前だ。まだ、オムニチャネルを実現できている企業は日本に存在しないのだから。

 ここでオムニチャネルの意味を再考し、自社がどの段階にあり、何をこれから目指すべきなのか、しっかり考える機会として年末年始を使うのも、良い時間の使い方ではないだろうか。
(文=牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授)