(左)医学博士●加藤俊徳氏(右)生物学者●長谷川英祐氏

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言いたいことが言えない。そんな不満をもつ人が「自分は内気だから……」と考えているとすれば、それは間違っている。話しかけるタイミングをつかめなないのは、あなたの「右脳」に問題があるかもしれないからだ。脳科学者、心理学者、生物学者という3人の専門家に「『ダメな自分』を5分で変える方法」を聞いた――。(第3回、全5回)

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2016年10月3日号)の特集「毎日が楽しくなる脳内革命」を再編集したものです。

■同僚へ「おはよう」と言っているか

「このあいだ立て替えた5000円、返して」という一言が言えない。「いつも私ばかりPTAの役員をやらされているけれど、たまにはほかの人に代わってもらいたい」と言いたいけれど、いざとなると言葉が出てこない。

こんな人は多いはずだ。世の中、言わなくても察してくれる人ばかりではない。黙っていれば異議なしと見なされ、今日も不満をためこむばかり。こんな自分を変えるにはどうすべきか。

「僕はわりと言いたいことを言うほうですが、日本社会ではこういう人間はどうしても風当たりが強くなる。自己主張が下手なのは必ずしも悪いことではないですよ」と言うのは生物学者の長谷川先生だ。

一方、「自分は内気だから言いたいことが言えないんだ、と思ったら大間違いですよ」と言うのは医学博士の加藤先生。

いざというとき言いたいことを言うには、「言いたいことを言っても関係が壊れない」と思えるだけの信頼関係が構築できていなければならない。加藤先生は嘆く。

「ほとんどの現代人は左脳ばかり使っているせいで、他人と面と向かってコミュニケーションするのが下手になっています。会社の同僚と毎朝ちゃんと目を合わせて『おはよう』と言っている人がどれだけいることか。そんな状態で、急に言いたいことが言えますか? 無理に決まっている」

■いつ話しかけたらいいのか

言いたいことを言えるようになるには、段階を踏んで、やるべきことをやる必要があるのだ。

「たとえば相手に何か頼みごとをしたいとき。なるべく相手の機嫌がいいときや、忙しくなさそうなタイミングを見計らって声をかけるでしょう。しかし現代人は、他人が今どういう状態かを察するのがとても下手になっている。だからタイミングをつかめず気後れしてしまい、言いたいことが言えないのです」(加藤先生)

まずは右脳の視覚系脳番地を使って、相手が今どんな状態なのかをよく見ること。手始めに、相手がどんな服を着ていたか、何色のネクタイをしていたかなどに関心を持つようにしよう。「すてきなネックレスだね」「趣味のいいネクタイですね」とほめるのも効果的だ。さらにそれを記憶にとどめることで、微妙な変化に気付けるようになる。

■おすすめはチャップリン

さらにおすすめなのは、一緒に働く同僚や部下をよく観察して、その印象を1日1回口に出してみること。なんとなく感じた印象を言語化して伝えることで、右脳から左脳につながる回路ができる。

「今日は顔色がいいね」
「今日は元気がないんじゃない?」

実はこれらは昨日との違いを認識していなければ言えない言葉なのだ。

見た目の印象を素直にぶつけてみれば、「ちょっと朝から体がだるくて」など、理由がわかる。そのようにして相手の状況を理解することでアドバイスもできるようになるので、印象を伝えてみるということは大切なのだ。

いきなり生身の人間を相手にするのは荷が重いという人は、舞台や映画、テレビドラマなどお芝居を見て、俳優の表情をよく観察することから始めてみよう。ただし洋画はあらすじを理解するのに字幕を追わなければならない。会話の多いドラマもセリフのやりとりに意識が向いてしまうので、俳優の表情を読み取るのは難しいだろう。

「おすすめはチャップリンなどの無声映画です。音声がない分、役者の表情や動きに注目して、何を表現しているのか、今どんな気持ちなのかを読み取らなければいけない。これは右脳を活性化することになります」(加藤先生)

