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●「子供が遊ぶおもちゃ」を第一に

子供たち自らの創意工夫でおもちゃで遊ぶ楽しさが広がる"体感型トイ・プラットフォーム"という独特のコンセプトや、ソニーが手がけるおもちゃ、ということで大いに注目を集めている「toio(トイオ)」。このtoioは、どういった経緯で生まれたのか、プロジェクトリーダーのソニー 新規事業創出部 toio事業室 統括課長の田中 章愛氏に話を聞いた。

○5年の開発期間を経て製品化、「ソニーだから実現」

田中氏はソニーに入社後、ロボット技術の基礎研究や開発を長年続けていた。その過程で考案したtoioは、自主研究の期間も含めて、およそ5年の歴史を持つ。

ソニーコンピュータサイエンス研究所に所属し、ゲームなどの研究を行っていたアンドレ・アレクシー氏などとともに、ソニーらしい新しい遊びを提供できないかとアイデアを温めていた。当初こそ、自分たちが楽しむ目的でtoioの原型となるおもちゃを開発していたが、「知り合いの子供などに遊んでもらうと好評で、『これを世に出したい』という気持ちが強くなっていった」と話す。

一方、本来の業務ではtoio事業化前から、SAPを担当する新規事業創出部に所属し、SAPの仕組み化と運営に携わっていた。そして、ちょうど携わっていた仕事が一段落した2016年にSAPのオーディションで選考を通過、2016年6月から製品化に着手したという。

5年の歳月をかけたtoioだが、「当初から既存のおもちゃと組み合わせて楽しむというコンセプトは変わっていない」(田中氏)。一方でアソビを実現するための技術も、本体の小型化など、当初解決できなかった問題を解決できたという。

例えば、toioの本体となる「toioコア キューブ」にはさまざまなセンサーが搭載されているが、その中に「絶対位置センサー」と呼ばれているものがある。toioで遊ぶときに利用する「マット」には、toioが現在いる場所を検知できる目に見えない特殊な情報が印刷されている。それを絶対位置センサーが読み取ることで、今いる場所や動いている向きなどを把握し、正確な動きを実現している。

また、外部から加わる衝撃などを検知し、それに反応するような動きや、動いているtoioコア キューブを手で取り上げて違う場所に移動させても、本来の場所に自動で復帰し、元通り動作するという機能も搭載されている。

こういった動きは、テレビゲームでこそプログラムで簡単に実現できるが、現実の世界ではさまざまなセンシング、そしてモノづくりの技術を必要とする。超小型のモーターなど、これまでソニーが培ってきた小型化技術も製品化に大きく役立っているとのことで、田中氏は「ソニーだからこそ実現できた」と自信を示す。

○こだわったのは"直感的な遊び"

toioコア キューブを操作できるリング状のコントローラ「toioリング」にも、さまざまなこだわりが詰め込まれている。まず、コントローラは片手で操作することを前提に設計されているが、これはもう一方の手でtoioコア キューブを触って遊べるようにするためだという。

リング状にしたのは、使わないときは腕に通すことで両手が空くようにするため。テーブルなどに置いて使う場合に使いやすいよう、操作ボタンをリングの上下両方に配置。形状こそ特徴的だが、そこには子供たちが遊びやすい工夫が数多く詰め込まれている。

そして、こういった特徴は、"直感的な遊び"を実現するためのこだわりだという。「自分が作ったものが動き出すと、子供はすごく感動して夢中になるんです」と田中氏は語ったが、特別な知識を必要とせずに自分の手で作りたいものを作り、それが動き出す。「その時に感じる感動を体験してもらいたい」という想いを田中氏はtoioに込めた。

ところでtoioは、単体で遊ぶのはもちろん、既存のおもちゃのブロックや人形などと組み合わせて遊べる点が大きな特徴となっている。しかし、現在ソニーが力を入れているネットワーク関連機能は備えていない。これは、子供たちが、複雑な設定など不要に、家ですぐに楽しめるというところを重視してのものだそうだ。

