気軽にLGBTについて学べる動画配信をスタートさせた「虹色ダイバーシティ」

さまざまな社会問題と向き合うNPOやNGOなど、公益事業者の現場に焦点を当てた専門メディア「GARDEN」と「東洋経済オンライン」がコラボ。日々のニュースに埋もれてしまいがちな国内外の多様な問題を掘り起こし、草の根的に支援策を実行し続ける公益事業者たちの活動から、社会を前進させるアイデアを探っていく。

「LGBT」とは、「Lesbian(レズビアン)」「Gay(ゲイ)」「Bisexual(バイセクシュアル)」「Transgender(トランスジェンダー)」の頭文字をとった言葉です。「LGB」は同性愛や両性愛の性的指向を指し、「T」は生まれた時の性別と自分で認識している性別が一致していないことを指すので、正確にはひとくくりにできないのですが、「セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)」を一般に知ってもらうため、まとめて呼ばれるようになりました。

【1月12日9時20分追記】初出時、「『T」は性同一性障害を指すので」とありましたが、誤りでしたので上記のように修正しました。

LGBTなどの性的マイノリティが抱える課題の中で、特に職場での課題に対して問題提起し活動を続けているのが、特例認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」です。「LGBTと職場」について調査研究をし、そのデータを基に企業や行政の取り組みをサポートし発信しています。

そんな「虹色ダイバーシティ」が今月から新しく始めた取り組みが、「あなたの知りたいに応えるLGBT情報番組 虹ステーション」。気軽にLGBTについて学べるYouTubeでの動画配信をスタートさせたのです。「LGBTとは?」という基礎から、「採用面接の担当者になったら」「性的マイノリティとトイレ問題」など具体的なシチュエーションに関しての困りごとや解決ポイントがわかりやすくまとめられています。

日本での「同性パートナーシップ証明書」交付の先駆けとなった渋谷区において渋谷区男女平等・ダイバーシティ推進担当課長を務める永田龍太郎さんも、今回の動画での発信に期待を寄せています。


渋谷区でのLGBTダイバーシティ&インクルージョン推進のシンボルマーク「レインボー・アイリス」を持つ、渋谷区男女平等・ダイバーシティ推進担当課長を務める永田龍太郎さん

「まだいろいろな企業や団体で『基礎知識を学びたい』というニーズが多いんですが、人が足りないのでそれが足かせになっています。こういう形で適切な情報が人々に届くというのは推進のためのバックアップになる活動だと思います。知識だけではなく腑に落ちてくれる人、気持ちの面でもっと社会が良くなるといいなと思っている人が増えていけばいいなと思っています」

「当事者」から「適切な情報を」届けたい

動画での発信を始めたきっかけや想いを、GARDEN堀潤が「虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀さんにインタビューしました。


本記事はGARDEN Journalism(運営会社:株式会社GARDEN)の提供記事です

:いい形での動画での発信が始まりましたね。情報を求める人にとってもかなりわかりやすい内容になっているのではないですか?

村木:ありがとうございます。短い動画にすればすき間時間に見てもらえるのではないかと思い、作りました。

:どういう狙いで動画制作をされたのですか?


LGBTを学べるYouTueチャンネルを開設

村木:もともとは2015年に「Google Impact チャレンジ」という企画があり、そこに応募した企画なんです。最初は基礎知識が必要かなと思ってアプリにするつもりだったのですが、あれよあれよという間にLGBTの状況も変わってきて。その中で今情報として出していくには何がいいのかなと思ったときに、やはり「当事者が話している姿を見せるのもまだ必要だな」「なるべくちゃんとデータに基づいた形でほかの方から監修もいただいた適切な情報を流したいな」と思って作っています。

:LGBTの状況も変わってきたというのは、具体的にどのような点が変わってきましたか?

