安倍首相は1月4日、伊勢神宮参拝後の年頭の記者会見で、改憲への意欲を語った(写真:共同)

年末年始に英気を養った安倍晋三首相は4日、仕事始めの伊勢神宮参拝後の年頭記者会見で、あらためて憲法改正への意欲と決意を表明した。国政選挙5連勝で1強の名を欲しいままにする首相にとって、改憲はまさに政権をかけての挑戦でもある。その前提となる今秋の自民党総裁選での「安倍3選」は既定路線化しており、新年らしい表現でいえば「首相の改憲双六(すごろく)の上がりはいつか」が2018年以降の政局の最大の焦点となる。

ただ、首相が改憲の本丸と位置づける「憲法9条改正による自衛隊明記」には与党内にも異論があるうえ、野党第1党の立憲民主党も徹底抗戦の構えだ。東京五輪が開催される2020年までの改正憲法施行を目指す首相にとって、当面のハードルは3分の2の賛成が条件となる衆参両院国会発議への与党内調整と与野党協議だが、首尾よく発議にこぎ着けてもなお国民投票という最大の壁が待ち受ける。しかも、改憲作業に絡む政治日程も2019年前半は極めて窮屈で、首相の意欲とは裏腹に、今後も「双六の上がりは、なお、見通せない状況」(官邸筋)が続く。

ゴルフ3回、映画鑑賞2回と年末年始の休暇を満喫した首相は、4日の年頭会見で「申(さる)酉(とり)騒ぐ、戌(いぬ)笑う」という干支にちなんだ株式相場の格言を引き「戌年は新しい時代への希望が生まれる年、今年こそ憲法のあるべき姿を国民にしっかりと提示する」と真剣な表情で語った。「もり・かけ疑惑」などで揺らいだ政権を、衆院解散・自民圧勝で立て直した首相は、「騒がしかった酉年」を乗り切ったことで、自ら歴史的使命と位置づける改憲実現への強い思いをあらためて吐露した格好だ。

「3選」確実で在任中の改憲には時間的余裕も

政治日程から見ると、国政選挙が予想されない2018年は「政治的には平穏な年」(自民幹部)で、9月の自民党総裁選が最大の政治イベントとなる。首相の改憲戦略の大前提は総裁3選だが、すでに首相の出身派閥・細田派に加え、麻生太郎副総理兼財務相、二階俊博幹事長の2大実力者がそれぞれ率いる麻生、二階両派が首相支持を明確にしている。

このため、総裁選の中軸となる国会議員数からも「安倍圧勝」は確実視され、出馬を目指す石破茂元地方創生相や野田聖子総務相も「勝敗は度外視して政策論争を挑む」という立場だ。出方が注目される岸田文雄政調会長は「その時点での政治情勢を見て決める」と様子見を決め込んでおり、「政権運営で致命的なミスがない限り安倍3選は動かない」(自民幹部)のが現状だ。9月に首相が連続3選を果たせば、任期は2021年9月までとなり、「在任中の改憲」への時間も確保できる。首相が「(改憲は)スケジュールありきではない」と繰り返すのもそうした余裕からだ。

憲法96条と国民投票法などに基づく改憲への具体的手続きは、(1)衆参両院の憲法審査会での改憲項目絞り込み、(2)同項目に関する衆参両院本会議での3分の2以上の賛成での国会発議、(3)発議から60〜180日の間に実施される国民投票での賛成多数、(4)天皇陛下による30日以内の改正憲法公布、となる。首相にとって、その中では(1)と(2)が当面の政治的ハードルだ。

国会での改憲項目絞り込みのためには、まず自民党が具体的な「改憲案」を国会に提起する必要がある。そのうえで野党側の対案も含めて憲法審査会で審議し、3分の2以上の賛成が見込める改憲項目をまとめ、衆参本会議で可決しなければ国民投票までたどり着けない。だからこそ首相は「まず国会での真剣な論議」を主張しているのだ。

「9条見直し」で合意強要なら、自公に亀裂も

首相が2017年5月3日の憲法記念日に公表した「安倍改憲」案は、憲法9条での自衛隊明記や2020年の改正憲法施行という踏み込んだ内容で、首相は昨年末の講演で「停滞した議論を後押しするために一石を投じた。ただ、その石があまりにも大きすぎ、その後が大変だった」と苦笑交じりで振り返った。首相の念頭には「2017年秋の自民改憲案とりまとめ」があったとされるが、突然の改憲案提起に野党だけでなく、自民党からも不満が噴出したからだ。 

