永久資格停止はまぁまぁ難しいです!

前代未聞の事件でした。9日に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が公表し、それを受けて日本カヌー連盟が発表した事件は「他選手を陥れるために、ライバルのドリンクに禁止薬物を混入させる」というスパイ映画並みの陰謀でした。金メダル級の卑怯者が日本スポーツ界から出たことに、呆れ返るよりありません。



すでに名前もJADAによって公表されていますが、事件を起こしたのはカヌー競技の鈴木康大さん。昨年9月11日の日本選手権において、東京五輪出場を争うライバルである小松正治選手のドリンクに禁止薬物を混入させ、小松選手からメタンジエノンの代謝物(※ということはステロイド/筋肉増強剤の類を摂取したということ)が検出されたとのこと。

当初は小松選手が暫定的な資格停止処分を受けていましたが、「良心の呵責」に耐えかねて鈴木さんが行為について告白。検討の結果、小松選手の資格停止処分の解除と、鈴木さんへの8年間の資格停止処分が科されることとなったとのこと。なお、カヌー連盟によれば鈴木さんには用具の破壊や窃盗などその他の違反行為もあったのだとか。

禁止薬物を混入させるという行為は一般社会においては罪に問えるかもアヤしいところですが(※メタンジエノンを含むサプリ類は個人輸入などで購入することもでき、一部で摂取されているもの)、スポーツの世界においては「殺人」にも等しい極めて悪質な行為です。蛋白同化ステロイドによる資格停止となれば資格停止期間は4年です。

過失によるものであれば期間が短縮されることもありますが、過失による摂取であると証明することは相当に難しいでしょう。世間からの目も「薬物野郎」とみなされ、競技を離れたところでの生活にも支障があるはず。何よりも、今25歳の選手にとって、東京五輪を含む4年間の資格停止がどれだけ大きな損失であることか。それはアスリートとしての死にも等しいものです。この行為に及んだ鈴木さんは、言語道断です。被害者である小松選手は本当に災難でした。資格停止が解除されて本当によかった。

と・は・言・え、

とは言えではありますが、被害者である小松選手にも落度がまったくなかったとは思いません。こうした行為があり得ることは、アスリートとしては常に意識しておく必要があったでしょう。かのベン・ジェンソンも「ボトルに誰かがクスリを入れた」とのたまっています。こうした行為によって誰かを陥れることが可能であるのは、誰にでもわかること。自分の摂取するドリンクから目を離し、再び摂取するという行為には隙があったと言わざるを得ません。

今回小松さんの資格停止解除は、JADAのアンチ・ドーピング規程の7.9.3.2項にある「過誤又は過失がないことを強力に主張可能であり、そのため、そうでなければ別途当該違反を理由として賦課されたであろう資格停止期間が第10.4項の適用により完全に排除される可能性が高いこと」によるとされています。要するに、陥れられたので無罪です、という判断です。

しかし、適用されたアンチ・ドーピング規程の10.4項では、無罪にするのは「十分な注意を払ったにもかかわらず競技相手から妨害を受けた旨を競技者が証明できる場合等の例外的状況においてのみ適用」するとされており、「(c) 競技者が懇意とする集団の中において、配偶者、コーチその他の人が競技者の飲食物に手を加えた場合(競技者は自らが摂取する物について責任を負うとともに、自己の飲食物への接触を許している人の行為についても責任を負う。)」においては、十分な注意を払っていたとは言えないと規定しています。

「みんなのドリンク置場に置いておいたドリンクに、仲良しの先輩が薬物を入れた」は、はたして本当に十分な注意を払い、過誤又は過失がないと言い切れるのか。杓子定規に言えば、もうひと揉めあってもいい微妙な事例だと思います。


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小松選手に嫌がらせをしたいわけではないのですが、このパターンでの「資格停止解除」を簡単に認めるというのは、逆の悪意の存在を許すことでもあります。A選手の能力を押し上げるために組織的なドーピングを日常的に行ない、万一検体から陽性が検出された際にはB選手が「私が混入させました」と名乗り出てA選手を救う。こんなスキームが可能になるのは、僕はよいことだとは思いません。