村木:厚生労働省がセクハラの指針に入れたり、文科省がいじめ防止に入れたり、省庁レベルでの対応が進んできたこと。そして、地方自治体の対応が今どんどん進んできていますね。札幌市が同性パートナーの登録を始め、これで6つの自治体になりました(※1)。

本当に地方自治体の取り組みが早いので、これから横展開していくと思います。その中でも札幌市はとてもラッキーでした。地元にしっかりとした団体がもともとあって、そこと連携して施策が出せている。でも、そういう自治体ばかりではなく、特に地方だったら地元にあまり団体がないところも。その場合はLGBTに関心のある議員さんが自分たちで考えながら試行錯誤していくような状況なんです。学校も一緒です。いろいろな小中学校、高校から講演依頼頂くのですが、われわれの団体はとにかく人数が少ないのでとてもお応えしきれない。とくに、地方だと地元の団体を紹介したくてもどの団体が良いのかわからなかったり、そもそも団体が見当たらなかったりもするんです。

「行ってあげたいけれど行けない、どうしたらいいのかな」というときに、動画コンテンツがあればと。たとえば、3分から5分程度の短い動画だったら授業時間の中で収めることもできますし、企業の研修でも昼休みの間に「これとこれを見ておいて」ということもできます。組み合わせて使えるようにしたいなというのも考えたことです。


:確かに、GARDENでメディアリテラシーのワークショップをしている中でも、企業の人事担当の方などからLGBTについてのコミュニケーションについて相談を受けることがありますが、「虹色ダイバーシティ」などのNPO法人を紹介したくても手いっぱいだろうなと思って困ってしまうこともあります。関心が高まっているということはとてもいいことですし、企業側、自治体側も何かやりたいという機運がある中で、こうした動画があると助かりますね。

村木:今回、LGBT基礎知識をYouTubeの再生リストにまとめてあります。その再生リストを横軸でニーズ別にしたんです。たとえば、「企業の人事担当者だったらこの再生リストを見て」「学校の先生だったらこれ見て」と。また、当事者でも正しい知識や適切な知識を得る機会ってなかなかないんですね。いろんな情報が、かえってあふれすぎていて、どれが正しい情報なのか判断がつきにくくなっていると思います。そういう意味で、当事者向けの再生リストも作ろうと思っています。

:そうした中で、今向き合うべき課題、テーマというのは何でしょうか。

分断や格差をなくし、議論を一歩前へ


村木:まず最初に、LGBTの取り組みがスタートしているところとしていないところがあって。スタートしていないところは何かがハードルになっているんですよね。たとえば、「行政でやるべきことなのだろうか」「学校でやるべきことなのか」「そもそもやるべき事柄なのか」という点で止まっていることが多いです。でも、ほかの学校や職場がどうやって乗り越えたのかを紹介してあげたら乗り越えやすいんじゃないかなと思いました。

:社会運動が広がっていく中で、いろいろな声が届くと思います。賛同もあれば批判の声や誤解もあったり。議論をすることはとても大切ですが、一方で分断を生んではいけないですよね。

村木:本当にそう思います。方向性を間違えないようにしないといけないなと思っています。特に「アライ(Ally:LGBTを理解し支援する人)」の方が「どう支援したらいいのか」と一生懸命になってくださるのはすばらしいことなのですが、「助けて」と言ってもいないのに「支援します」と言われても戸惑ってしまう当事者も多いのかなと。「アライ」は、「同盟」を意味する「ally」が語源です。当事者が本当にしんどそうなときに「大丈夫?」って声をかけてもらえればそれでいいのかなと思います。闘う方向を間違えないようにしないといけないですよね。

:間違いというのは、たとえばどういうことでしょう。

村木:たとえば、当事者同士がお互いに、ということでしょうかね。

:それを乗り越えていくのにはどういうことが必要なのでしょうか。

村木:当事者同士が一枚岩にならなくてはいけないとは思っていないので、それぞれがここだと思うことをやっていけばいいのではないかと思います

:100人いれば100通りのあり様がありますからね。

村木:確かにそうだと思います。そうは言っても、自分のことは話せるけれども、ほかのセクシャリティについて話せるかというと、そうではない。まだ自信がないという当事者の方もたくさんいます。そういう方にも、「レズビアンについての困りごと」「トランスジェンダーについての困りごと」などに特化しても作っているので、そういうのを見ていただきたいなと思います。

:港区でも同性パートナーシップ条例制定の請願が届けられました。活動がいろいろなところで活発になっている実感もあります。一方で、メディアの取り上げ方の格差もあります。積極的に取り上げるメディアと、まったく触れないメディア、村木さんにとって日本のメディアの課題についてはどう考えていますか?

