そもそもは厳格な法律要件をクリアしてはじめて合法的に導入できる働き方だ(撮影:今井 康一)

業務の遂行方法が労働者自身の裁量に委ねられ、実労働ではなくみなし時間によって労働時間を計算する「裁量労働制」の働き方をめぐって、労働行政の監視の目が厳しくなってきている。

2017年12月26日、野村不動産が裁量労働制を違法に適用し、残業代の一部を支払わなかったとして、東京労働局より是正指導を受けたと発表した。経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務に従事する「企画業務型裁量労働制」を適用している社員に対して、営業活動など対象業務外の仕事をさせていたとされている。

同じタイミングで、NHKでも記者職を対象に導入した「専門業務型」の裁量労働制について、渋谷労働基準監督署から指導を受けたことが明らかになったと複数のメディアが報じた。専門業務型とはその名のとおり、専門的な職種の労働者について労使協定によってみなし時間を定める働き方だ。

裁量労働制における「みなし時間」とは、たとえば会社と労働者代表が労使協定で「1日の労働時間を9時間とみなす」という合意をしたら、実労働時間が6〜7時間であろうと12時間以上であろうと、9時間分相当の賃金が支払われるという仕組みだ。

企画業務型と専門業務型。裁量労働制にはこの2つの働き方がある。東洋経済オンライン読者の皆さんの中にも裁量労働制で働いている人もいるだろう。裁量労働制が適用されれば、出社時刻、退社時刻も労働者の自由となる。しかしながら「自由」であるがゆえ、際限のない長時間労働につながるリスクもある。

そのため労働基準法では、雇用者が労働者に裁量労働制を適用する場合、厳しい制限が設けられているのだが、その制限を逸脱して、違法または不適切な裁量労働制が行われている事例も少なくはない。

裁量労働制が正しく適用されているかどうかについて、5つの見極めポイントを挙げたい。

制度が適用される仕事は19種

第1のポイントは、適用が許されている職種内で、裁量労働制が適用されているかどうかである。定められている職種以外に裁量労働制を適用することは許されない。

まず、専門業務型裁量労働制が適用されるのは、以下の19の職種である。

1. 研究開発
2. 情報処理システムの分析・設計
3. 取材・編集
4. デザイナー
5. プロデューサー・ディレクター
6. コピーライター
7. システムコンサルタント
8. インテリアコーディネーター
9. ゲーム用ソフトウエア開発
10. 証券アナリスト
11. 金融工学による金融商品の開発
12. 大学における教授研究
13. 公認会計士
14. 弁護士
15. 建築士
16. 不動産鑑定士
17. 弁理士
18. 税理士
19. 中小企業診断士

企画業務型の適用は専門業務型ほど個別具体的ではないが「事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務」に就く労働者に限られている。

冒頭の野村不動産のケースで問題になったのは、まさにこの論点だ。営業の職務は、専門業務型にも、企画業務型にも当てはまらない。にもかかわらず、野村不動産は、経験ある営業社員は、それなりの裁量を持って企画提案型の営業を行っていたので、企画業務型の裁量労働制に当たる、と考えていたようである。しかし、その解釈は法的には正しくない。

企画業務型裁量労働制の適用を前提としている「企画業務」は、全社的な経営方針を決めるための企画など、本社の経営企画室のような機能を想定しており、個別営業案件の企画を含めてはならない。

昨今は求人誌などでも「企画営業」という言葉を目にすることがしばしばある。だが、「企画営業」の仕事に裁量労働制が適用されていたならば、それは違法である可能性が高い。

政府は企画業務型裁量労働制に一部営業職への対象拡大を検討し、今年の通常国会に提出する見通しの労働基準法改正案に盛り込んでいるが、今後もこの点は議論を呼びそうだ。

裁量権がない仕事への適用は違法

第2のポイントは、実際の仕事内容も裁量労働制が適用されるにふさわしいかどうかである。

第1のポイントで掲げた職種に当てはまっていれば、自動的に裁量労働制が適用されるわけではない。裁量労働制が合法になるためには、対象となる職種に当てはまるだけでなく、かつ、実際に本人の自由裁量的な働き方が認められていることが必要だ。

ゲーム用ソフトウエア開発を例に挙げよう。裁量権を与えられてゲームの構想を練ったり、グラフィックを考えたりするような職務内容であれば、専門業務型裁量労働制は合法的に適用される。

しかしながら、本人は裁量権を持たず、上司の指示に基づいて、プログラミングの実務を行っているような従業員に対しては、たとえゲームの開発に携わっていたとしても、専門業務型裁量労働制の適用は許されない。

