「アロマ」と言うとみなさん何を思い浮かべるでしょうか? 「アロマテラピー」という言葉から「癒し」や「リラックス」というワードが真っ先に思い浮かぶ人もいるかもしれません。

「アロマ」=「香り」は人の好みもそれぞれなので、趣味の領域と考えられがちですが、企業も「香り」に注目。店舗やモデルルームなどに「香り」を取り入れたり、「働き方改革」に活用されたりと、アロマの可能性が広がっています。

アロマ調香デザイナーの齋藤智子さんに「アロマの可能性」についてお話を聞いてきた連載も今回で最終回。

最終回は、企業の「働き方改革」の一環として、「香り」を活用していきたいと考えている青山フラワーマーケットを運営する「パーク・コーポレーション」の空間デザイン事業「parkERs」ブランド・マネージャーの梅澤伸也さんを迎えて、お話を聞きました。

【第1回】「香り」が苦手ならアロマで取り入れて “引き算”で考える香りの哲学
【第2回】アロマ=「癒し」だけじゃない! 企業も注目している「香り」の可能性

(左から)齋藤智子さんと「parkERs」ブランド・マネージャーの梅澤伸也さん

植物があふれる空間とコラボする「香り」とは?

「parkERs(パーカーズ)」は、「日常に公園の心地よさを」をコンセプトに、植物があふれるオフィスや店舗、カフェといった施設や、空港、駅などの公共施設の空間デザインを手がけています。

--齋藤さんとコラボレーションして、3種類のオリジナルアロマを作ったそうですね。

梅澤伸也(以下、梅澤):はい。夜の冷たさが残る公園の一角をイメージした「草露」、昼過ぎの木漏れ日あふれる公園をイメージした「木漏れ日」、日が陰り始めた夕方の公園をイメージした「樹陰」の3種類を作っていただきました。青山フラワーマーケットの店舗やパーカーズのオフィスにも取り入れています。

--コラボのきっかけを教えてください。

梅澤:もともと齋藤さんの「香り」のファンでぜひ「パーカーズ」のオリジナルアロマを作ってください、というところからスタートしました。

齋藤智子(以下、齋藤):ちょうど去年のはじめにお話をいただきまして。会社の雰囲気などの要素をヒアリングして、何度も打ち合わせをして、作っては調整というのを繰り返して、できあがったのは5月くらいでした。

--齋藤さんとコラボしたのはなぜですか?

梅澤:僕たちは空間のデザインをしてるんですが、「香り」もデザインの一つだと思ってるんですね。そこの一番の想いが共感する人と作りたいなと思ったときにお願いしたいのが齋藤さんだったんです。

--「香り」もデザインの一つか……。そのあたりのお話もぜひ伺いたいのですが、齋藤さんの「香り」の魅力について教えてください。

梅澤:「引き算」がすごく上手だと思います。「香り」は、重ねて重ねて最終的によく分かんなくなっちゃうことがよくあるんです。

「香り」を作る方も自分の個性を前面に出したがることが多い。「ここの空間なら、これですよ」ってアクセントを一つ足しちゃいがちなんです。だから、空間として見たときに「実はそれって余分だな」と違和感を感じることも多いんです。

でも、齋藤さんは、「最小限」と言ったら語弊があるかもしれないですけれど、植物がある空間に寄り添う香りを最小限になるまで引き算していくんです。熱くなっていかないというか、そのバランス感覚がすごいなと思いました。

齋藤:ありがとうございます。香りは、サラッと流されたときに「あれ? 何かいい匂いがした?」というくらいがベストだと思ってるんです。サラッと風のように流れたその一瞬で、約0.2秒の記憶や情動、自律神経とかいろいろなところに作用する。

だから、香りって一瞬で「好き」か「嫌い」かが判断できるんです。私は、何か香ったっぽいけど、何となく気持ちよい、心地よいというのがいいなと思っています。

パーカーズさんが手がけるオフィスや施設はグリーンがたくさんある空間なので、華美な香りは絶対いらないんです。もともとの植物の香りもあるので。森林も行くだけで気持ちよいですよね、そんな感じ。

梅澤:基本的に植物って、好感度がめちゃくちゃ高いんです。100人いたら95人くらいは基本的にウェルカムなんですね。お花もそうなんですけど。植物が嫌いな人はよっぽどトラウマがある人で。

