都電8500形(「Wikipedia」より)

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 11月16日、東京都交通局が日暮里・舎人ライナーと都電荒川線の2路線に駅ナンバリングを導入することを発表した。駅ナンバリングとは、主に日本語を理解できない外国人観光客でも容易に鉄道などの公共交通機関を利用できるようにとの配慮から、駅を数字やアルファベットなどで表した制度のこと。たとえば、東京の大動脈である東海道本線の東京駅はJT01、山手線の新宿駅はJY17と表わされる。

 駅ナンバリングをいち早く手掛けたのは東京メトロで、2004年から段階的に導入してきた。それらに追随するように、JR東日本や私鉄各社も駅ナンバリングをこぞって導入している。

 これまで東京都交通局でも、一定程度の外国人観光客利用が見込める都営地下鉄に駅ナンバリングが導入されていた。日暮里・舎人ライナーや都電荒川線への駅ナンバリングの導入が遅れたのは、利用者の大半が地元民だったからとされていた。ようやく日暮里・舎人ライナーと都電荒川線にも駅ナンバリングが導入されることになったわけだが、この駅ナンバリングをめぐって鉄道ファンのみならず地元民や利用者がざわついている。

 発表された日暮里・舎人ライナーの駅ナンバリングは、「NT○○」(○○部分に数字が入る)。「Nippori-Toneri」からNとTの文字を取っている。問題だったのは、都電荒川線の駅ナンバリングだ。

 都電荒川線は新宿区の早稲田から豊島区・北区を走り抜けて、荒川区の三ノ輪橋までを走る路線。東京の公共交通機関では決してメジャーな存在ではないが、唯一の都電として根強い人気がある。

 都電荒川線に駅ナンバリングが付与されることになり、当然ながら地元民からはToden-Arakawasenから「TA○○」となると思われていた。しかし、交通局から発表された駅ナンバリングは「SA○○」というものだった。これに、鉄道ファンのみならず地元民にも衝撃が広がっている。

●「東京さくらトラム」

 なぜ、都電荒川線がSAなのか。実は2017年4月から都電荒川線には、「東京さくらトラム」という謎の愛称が付されることになった。荒川線の沿線には確かに飛鳥山や面影橋といった桜の名所がいくつかある。しかし、都電沿いでもっとも有名な花といえば、バラであることは地元民・利用者なら衆目一致している。そうしたこともあり、「東京さくらトラム」が発表された直後にも地元民からは「都電荒川線で呼び親しまれているのに、わざわざ『東京さくらトラム』という誰も呼ばないような名前にするのか?」といった疑問も多数聞かれた。

 そして、駅ナンバリング「SA○○」の導入がトドメとなる。駅ナンバリングに「SA○○」を採用するということは、これからも「東京さくらトラム」を使い続けるということを宣言したことに等しい。

 なぜ東京都はここまで「東京さくらトラム」にこだわるのか。その理由は判然としない。東京都交通局は、「一度決めた愛称を簡単に変えることはできない」と説明する。憤然としながらも、荒川区職員は推測する。

「荒川線という名称がついているものの、都電は東京都が運行しています。荒川線は新宿区・豊島区・北区も走っているので、荒川線という名称だと『荒川区しか走っていない』『荒川区の電車』という印象を与えます。東京都は、ほかの3区にも配慮して『東京さくらトラム』を使いたいのでしょう。しかし、都電荒川線の大半は荒川区を走っていますし、荒川区にとってかけがえのない財産です。そうした自負と愛着があるからこそ、荒川区はほかの区とは比べ物にならないぐらい沿線の美化・緑化にも力を入れてきましたし、荒川線の活性化にも取り組んできました。そうした取り組みを台なしにするかのような、東京都のゴリ押しには納得がいきません。まるで東京都が荒川線という名称を葬り去ろうとしているようにも映ります」

●「東武アーバンパークライン」

 実はこれに似た動きが、最近の鉄道業界では静かに進行している。その先駆けとされるのが、東武鉄道の野田線だ。

 東武野田線は埼玉県の大宮駅から千葉県の船橋駅を結んでいる。路線名は、中間に千葉県野田市(野田市駅)があることが由来になっている。千葉県民や沿線自治体在住者ならともかく、東京都民や神奈川県民が野田と聞いてもイメージが沸きづらい。14年に「東武アーバンパークライン」という愛称を打ち出した東武鉄道にとっても、そうした思いがあるようで、沿線のブランド化と沿線住民に親しみを感じてもらうことを狙いに含んでいた。

 だが、こうしたキラキラネーム化した路線愛称は、かえって地元住民や鉄道ファンから総スカンを食う要因になってしまう。国土交通省の担当者はいう。

「鉄道路線の愛称は、特に法令等で定める基準はありません。駅ナンバリングに関しても同じです。すべて事業者に任せています。明らかに公序良俗に反している愛称なら別ですが、実態にそぐわない路線愛称がついても国土交通省から何かを言うことはありません」

 過去にも鉄道業界でキラキラ化した名称が批判の対象になったケースはある。JR東日本は国鉄時代に使用されていた電車特定区間を、民営化に合わせて「E電」と呼び変えるようにした。しかし、この愛称は定着することなく、黒歴史として葬り去られた。

 利用者が使いづらく親しみが沸かない名称が氾濫するようなら、それは本末転倒だ。イメージアップやブランド化を優先するあまり、愛称名の暴走が目立つようになった。鉄道事業者のゴリ推しによるキラキラ愛称名が定着するのか。それとも地元民や鉄道ファンが以前から使い続けて慣れ親しんでいる名称が残り、キラキラ愛称は黒歴史と化すのか。今、鉄道業界は岐路に立たされている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)