実際の判例においても、裁量権を持たない「名ばかりシステムエンジニア」や、税理士業務の補助者などについて、裁判所は専門業務型裁量労働制の適用を否定している。

第3のポイントは、割増賃金が正しく支払われているかどうかである。

労務相談を受けていると、「裁量労働制を適用すれば割増賃金を支払う必要はない」と誤解をしている経営者や、人事担当者としばしば出会う。

この点、「裁量労働制であっても、労働者に各種割増賃金は支払われなければならない」ということを強調しておきたい。

たとえば「1日9時間とみなす」という労使協定に基づき裁量労働制が適用されていた場合、法定労働時間の8時間を超える1時間分については、時間外割増手当が労働者に支払われなければならない。仮に、その月の出勤日数が20日だったとしたら、1時間×20日の20時間分の時間外割増手当の支払いが認められる。

次に、深夜割増手当であるが、裁量労働制が適用される労働者であっても、午後10時から午前5時までの深夜帯に勤務をした場合は、深夜割増手当の支払いが認められる。

裁量労働制の対象者は、実労働時間の管理をしなくてもいいと誤解されがちであるが、深夜割増手当を会社から正しく支払ってもらうためには、少なくとも深夜残業に関しては実労働時間の管理が必要になるのである。

裁量労働制の対象者が休日に出勤した場合、休日出勤手当が支払われないのは違法である。休日出勤の労働時間も「みなし」を適用するか、実労働時間に基づくかは労使協定次第であるが、いずれにしても、裁量労働制の適用者が休日出勤をして、休日出勤手当がまったく支払われないのは違法であるということを覚えておいてほしい。

実態と合わない「みなし労働時間制」は指導対象に

第4のポイントは、「みなし」で定められている1日の労働時間が適正かどうかである。

裁量労働制においては、専門業務型と企画業務型で手順は異なるが、業務の実態を踏まえ、「みなし」の労働時間数を労使間で合意することが条件となっている。

この点、労働者側の意見を聞かずに、会社が勝手にみなし労働時間数を決めてしまったという場合は間違いなく違法だ。

それだけでなく、仮に労使間の合意のプロセスを踏んだとしても、「みなし」の労働時間数が、実態の労働時間数とかけ離れていたら、直ちに違法とは言えないが、行政指導の対象となることがある。

実態と合わない「みなし」労働時間数での労使合意を会社から迫られた場合、立場の弱い労働者はそれを拒否することが難しい。適正な「みなし」労働時間数で合意がなされているかのチェックは、今回のNHKに対する渋谷労働基準監督署の調査のように、行政指導に期待したいところである。

条件を満たさない裁量労働制はすべて違法

第5のポイントは、裁量労働制で働く労働者を保護するための仕組みが会社内で構築および周知されているかどうかである。

裁量労働制を導入する会社は、その対象となる労働者を長時間労働や過労から守るため、一定の対策をしなければならないことが法律で求められている。具体的には、「対象労働者の健康・福祉の確保措置」と「対象労働者からの苦情処理措置」である。

「対象労働者の健康・福祉の確保措置」は、タイムカードなど客観的な方法による実労働時間の把握を行うことや、必要に応じて健康診断や産業医との面談を行うといったことが考えられる。

労働時間の把握は賃金計算だけでなく、健康管理の面からも重要な意味を持っているので、裁量労働制だからといって労働者の実労働時間の把握を怠ることは、使用者の安全配慮義務違反に当たる。1分単位までの把握までは求められないにしても、少なくとも職場への入退場時刻は把握できる仕組みが構築されていることが望ましい。

「対象労働者からの苦情処理措置」は、苦情申出の窓口や担当者、取り扱う苦情の範囲、処理手順・方法などを定め、周知を行うことである。裁量労働制で働く労働者がためらうことなく働き方などについて相談することができる窓口の存在は、裁量労働制を導入する会社の必須条件である。

裁量労働制が適用されている職場においては、以上のような仕組みが構築されているかを確認してほしい。

そもそも裁量労働制とは厳格な法律要件をクリアして、はじめて合法的に導入できる制度なのである。

今後、高度プロフェッショナル制度など、さらなる労働時間の規制緩和が予想されている。規制緩和だけ進んで労働者を保護する仕組みが形骸化しないよう、その布石として、まずは労働者が既存の裁量労働制が正しく運用されているのかを振り返り、同時に会社は法律に沿った、正しい運用を徹底していくことが必要だと筆者は考えている。