〈旅と写真とゴハンと〉旅する写真家が魅せられた、奥入瀬渓流を辿るおいしい一期一会

写真拡大 (全13枚)

写真家たちが、旅先での“おいしい記憶”を、写真とともに振り返るシリーズ。第3回となる今回は、女性の旅写真家の先駆者である山口規子さん。国内はもちろん世界各国を訪れた山口さんが鮮明に記憶する、青森県と秋田県でであった、旅の風景&グルメとは。

旅と写真とゴハンと Vol. 3


旅した人/山口規子さん 旅した場所/青森県


山口さんが撮る旅の写真は、物語のはじまりを予感させる。臨場感あふれる景観、今にも話しかけられそうな人々の表情、目前に立ちはだかるような建築とその場の空気を写し出す。食の写真も然りで、屋台の地元グルメもグランメゾンのフレンチも山口さんのフィルターを通すと、旅先でしか味わえない唯一無二のご馳走として見る者の食指を動かす。

旅ゴハンの醍醐味は空気を食べること


旅と食は切っても切れないという山口さん。

その理由を聞いてみるとシンプルな答えが返ってきた。

「旅先での食が特別なのはそこの空気を食べているから。沖縄で飲むオリオンビールがおいしいのであって、都内で飲んでもその味は異なるものですよね。同じく、その場所の空気を写すのが旅写真。匂い、光、湿度……。『そこ』に身をおかないと感じることのできない、それらを含めた空気の一期一会がまさに旅の醍醐味。長くこの仕事をしていると同じ場所に趣くことが多々ありますが、飽きないですね」

豊かな水の表情に魅せられた、奥入瀬渓流


今回、山口さんが教えてくれた旅先は、青森県にある奥入瀬渓流。

カメラメーカーのニコンが、新しい機種(D7500)を発表するにあたり、プロのフォトグラファーの作品と撮影する様子を紹介するスペシャルムービーを制作する企画がきっかけ。撮影の打診があったのは5月。水をテーマに作品撮りをしている山口さんの「新緑の季節の奥入瀬渓流を撮りたい」という思いが叶った。

「とても美しい新緑でした。緑が鮮明すぎて目が痛くなるくらい(笑)。全長は約14km。ダイナミックな滝が続いたかと思えばなだらかな渓谷が現れたり、ときに強くときに優しく、水が様々な表情を魅せてくれます。壮大なスケールに圧倒されましたね」

「昼と夜、または光の反射によって水のきらめきが変わり、すべてのシーンがその瞬間だけのもの。自分が被写体になる仕事だというのに、飽きることなくずっとシャッターを押していました」

撮影の練習場としても格好のスポット


撮影の仕事のほか、写真の講師としても活躍する山口さん。奥入瀬渓流は撮影の練習としても最適な場所だとか。

「奥入瀬はどこを撮っても絵になる。ゆえに構図で個性を出す練習にもなります。ほかにも、苔を主役にした撮影でマクロレンズの使い方を習得したり、渓流や滝など動きや流れがある自然物の表情をどう表現するか、シャッタースピードを調整する練習にもなったりするなど、写真好きには絶好の場所です」

例えば、山口さんが撮影したこちらの2枚の写真。

蔦温泉旅館のまわりに広がる遊歩道から、蔦沼(つたぬま)を撮影したものだが、印象がまったくことなる。

「上の写真の完璧なまでの水鏡は静寂を感じさせます。実際、鳥の羽音が聞こえるくらい、静かな場所でした。とそのとき、風がふいて湖面を揺らしました。その瞬間をとらえたのが下の写真。きらきらと輝く水面は吸い込まれそうな麗しさ。このタイミングでシャッターを切れたのは運といえばそうですが、私自身が全身でその場の空気を楽しんでいたからこそ気がついたのかも知れません。“キレイで完璧な写真を撮ろう”という目線だけで見ていたら見逃していたのかも」