パントマイムなど、注意してよく見なければ何をしているのかわからないもの、シルク・ドゥ・ソレイユのようなショーも、言葉がない分、右脳の理解力が求められる。

ペットや植物の世話をするのもいい。当たり前だが、動植物は言葉を話せない。こちらが様子を見て、「健康状態はどうか」「食欲はあるのか」「肥料をやったほうがいいのか」などと想像し、必要なケアをしてやる必要がある。

「朝顔などを見ていればわかりますが、植物も日々刻々と変化しています。よく観察して心に留めていると、『昨日は花が5つだったが、今日は7つ咲いた』というように変化に気付けるようになってくる。これが右脳の視覚系と記憶系の脳番地の強化につながるのです」(加藤先生)

■さらっと笑顔で断る

「傷つくのが怖いとか、性格がシャイだとかいろいろな要因がありますが、言いたいことが言えずに悩んでいる人はとても多いですね」と言うのは心理学者の諸富先生だ。特にノーが言えない人は、不満をためにためた揚げ句、いきなりキレることが多い。

これは人間関係を壊してしまう最悪のパターンだ。

そういう人のために開発されたのが、「アサーション」とか「アサーティブ」と言われるトレーニングである。

「これは自分の言いたいことだけを言うのではなく、自分も相手も尊重する伝え方です。ポイントは相手の立場に立ちつつ、自分の言いたいことを盛り込んでいくことです」(諸富先生)

たとえば休日に会社の部活動の試合の応援に来てほしいと頼まれたとしよう。「休みの日にわざわざ興味のない試合を見にいくのは嫌だ」と言えば相手が傷つくし、断ると関係が悪くなる気がする。だから心ならずもつい承諾してしまい、後悔するというわけだ。

こんなときアサーティブな言い方をすると、次のようになる。「今回は用事があるから応援に行けないけれど、もしあなたが出場するならいつでも行くからね」というように、相手にもプラスになる一言を付け加える。

そうするとウィン・ウィンの関係になるので、安心して言いたいことが自然に言えるようになるのだ。

「あとは、笑顔で断ることです」と諸富先生は付け加える。

「断るということにこだわって、謝罪しすぎる人がいます。あまりにもしつこく謝ると、誘ったほうも『誘っちゃって悪かったかな』と嫌な気分になるので、かえって人間関係が壊れやすくなる」

あまり考えすぎずに、さらっと笑顔で断るのがポイントだ。

▼利口者ばかりより、おバカがいたほうが成功するのはなぜ?
生物学者●長谷川英祐

使えない部下や同僚に頭を抱える人は多いかもしれません。デキる人だけでチームをつくればきっと成果が上がるだろうに……と考えたくなる気持ちはわかります。ところが、ある程度バカな個体がいるほうが組織としてはうまくいくという面白い研究があります。

広島大学の西森拓博士の研究グループは、最初にエサを見つけたアリのフェロモンを100%間違いなく追えるアリと、一定の確率で間違えて進んでしまううっかり者のアリをある割合で交ぜ、エサの持ち帰り率はどう変わるかを調べました。

すると完全に追尾するアリばかりがいる場合よりも、間違えるアリがある程度存在する場合のほうが、エサの持ち帰りの効率が上がったのです。

間違えるアリがいる場合は、最初のルートをショートカットするような効率のいいルートが発見されることがあるのです。今度は、そのうっかり者のフェロモンを追って、新ルートが使われます。効率ばかりを追い求める組織も、実は非効率であったりするのかもしれません。

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加藤俊徳
医学博士。加藤プラチナクリニック院長。「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。1万人以上のMRI脳画像とともにその人の生き方を分析する。
 

諸富祥彦
心理学者。明治大学文学部教授。臨床心理士。千葉大学教育学部講師、助教授を経て現職。中高年を中心に仕事、子育て、家庭関係などの悩みに耳を傾けている。
 

長谷川英祐
生物学者。北海道大学大学院農学研究院准教授。大学時代から社会性昆虫を研究。著書にベストセラーとなった『働かないアリに意義がある』などがある。
 

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(ライター&エディター 長山 清子)