でも、せっかく植物があっても結局「何かいいよね」で終わっちゃうんです。最悪、植物がなくても、空間として成り立っちゃうので「何かいいよね」を超えていかないんです。

でも「香り」は五感だから「何かいいよね」が「あったらいいよね」に変わるスイッチの気がします。

今後は「香り」をデータ化していきたい

--先ほど、「『香り』もデザインの一つ」というお話がありましたが、そのあたりも詳しくお聞きしたいです。

梅澤:僕たちは「日常に公園の心地よさを」というのをコンセプトとして掲げているんです。公園はいろいろな目的を持って行くところですよね。子どもと遊んだりとか、絵を描いたり、ランニングしたりとか。帰る時は、みんな笑顔で帰っていく。そういう空間をいっぱい都市部に作りたいなというのが、パーカーズがやっていることなんです。

で、居心地がよい空間は、家だけではなくて、当然、オフィスもそう。働く人であれば、起きている間はオフィスで過ごすことが大半だし、オフィスが充実することは人生の半分くらいを充実させることにつながると考えているんです。1週間あるうちの5日間を充実させるというのが、重要なことなんじゃないかと。

それで、オフィスが快適になるだけで、もしかしたらいろいろな効果があるかもしれないっていうのを研究しているんですが「何かいいよね」を科学でちゃんと数値化したりとか、ちゃんと五感を見える化したりということをやりながら「緑がある環境って必然だよね」ということを伝えていきたいんです。

去年の6月に、リラックス効果を数値化するというサービスを「パソナ・パナソニック ビジネスサービス」さん、「日本テレネット」さんと始めたんです。人の視界に占める緑の割合を「緑視率」というんですが、視野の中に10〜15%緑が入ってくると人はリラックスすると学会で発表されているデータを活用するようにして。視覚の次はいよいよ「香り」かなと思っています。

--なるほど、それが齋藤さんとのコラボにつながるんですね。前回のインタビューで齋藤さんも「エビデンスをとっていきたい」とおっしゃっていました。今後もご一緒にということですか?

齋藤:はい、ぜひ。「香り」のエビデンスを取りながらご一緒したいと思っています。

--「香り」をデータ化したり、見える化したりするというのはやはり重要なのでしょうか?

梅澤:僕たちは、緑や植物が好きっていうコアなお客さんももちろんなんですが、その周辺にいる人たちを幸せにしたいなっていう思いがあるので、決裁権を持っている人に「うん」と言ってもらえる“材料”を作っていく必要があるなと思っています。

--確かに、アロマが好きな人たちは「いいね!」と言ってくれるけれど、知らない人たちは「それってどんな効果があるの?」と言いますよね。

「働き方改革」は時間だけではない

--今回のアロマはパーカーズさんが手がけたオフィスにも入っているんですか?

梅澤:入っています。すごく評判がいいです。齋藤さんの香りは、基本的にすごく好感度が高いです。誰にとっても受け入れられるし、みんなを笑顔にする香りを作ってくださるので緑とも相性がよく、よく考えられているんだなと思います。

--それは「働き方改革」の一環と言ってよいのでしょうか?

梅澤:はい。僕たちは「働き方改革」の場を改革したいんです。「働き方改革」と言うと、労働時間や通勤時間などみんな「時間」を改革しようとしていますけれど、企業の成長ステージによって残業がどうしても発生する会社はありますよね。

クリエイティブ系だったら、「正解」がないから期限ギリギリまで仕事に没頭する場合もある。だから、時間の改革って実は難しいと思うんです。

僕たちがやってるのは、「場の改革」で、従業員が健康に働くことが会社の業績アップにつながる。いわゆる健康経営なんですが、そこにつなげていければと思います。

齋藤:香りもそれに貢献できればと思います。「集中力を上げる香り」とか、働く人がどうありたいかというご要望に応じてきめ細かく作っていきたいですね。

梅澤:花とか緑があることで、人々が豊かになる。ヒトは猿から人になって500〜700万年くらい生きているんですけれど、99.9%森の中で生活してるんですよ。コンクリートジャングルの中で暮らすようになったのは、産業革命以降のここ200〜300年のことで本当にちょっとなんです。

そう考えると、「自然って気持ち良いよね」、「緑って気持ち良いよね」っていうのは、人間にとって当たり前の感覚なんです。だから、みなさん休日に山に行ったり、海に行ったりする。

僕たちは、都市にも緑を増やすことで、日常をより豊かにしていきたいと思っていて、僕たちはその先駆者になりたいなと常に思ってます。

--なるほど。今後も「植物」と「香り」の取り組みを楽しみにしています。


(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:河合信幸、東京・表参道の「パーク・コーポレーション」本社で撮影)