自分でセッティングできないのが旅写真の難しさでもあり醍醐味でもあると続ける山口さん。講義でも、いい写真を撮るために必要なのは「自分が楽しむこと」を第一に唱えるという。「楽しむためには好奇心が必要です。好奇心とは被写体を知りたいという欲望にもつながりますから」。旅先での食も同様、そこでしか味わえない空気感を楽しむのが好きだという山口さんの“食べたい”欲を刺激したグルメスポットを、同じく青森よりご紹介。

ソウルフード「バラ焼き」をアウトドアスタイルで/十和田市 「司バラ焼き大衆食堂」


十和田市のソウルフード「バラ焼き」で人気のお店がこちら。十和田市現代美術館の近くにあるので立ち寄りやすいのもうれしい。

「バラ焼きとは、豚肉と玉ねぎを焼いただけのシンプルな料理ながら、焼肉のような甘辛いタレでゴハンが進む、進む。十和田市内には、バラ焼きのお店がたくさんありますが、こちらのお店はテント仕様。アウトドア感があってお気に入りです」

店員が目の前で豪勢に焼いてくれるのもライブ感があって楽しかったとか。

女性が切り盛りする朝市で、新鮮魚介と刺身を好きなだけ/八戸市 「魚菜小売市場」


次にすすめてくれたのは、八戸の台所として名高い朝市。こちらの市場は女性が中心となって切り盛りしているせいか、アットホームで和みやすい。

「新鮮な魚介類はその場で直ぐ食べたい。それが叶うのがこちらの市場。ゴハンと味噌汁を買ったら、おかずは各店舗で好きなものを買います。筋子、魚、帆立などどれも新鮮な魚介が並び、“新鮮魚介のビュッフェ”さながら。私は、どんぶり仕立てに。ふかふかの白いごはんに盛り付けました」

山口さんが即席で作った海鮮丼。

鮮度抜群で深みある味がした筋子は、特に忘れられない味。

地元の人も朝ご飯代わりに訪れるとか。

毎日通った、あんみつの隠れ名店/青森市 「四季の千成」


最後に紹介してくれたのは、あんこ(粒あん派!)好きの山口さんが、あんみつ目当てで足繁く通った食事処。

「鍋焼きうどんやラーメンを出す食事処で、それももちろんおいしいのですが、ぜひとも食べて欲しいのがあんみつ。自家製のぷりぷり寒天は、しっかり歯ごたえのあるハード系。きちんと寒天の香りがするあたりに“本気度”を感じます。白玉も大ぶりでもっちもち。あんこも甘過ぎずグッドバランス。滞在中、毎日通ったほど」

店主のおおらかな人柄もお店を訪れる楽しみのひとつ。

山口さんが、次に食べたい、旅ゴハン


「旅ゴハンとは、その土地のいわゆる『地のもの』を食べることが基本ですが、私が次に食べたいのは『地のもの』と『地のものでないもの』を掛け合わせてできた意外なメニューです。それは日本の『和』と海外の『洋』かもしれないし、『海』と『山』のものかもしれません。『地のもの』の味をきちんと知っている地元の人にしか発明できない、そんな料理を食べてみたいですね」

「また、海外写真教室と称した撮影ツアーが2月に開催されます。今回の舞台はカンボジア。5つ星のリゾートホテルで提供されるモダンなクメール料理、アンコールワットのナイトマーケットで味わう地元グルメなど、どんなおいしい!にであえるか。また、それらを参加者がどのように写真として表現するのか。今から楽しみです」

●撮影ツアーに関する問い合わせ先:CANツアー(キャンツアー)
tel. 03-3352-5200

PROFILE


山口 規子(やまぐち・のりこ)

栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部 写真技術科卒業後、文藝春秋社の写真部を経て独立。旅行誌、女性誌を中心に活躍中。『イスタンブールの男』で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、『路上の芸人たち』で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。写真集は「メイキング・オブ・ザ・ペニンシュラ東京」「Real-G 1/1scale GUNDAM Photographs」「奇跡のリゾート 星のや 竹富島」など。料理や暮らしに関する撮影書籍も多数。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

写真:山口規子

取材・文:吉村セイラ