筆者などは、「Xperiaなどと連携できれば、より遊びの幅が広がるのでは」とも感じる。この点について田中氏も、ネットワーク関連機能が不要と断言はしておらず、今後の展開にも含みを持たせてはいた。ただ、小学生低学年以下の子供が遊ぶおもちゃにとって、ネットワーク関連機能は複雑すぎるのも事実。

また、開発中に体験した子供の親から「おもちゃ単体で完結するものの方がありがたい」という声もあったという。親が安心して子供に与え、子供たちだけで遊べるおもちゃと考えると、複雑なネットワーク関連機能が不要というのも当然で、そういった声を受けて、ひとつのパッケージで閉じるようなものにした。

●ビジネスとは何か、を学べるSAP

このように、toioは単なるおもちゃの枠を超えて、さまざまなこだわりを詰め込んだ、ある意味でソニーらしい製品だ。一方で、「ソニー製」を掲げる商品としてはかなり特異な存在であり、SAPという仕組みがあるからこそ世に放たれた商品と言える。

SAPとしては、toio以外に電子ペーパーを利用した学習リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」や、バンド部分にスマートウォッチの機構を内蔵させた「wena wrist」など、特徴的な製品が登場しているが、これが「SAPならではの魅力」と田中氏は指摘する。

SAPでは、同じ考えを持つ比較的小さなチームが一丸となって取り組むため、これまでにない特徴的な製品が生み出されやすい環境が整えられている。

SAPのプロジェクトでは、企画から開発、営業まで、一気通貫でプロジェクトリーダーを始めとするチームが担うことになる。起業家精神を養い、ビジネスに対する見識を深めるための研修プログラムなども用意されており、「『ビジネスとは何か』『顧客価値とは何か』『自分は何を顧客に提供したいのか』といったことを深く考えさせられた」(田中氏)。

社外パートナーとの取り組みや、実際に触ってもらった人からのフィードバックに触れつつ製品を研ぎ澄ませていく過程、以前は関わる機会のほとんどなかった営業などのビジネスに関する業務への取り組みは、ソニーという大企業における分業制が確立する中で、SAPが果たす大きな意義だと田中氏は強調する。

○SAPがソニー社内を活性化

さらにSAPは、新規事業創出部の枠にとどまらない効果を生んでいると田中氏は指摘する。「担当部署の垣根を超えて何かに取り組むことがもともとなかったわけではない。ただ、開発者がさまざまなディスカッションを行うケースが増え、日常的に行われるようになった実感はあるし、大きな刺激になっている」(田中氏)。

そうした波及効果が認められることもあり、SAPへの理解度が社内でも非常に高いという。SAPに応募する開発精神旺盛な開発者は、それまでに携わっているプロジェクトでも重要な立場を担っている場合が少なくない。ただ、プログラム採択後は、1週間のうち1日はプログラムに携わるケースもあり、支障なくSAPに取り組めるようになっているようだ(オーディション次第では最初からフルタイムで新規事業創出部へ異動するケースもある)。

ソニーには、以前から変わることなく、新しいことへの取り組みに寛容な企業文化がある。他が真似のできないイノベイティブな製品が多数登場してきたのも、そのおかげだ。そういった意味では、ソニーにとってSAPという仕組みは必ずしも必要ではないのかもしれない。

一方で、大企業として縦割り組織に陥り、イノベーションを起こしづらいジレンマもあった。それを乗り越えるため、SAPのような仕組みを用意するということそのものが、ある意味で「ソニーらしさ」を体現した事象と言える。

田中氏自身は、「おもちゃ」という分野に強い思い入れがあるわけではなかった。既存のおもちゃとテクノロジーを組み合わせることで、これまでとは異なる楽しさが生まれる。「それによって、子供たちに新しい遊びを提供したかった」というのがtoio開発の最大の理由だそうだ。事実、おもちゃ業界に食い込みたいという考えは持っておらず、開発協力としてレゴとパートナーになるなど、オープンに協創する姿勢を見せている。

社内に開かれたプログラムを通して、社会とも協創する製品作り。その過程で新たなイノベーション創出へと繋がることが、ソニー、そして田中氏の考える理想の姿と言える。私たちユーザーにとっても、新たな価値を体験できるようになるという意味で、SAPは見逃せない存在になりつつある。