しかも、その後の「もり・かけ疑惑」などでの内閣支持率急落もあって、党憲法改正推進本部での論議は遅々として進まなかった。同本部がようやくまとめた2017年末の「改憲4項目の論点整理」でも、肝心の「9条への自衛隊明記」は首相が提起した「9条1、2項維持」と、石破氏らが主張する「2項削除」の両論併記にとどまった。推進本部は「党内は首相案支持が多数なので、通常国会で予算が成立する3月中には党の改憲案はまとめられる」(幹部)としているが、与党の公明党は「9条見直し」への慎重姿勢を変えていない。自民党が公明党に合意を強要すれば与党内に亀裂が生じる可能性も小さくない。

首相は1月7日のNHK番組で「スケジュールありきではないが、国会でしっかり議論していくことが第一だ」と通常国会での自民案提起とそれに対する与野党論議の進展を促した。しかし、山口那津男公明党代表は「十分な国民の理解や議論の成熟をもたらさなければならない」と性急な論議を牽制した。さらに、同番組に出演した野党各党党首からは、日本維新の会を除いて「9条自衛隊明記」には否定的な意見が相次いだ。「改憲勢力」とされる希望の党の玉木雄一郎代表も「自衛権の議論もなく自衛隊を(9条に)書き込むという議論は若干、不誠実だ」と指摘した。

自民党内でも総裁選出馬に意欲を示す石破氏が「改憲論争を総裁選の焦点にすべきだ」と早期の自民改憲案とりまとめを牽制している。このため、党内にも「党改憲案は総裁選での首相圧勝をテコに総裁選直後にまとめ、秋の臨時国会以降の発議を目指すほうが党内摩擦が少ない」(自民長老)との見方も広がる。その一方で、自民党内には「国会発議が来年にずれ込むのはまずい」(推進本部幹部)との声も出ている。

国会での改憲論議を進めるうえで、2019年前半の政治日程は「極めて窮屈」(政府筋)で、4月の統一地方選、4月30日の天皇陛下退位と5月1日の新天皇即位、通常国会終了後の参院選と、重要な政治日程が目白押しだ。一時党内に浮上した「2019年春発議→参院選と改憲国民投票の同時実施」という案が困難視されているのも、「天皇退位―新天皇即位という重大皇室行事は静かな環境で迎えるべきで、直前の国会発議は避けるべきだ」(政府筋)と判断しているからだ。

ただ、さらに発議を先送りすると、2019年参院選が大きなハードルとなってくる。自民党が5年前の圧勝(65議席)を再現することは難しく、2016年参院選の55議席前後を維持したとしても参院での自民過半数割れは避けられそうもない。さらに、改憲勢力とされる希望、維新両党に勢いがない現状から「参院での改憲勢力3分の2維持は困難」(自民選対)との見方が支配的だ。とすれば、衆参3分の2以上の改憲勢力による国会発議は2019年通常国会末が「事実上のタイムリミット」(政府筋)ということになる。

首相サイドが2018年中の国会発議を目指すのは、こうした政治日程の壁が背景にある。総裁選で改憲論議を経て首相が圧勝すれば、9条改正も含めた自民改憲案は総裁選後にすんなりまとまる可能性が大きい。それまでに時間をかけて公明党の協力を取り付け、9条改正に理解を示す維新とも連携して年内発議に持ち込めば、2019年春の統一地方選前の国民投票が可能となる。しかも、国民投票で改正が決まれば、新天皇即位に合わせての改正憲法公布という「歴史的区切り」も現実味を帯びる。まさに「安倍改憲を政権のレガシー(遺産)としたい首相にとってのベストシナリオ」(自民幹部)というわけだ。

9条改正は「暴走より急がば回れ」が現状

ただ、9条改正には「国民投票の壁」(公明党幹部)がある。最新の主要メディアの世論調査でも「9条改正には反対」が過半数だ。国民投票は改正項目別の〇×投票となる見通しだが、首相が本丸と位置づけた「9条改正」が反対多数で否決されれば「事実上の首相不信任で、退陣表明に直結しかねない」(自民長老)のが政界の常識だ。首相も「国民投票での過半数の賛成が見込めなければ発議などできない」と漏らしているという。「改憲を急いで退陣に追い込まれては、元も子もない」(首相周辺)というわけだ。となれば、首相が1強を維持し続けても安倍改憲の早期実現は「至難の業」(首相経験者)ともみえる。

首相は3日に出演した民放テレビ番組で、これまでに嫉妬した政治家を問われると、石原慎太郎元東京都知事を挙げた。「芥川賞作家でヨットが好きで、かつ政治家。永田町にも霞が関にも世論にもつねに挑戦的でかつイケメン。何でも言いたいことを言いながら、すべてを手に入れている」のが理由だという。高齢になっても政界を騒がせ続けている石原氏は「暴走老人」を自称しており、首相の告白は「自分も暴走したいという本音の表れでは」(周辺)との見方もある。しかし、改憲双六で念願の上がりにたどり着くためには「暴走より、急がば回れ」(自民長老)というのが現状といえそうだ。