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●注目を集めたトヨタの新型「センチュリー」

先の「東京モーターショー」でも感じたことだが、日本車のデザインに新たな流れが起きつつあるようだ。一言で言えば「ジャパニーズ・ヘリテージ」。個性が希薄と言われてきた日本車のデザインが、新たなフェーズに入ったことを実感する、好ましい方向性だ。

○欧米と方向性を異にし始めた? 日本車の新しいデザイン

日本の自動車産業は第2次世界大戦後、欧米に追いつけ追い越せという気持ちで歩みを進めてきた。終戦直後には欧米車種のノックダウン生産を行った会社があったし、その後もデザインや技術など、クルマ作りの多くの部分で欧米を参考にしてきた。

中には模倣ではないかと思われるデザインもあった。最近の中国ブランドの自動車と似たような状況だったのかもしれない。なので、筆者が身を置く自動車ジャーナリズムの世界でも欧米、特に欧州車と比べてどうかという視点の評論が多かったような気がする。

しかし、デザインについては最近、欧米と同じ方向性ではない、ジャパンオリジナルの造形が目立ってきたと思っている。その方向性が明確に見えたのが、2017年10〜11月に開催された「第45回東京モーターショー」だった。

○新型「センチュリー」で再確認した日本製高級車の姿

日本を代表する自動車ブランドであるトヨタ自動車は、ここで数車種のコンセプトカーをお披露目したが、会場でそれに劣らぬ注目を集めていた市販車があった。2018年半ばに発売予定の新型「センチュリー」と、ショー直前に発売された「ジャパンタクシー」だ。

センチュリーは1967年、つまり今から約半世紀前に登場したトヨタの最高級車である。ちなみに、センチュリーという名前はトヨタの礎を築いた発明家、豊田佐吉の生誕100周年を記念したものだった。

驚くべきは、そこから現在までにモデルチェンジを1度しか行っていないことだ。それは今から約20年前の1997年に実施された。エンジンがV型8気筒から日本の市販乗用車で唯一のV型12気筒に乗せ換えられた一方で、スタイリングは初代の雰囲気を濃厚に残していた。

当時の日本はバブル経済を経験した直後であり、多くの欧州製高級車が路上を走っていた。しかし、センチュリーのデザインがモデルチェンジでこれらの影響を受けることはなかった。

初代では「フジ・ノーブルホワイト」「カムイ・エターナルブラック」など、日本語と英語の折衷だったボディカラーの名称は、「神威」「瑞雲」など漢字で表記されるようになり、日本の高級車であることを明確にしていた。

そして、2017年のモーターショーで一般公開された新型もまた、初代からデザインを継承していた。それが多くの人々に好意的に受け入れられた。

価格は1,000万円以上と予想される超高級車だから、多くの人にとって手が届かない存在だし、皇族の方々や内閣の大臣クラスなど、限られた人々のための車種ではある。しかし、ここまで注目されたのは、日本を代表する高級車であるという雰囲気を独特のデザインから感じ取っていたからではないだろうか。

●「あの頃」を再現してヒットした「シビック」

○乗用車とは一線を画す「ハイラックス」も人気に

欧米の影響を受けていない、ジャパンオリジナルのデザインに人気が集まる。これは2017年に発売された他のトヨタ車にも共通している。13年ぶりに日本市場に復活したピックアップトラックの「ハイラックス」と、マイナーチェンジを受けたワンボックスの「ハイエース」だ。

どちらも、現在の乗用車とは一線を画した機能重視の形をしている。ピックアップは米国が源流のボディタイプであるが、ハイエースのワンボックススタイルは現在、日本の商用車が主役となっている。

それが若者に受けている。ハイラックスの購入者の中心は20〜30歳代だそうで、ハイエースもマリンスポーツなどレジャーのツールとしての需要が増えているという。

ハイラックスやハイエースのような新興国でも活躍する商用車は、壊れても簡単に直せること、部品の供給が安定していることが大事である。これが、シンプルで機能重視のデザインを継承する理由だろう。多くの乗用車とは異なるその形が人気を集めているという現象は興味深い。

○ホンダのEVコンセプトにも息づくヘリテージ

ジャパンオリジナルを大切にする傾向はトヨタ以外にも見られる。ホンダは同じ東京モーターショーで、「Honda Sports EV Concept」と「Honda Urban EV Concept」という2台のコンセプトカーを発表した。車名が示すように電気自動車(EV)で、丸いLEDランプを据えた顔はさまざまな情報を表示するディスプレイとするなど最新技術を搭載するが、無駄な線を極力排したスタイリングからは懐かしさも感じた。

デザイナーは明らかにしていないが、アーバンEVは1972年に発表された初代「シビック」、スポーツEVは1965年に登場した「S600クーペ」のフォルムを彷彿とさせる。似たようなデザインが多いEVコンセプトの中で、ホンダらしいと感じるのは同社のヘリテージをうまく取り込んでいるからだろう。

発売前の一部の予想を裏切ってヒット作となった新型「シビック」も、かつてのホンダ車を思わせる雰囲気を濃厚に再現していた。

全高も運転席は現在のセダンやハッチバックとしては低く、その前に広がるインパネやエンジンフードも高さが抑えられており、低いスタンスで水平移動するようなコーナリングを含め、「ワンダーシビック」という愛称で親しまれた3代目「シビック」、デートカーの異名をもらった2代目「プレリュード」など、1980年代のホンダ車を思わせる世界観なのだ。

現在、ホンダは新しいデザインの方向性を考えている最中だそうで、その1つとして世界的に注目を集めた1980年代のデザインがホンダらしさと考え、その雰囲気を感じるような造形を新型シビックに与えたのだという。

●日本の風土や環境が生んだ軽自動車の形

○“艶”と“凛”でデザインを語るマツダ

モーターショーに出品されたコンセプトカーでは、マツダ「ビジョンクーペ」にも日本らしさが込められている。3年前のスポーツカーコンセプト「RXビジョン」同様、“艶”と“凛”という2つの日本の美意識を取り入れているからだ。

RXビジョンでは艶の部分を強調したのに対し、今回のビジョンクーペでは凛の部分を強調したそうだ。それをダイナミックな線に頼らず、優美な面で表現した。欧米のジャーナリストからも評価されている理由は、欧米とは違うデザインの価値観を見出したからだろう。

○木造家屋とも通底? 日本で独特な形のクルマが生まれる理由

モーターショーでは発表されなかったが、今年はスズキ「ジムニー」のモデルチェンジも噂されている。すでに出回っているスクープ写真によれば、現行型より角張った、先代を思わせる機能重視のスタイリングになりそうだ。こちらも登場前から多くのクルマ好きの注目を集めている。

軽自動車は基本的に日本専売車種であり、以前からダイハツ「タント」やスズキ「ハスラー」など、欧州のカーデザインの流れとは異なるスタイリングを取り入れ、人気を博していた。

いずれも木造家屋を思わせる水平基調の造形で、欧州に比べて平均速度が低く、空気抵抗などをそれほど追求しなくてよいためもあり、背が高く四角いフォルムが特徴だ。

こうした方向性は前に紹介したセンチュリー、ハイラックス、ハイエースにも通じる。日本の風土や環境から生まれた、日本ならではのカーデザインと言えるのではないだろうか。

かつては、それを欧州に比べて遅れているとする評論もあったが、ユーザーはそこにカッコよさを見出している。その状況にメーカーも気付き、応え始めた。2018年もジャパニーズ・ヘリテージを生かしたカーデザインがいくつか登場するだろう。筆者も日本人の一人として、それを望んでいる。