村木:メディアの方からの研修依頼も多いです。「これはよかった」と喜ばれるのは「用語集」。言葉の使い方がどんどん変わっていっているので、「今はこれが適切な言葉と言われている」「これはこういう理由で適切ではない」と用語集的に説明をすると喜ばれる。また、メディアで取り上げるか、取り上げないかの価値判断については、何が社会課題なのかを知っておかないと、「取り上げるべき」「取り上げるほどではない」という判断がつかない。そこにある課題をまず理解していただくことが大事かなと。取り組みに関して大事なのは、「その課題の解決策にちゃんとひも付いているか」です。「ほかのところもやっているからやっている」だと、ちゃんと課題解決策まで結びつかないケースが多々あるかなと思っています。安易な形ではなく、当事者の課題に向き合っていないと、ちょっと上滑りしてしまうものになるおそれはありますよね。

:今メディアが議論し、知見を集め、優先順位をつけてまず取り上げていくべき問題は何でしょうか?


子ども達の問題はやってほしい

村木:そうですね。まず、子ども達の問題はやってほしいなと思っています。教育の問題は10年先のことを決めていくので、まずは子ども達のことをやってほしい。それもあって、若者支援に取り組む「認定NPO法人D×P」の方とコラボしてイベントをやることにしました。

:村木さん自身は子どもの頃を思い出すといかがでしたか?

村木:18歳の時に自分がレズビアンだなと確信したのですが、周りにはレズビアンだとカミングアウトする人がまったくいませんでしたし、テレビの中にもいなかったぐらいですから本当に想像がつかない感じでした。今の子どもたちも同じ状況かもしれない。

:カミングアウトやアウティング(本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性同一性等の秘密を暴露する行動のこと)については、メディアでも取り上げられたことがありますね。

村木:LGBTは、子どもの頃からの成長過程でいろいろな困難に直面しますが、その時々でカミングアウトの壁が効いてくるんですね。自分のことを誰にも言えない、言っちゃいけないと思っていることで「助けて」と言えなくなってしまう。親や先生に相談することができなくなってしまう。だから余計に困難が続いてよりややこしい状況になってしまう。そういう傾向はあるかなと思っています。


:親や先生が具体的にできることはありますか?

当たり前に教室にいる

村木:LGBT当事者の割合というのは約8%いると言われています(※2)。カミングアウトされてから考えようと思わず、「当たり前に教室にいる」という前提で考えてほしい。ほとんどの当事者は大人に言いません。わかってもらえないような気がするから言わないんですよね。なので、カミングアウトされなくても「当たり前にいる」と思ってください。たとえば、「〇〇君」「〇〇ちゃん」「男の子」「女の子」ではなくて、「〇〇さん」に統一するなど気遣いをしていただきたいなと思います。また、相談できるよというのも明示してください。


:「当たり前にいるんだ」という意識、大切ですね。メディアが取り上げるべき問題、ほかにはありますか?

村木:あとは、「LGBT」といってもいろいろな方がいて、特にしんどいのは重複する方。「精神疾患かつLGBT」とか、「発達障害かつLGBT」とか、「耳が聞こえないかつLGBT」とか。そういう人はまだあまりメディアに出てきていないですよね。LGBT当事者だけの問題では解決しない。障害の問題や発達障害の問題などに取り組んでいる人たちに気づいて支えてもらわないといけないんですよね。ですから、LGBT団体だけではリソースとしてもはや足りないので、ほかの社会課題に当たっている行政の人やNPO法人の人たちと手をつないでやっていく必要があると思います。フジテレビのバラエティ番組が問題になったときには、まさにいろいろな団体が手を挙げて「おかしい」と訴えてくれました。あの動きは本当にありがたかったですよね。

:最後に、視聴者の皆さんに一言。

村木:まずは、YouTubeのチャンネル「虹ステーション」を登録をして、動画を見てくださいということです。無料で公開するというのはそれなりの思いを持ってやっていますので、ぜひ役立ててもらえたらと思っています。

(※1)2017年12月22日時点で、東京都世田谷区で56組、渋谷区で24組、三重県伊賀市で4組、兵庫県宝塚市ではまだこれから、沖縄県那覇市では18組、北海道札幌市では32組、合わせて134組のパートナー登録がされた。

(※2) LGBT層に該当する人は7.6%「電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」を実施」株式会社電通ホームページ

「特例認定NPO法人虹色ダイバーシティ」については「GARDEN」当該記事へ

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