鈴木康大

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 昨年9月に行われたカヌーの日本スプリント選手権で、日本代表選手がライバルのドリンクに禁止薬物の筋肉増強剤メタンジエノンを混入させていたことが9日、明らかになった。被害選手はドーピング検査で陽性となっていた。2020年の東京五輪代表入りを目指していた国内トップ選手が、仲の良かった後輩を陥れる前代未聞のスキャンダル。日本カヌー連盟は最も重い除名処分とする方針だ。

 東京五輪を2年後に控えたスポーツ界に、衝撃が走った。ドーピングといえば禁止薬物入り風邪薬の誤服用などがほとんどの日本で、カヌーのトップ選手による“卑劣”な行為が発覚した。

 日本カヌー連盟がこの日、鈴木康大(やすひろ、32)=福島県協会=が昨年9月、小松正治(せいじ、25)=愛媛県協会=の飲み物に禁止薬物を混入させていた事実を公表。古谷利彦専務理事(54)は「スポーツマンシップという日本人が長年積み上げてきた美徳を著しく傷つけるもの」と、険しい表情で謝罪した。

 昨年9月、石川・小松市の木場潟競技場で行われた日本選手権。カヤックシングル男子200メートルで優勝した小松がメタンジエノンの陽性と判定され、日本アンチドーピング機構(JADA)は暫定的資格停止処分を下した。小松は潔白を主張。同500メートル5位だった鈴木が連盟に対して11月に“犯行”を告白した。

 鈴木はインターネットを通じて薬品を購入。錠剤を砕いた粉末を、会場内にあった小松のドリンクボトルに入れた。鈴木は東京五輪の代表選考で有利になるよう、強力なライバルの小松を陥れようとしたと説明。若手の台頭に、焦りがあったとみられる。

 JADAによると他者からの混入によるドーピング違反発覚は国内初。JADAは鈴木を8年間の資格停止処分とし、小松の処分を解除。連盟は8日の緊急常務理事会で、最も重い除名処分を3月の理事会に提案することを決めた。

 実は薬物混入だけではない。10年の広州アジア大会の頃から小松以外の選手を含めパドルの破損や紛失、現金盗難などの被害が度々発生していた。鈴木はこれら一部への関与も認めた。小松以外の3選手とは示談が成立したが、小松は石川県警に被害届を提出。県警も窃盗などの容疑で捜査に着手している。

 2人はカヤックペアでコンビを組むなど、普段から仲が良かった。小松に陽性反応が出たとき、最初に相談した相手も鈴木だったという。

小松正治「今回、周囲の皆さまのご支援を得て競技生活に復帰できることとなったことについて、心より感謝の言葉を述べたいと思います。2020年の東京オリンピック出場を目指して、日本代表として今後とも競技に精進していく所存です」

友添秀則・早大教授(スポーツ倫理学)「あしき勝利主義が背景にある。名誉、地位のために勝利が必要。そのために手段を選ばない典型例だ。世界は、記者会見中でも事前に用意された飲み物に手を出さない選手が多い。陥れられることを警戒するからだ。日本はドーピングに対する感受性が低く、教育もされていない。わが国もアンチ・ドーピングへ、いい契機にすべきだ」

メタンジエノン

 筋肉量を増やすことを目的とした筋肉増強剤(アナボリックステロイド)の一種。体の中にあるタンパク質の合成を促し、筋肉を増やす効果がある。“最古のステロイド”と言われ、効果が高いことでも知られるが、副作用も指摘されている。世界アンチ・ドーピング規程において禁止薬物に指定されている。

鈴木 康大(すずき・やすひろ)

 1985(昭和60)年10月6日生まれ、32歳。千葉県出身。小学生でカヌーを始め、銚子商を経て立命大在学中には日本代表に選ばれた。2010年広州アジア大会スプリント・カヤックシングル1000メートルで同種目日本勢史上初の銅メダル。14年の仁川アジア大会でスプリント・カヤックペア1000メートル4位。17年8月の世界選手権に出場。1メートル80、82キロ。

カヌー・スプリント

 流れのない穏やかな水上で一斉にスタートし、直線コースで順位を競う。片側に水かきのあるパドルでこぐカナディアンと、両端に水かきのついたパドルでこぐカヤックがある。種目は1人乗り、2人乗り、4人乗りがあり、距離は200、500、1000メートルの3つ。20年東京五輪では男女計12種目が行われる。日本は前回のリオ五輪で出場を逃した。カヌー競技にはスプリントのほか、急流でタイムと得点を競うスラロームがあり、リオ五輪で羽根田卓也が日本カヌー勢初の銅メダルを獲得した。