JR九州の肥薩線を走る観光列車「かわせみ やませみ」。観光客に人気の高い同線でもダイヤ改正で列車が減便される(写真:グッチー / PIXTA)

JR九州が昨年12月に発表した2018年春のダイヤ改正が、波紋を呼んでいる。九州新幹線・在来線を合わせて実に117本の減便。特急列車では「きらめき」(門司港・小倉―博多)、「有明」(吉塚・博多―長洲)などが大幅に減らされる。また、肥薩線や吉都線などただでさえ本数の少ない南九州のローカル線で、日中の列車を含めた数本が削減されるなど、JR九州の大半の路線で大胆な運転本数の削減が行われることが発表されたのだ。

この“減便”、近年ではJR北海道が普通列車79本を削減した2016年3月のダイヤ改正を上回る規模である。

本当に利便性を損なう?

この“大減便”に対しては、当然のごとく沿線自治体からの反発が相次いでいる。12月26日には、沖縄を含めた九州8県の知事らでつくる九州地域鉄道整備促進協議会がJR九州に対して減便見直しを求める要望書を提出。沿線市町村も含め「唐突」などと批判する声も目立つ。株式上場から約1年、いよいよ本格的に“合理化”に舵を切ったのか、と訝るのも無理はない。

では、今回のJR九州のダイヤ改正、本当に自治体側が言うように“利便性を損なう地方切り捨て”の改正なのだろうか。

今回のダイヤ改正で日中の複数の列車が減便対象となっている路線のうち、特に利用者数が少ない路線は肥薩線と吉都線。路線単位で見れば、肥薩線の平均通過人員は458(人/日)、吉都線は466(人/日)。JR九州全路線の中でも圧倒的なワースト2である。さらに肥薩線の人吉―吉松間は108(人/日)と、全国的に見ても屈指の閑散線区となっている。


「かわせみ やませみ」の車内(撮影:尾形文繁)

肥薩線には観光色の強い特急「いさぶろう・しんぺい」「かわせみ やませみ」「はやとの風」などが走り、日本三大車窓の一つにも数えられる“矢岳越え”など、観光路線として名高い。実際、これらの観光列車では外国人観光客の姿も多く、それなりの賑わいを見せている。

しかし、通学時間帯からも外れた平日日中の普通列車に乗ってみれば車内はガラガラ。単行気動車には乗客がまばら……どころか1、2人ほどしかいないことも珍しくない。これは観光列車や特急列車の走らない吉都線でも同じこと。さらにそのわずかな乗客も鉄道ファンだったりする始末だから、もはや地元住民の“日常の足”としてはほとんど機能していないのが実態なのだ。

「ほとんど乗ったことない」

吉都線沿線に暮らす男性は言う。

「乗ったことはほとんどないですね。普段の移動は全部車ですし、都城や吉松に用事があるときもそう。そのほうが遥かに早くて便利ですから……。乗っているのはほとんどが通学に使う学生さんばかり。このあたりに住んでいる人はみんな同じだと思いますよ」

事実、吉都線には並行して宮崎自動車道が通じているし、肥薩線も九州を縦断する九州自動車道が強力なライバルとして立ちはだかっている。主要都市間には高速バスも運行されており、利便性という点でも鉄道は後れを取っているのが現状だ。それが利用者数の少なさにつながっているというわけである。

逆に言えば、今回のダイヤ改正での減便は、需要の大きい通学時間帯を外して極端に利用が少ない早朝・日中・深夜が対象で、利便性を大きく損なうわけではないとも言える。

そのためか、減便をめぐる報道への沿線住民たちの反応は意外と冷静なのだ。肥薩線で乗り合わせた人吉市内で暮らす60代の女性は次のように話す。

「普通列車がなくなると、そりゃ少しは不便になるとは思うけど大きな影響はないでしょう。特急列車がなくなるわけでもないですし。実際、乗り降りする人なんて特急の停車駅だけですから。もちろん、特急料金を払わなきゃいけなくなるとか、そういう問題もあるけど、しょうがないですね」

別の男性も言う。

「主な町を結ぶ役割なら特急でも充分。観光列車はいつも賑わっているけど、ほかの列車はガラガラだからね。通院とかで使っている人はいるけど、それさえ補う手段があるならみんな減便にもすぐに慣れると思いますよ」

つまり、鹿児島本線など主に都市圏を通る路線ならまだしも、もとより利用者の少ないローカル線では今回の減便、言うほどの影響はなさそうというわけだ。

「廃線へのきっかけ」を懸念

では、何が問題なのか。ある減便対象路線の沿線自治体関係者は、「最も懸念しているのは、今回の減便が廃線の議論につながること」と打ち明ける。

「JR九州の株式上場・完全民営化で心配していたのは合理化によって利便性が損なわれること。それが今回のダイヤ改正で現実のものとなった。『はやとの風』の臨時化や特急『きりしま』のワンマン化、無人駅の増加などもそう。利用者の多い通学時間帯の列車こそ確保されていますが、それは最低条件。減便で利便性が損なわれれば、一層利用者離れが進む懸念もあります。で、結果として廃止の方向に進む。それだけは避けたいところです」

確かに、都市圏の路線なら多少の減便でも利便性が大きく低下することはない。一方で、ただでさえ本数の少ないローカル線は減便によって利用できる列車がほぼ通学時間帯に限定され、日中に数時間も列車間隔が空くなど利便性は極めて悪化する。これが利用者数のさらなる減少につながり、廃止やむなしの方向に議論が進む可能性も捨てきれないだろう。

では、解決策はないのだろうか。最もわかりやすいのは、日常的な利用者の増加。しかし、人口減少に歯止めがかからず、さらに“車社会”が完全に根付いている沿線地域では利用促進と言っても簡単なことではない。“それができるなら最初から困っていない”である。

そこで可能性を見出すとすれば、観光ということになるだろう。それこそJR九州が各路線で投入して全国的にブームを生んだ”観光列車”である。けれど、観光列車と言っても「形式的に観光列車を投入するだけではなくて、路線そのものの価値向上、ひいては地域全体の活性化につながるものでなければ意味がない」(ある第三セクター路線の関係者)。これを実現するためには、鉄道事業者だけでなく地域・沿線自治体にも相応の努力が欠かせない。

「ただ自家用車から鉄道に切り替えてくれと言っても、沿線の人たちの生活スタイルを変えることは容易ではない。むしろ、本心から沿線の人たちが『なくしてはならない』『町の自慢』と思えるような価値ある路線にすることが、沿線への利用促進につながる。本質的な“路線の価値向上”をもたらす観光列車には、地域との緊密な連携、さらには地域からの自発的な動きがなければ意味がない」(前出の三セク関係者)

地域との緊密な連携を

これはもちろんJR九州のローカル線でも言えること。実際、同社はこれまで多くの路線で観光列車を投入してきた“パイオニア”でもあり、それによって路線の価値向上や地域のブランド力強化にも大きく貢献してきた。今回の減便ダイヤ改正がこうした地域との関係を傷つけることになるとすれば、それこそ路線の存続に関わる事態になりかねない。

青柳俊彦JR九州社長が「長崎新幹線が開通する2022年まで大きなダイヤ改正はない」とコメントしているように、当面沿線自治体が不安を感じている“路線の廃止”が俎上に載ることはなさそうだ。理想論かも知れないが、今回のダイヤ改正を契機に、各路線の価値を一層向上させ”単なる交通機関のひとつ”以上の存在にするべく事業者・沿線自治体双方が緊密に連携して取り組んでいくことこそが、将来にわたって現状の鉄道網を維持することにつながるはずだ。