ソチ五輪においてロシアが組織的に行なったとされるドーピング行為では、「検体を保管する部屋」と「隣の部屋」を秘密の穴でつなぎ、そこから運び出した検体を「フタを破壊せずに開ける秘密の手法」で開けて、クリーンな検体と入れ替えていたとされます。そこまでやるのがドーピング野郎。身代わりくらいやっても「不思議はない」のです。

ことドーピングに関しては、ひとたび陽性が出たなら「すべてをウソと思って」聞かざるを得ない。嘘つきドーピング野郎は「レストランで食事中に、間違えて妻のコップから水を飲んだら、妻がいつも飲んでいるクスリがコップについていて禁止薬物が検出されちゃった。ビックリしたなぁ。てへぺろ」なんて平気で言うのです。(※ある選手の『二度目』のドーピング陽性反応検出時の言い訳より)

厳しすぎるかもしれませんが、ドーピングというのはそれぐらい巧妙なインチキを仕掛けてくるのです。だからこそ、選手は摂取するすべての物を警戒し、それも含めて競技の一部として考えなければならないと思います。「出所の確かな未開封の品」以外は手をつけない。潔白であろうと願うなら、選手もそれぐらいの気持ちで臨むべきだろうと思います。

小松選手にも今後は十分に気をつけてもらいたいですし、ほかの選手も自分も同じことをやられると思って、警戒してもらいたいと思います。そして、JADAからも「このパターンを何でも認めるわけではないよ」という点は、念押しがあってもよいと思います。「盛られた=何でもかんでもオールセーフ」ではない、という点については。



ちなみに、鈴木さんの違反は、アンチ・ドーピング規程の2.8項にある「競技会(時)において、競技者に対して禁止物質若しくは禁止方法を投与すること、若しくは投与を企てること、又は競技会外において、競技者に対して競技会外で禁止されている禁止物質若しくは禁止方法を投与すること、若しくは投与を企てること」への違反ですので、「違反の重大性の程度により、最短で4年間、最長で永久資格停止」が科される違反です。これは本義的には「コーチが選手に薬を与える」のを取り締まるための規程。「他選手を陥れようとした」という悪質さからは、永久資格停止にしたいくらいです。

しかし、WADAの事例に照らしても「一発で永久BAN」というのはまぁまぁ難しいのが実情です。同じ規程への抵触で比較するなら、ロシアで組織的にドーピングを主導していたコーチとかでようやく一発BANというところ。タイソン・ゲイらに禁止薬物を与えたジョン・ドラモンドコーチでも8年の資格停止です。鈴木さんの場合は、相手は「ひとり」ですので、悪意を勘案しなければ永久資格停止はないのかなと思います。

また、鈴木さん自身が「良心の呵責」によって自白し、「アンチ・ドーピング規則違反を発見又は証明する際の実質的な支援」(※要するに調査への協力)を行なっていることから、資格停止期間は本来のものより軽減されるでしょう。永久資格停止からの軽減の場合、「どんなに短くても8年資格停止」という規程がありますので、本当は永久資格停止処分だったとしても、最終的な落としどころは「8年」なのかなと思います。

甘い処分だとは思いますが、40歳まで競技に復帰できないというのは、永久資格停止とほぼ変わらないでしょうから、こんなものなのでしょう。「悪意を自白することで小松さんの資格停止を速やかに解除し」「8年後に競技復帰というわずかな可能性を残し」「日本スポーツ史に、他人のドリンクにクスリを盛って永久資格停止になった不名誉な選手を記録せずに済んだ」という意味では、全方位からの忖度によって成し遂げた、ナイスな落としどころなのかもしれませんね。

みんなで相談して、いい落としどころを見つけたのかなと思います。

カヌー関係者のみなさん、お疲れ様でした。

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