日本企業の会議には「情報共有」という美名の下、多くの関係者が出席。ホワイトカラーの生産性を低下させている。(写真=iStock.com/peshkov)

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なぜ日本人の労働時間は長いのか。ひとつの原因は「無駄な会議」だ。ひとつでも無駄なのに、放っておくと「細胞分裂」のように会議の数は増えていく。なぜなのか。同志社大学大学院の加登豊教授は「新たな会議体を設ける場合には、既存の会議を2つ廃止せよ」と訴える――。

■「そんなものだ」と状況を放置

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今回の「一穴」=情報共有化が経営のあらゆる側面で強調されている

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ビジネスパーソンの1日は長くそして早く過ぎ去る。先進諸国の中では、日本は最も長く働く国である。その一方で、雑用、電話対応、会議等に忙殺されており、本来業務に従事する時間は極めて短い。あっという間に1日が終わるのは、業務に集中できる環境にあるか、付加価値を生まない活動に振り回されているかのどちらかであるが、多くの場合は、後者であると思われる。

数多くの統計データを引用するまでもなく、わが国企業の生産性は二極分化している。モノづくりに関する生産性(製造業における労働生産性)の伸びは主要7カ国(G7)でトップであるが、サービス業やホワイトカラーの生産性は極めて低く、OECD加盟国のなかで20年以上最下位から抜け出せていない。

製造現場での生産性に驚くほどの関心を示す日本企業であるが、なぜ、ホワイトカラーの生産性向上に向けた必死の取り組みが見られないのだろうか。「プレミムアム・フライデー」はすでに死語となっている。政府は「働き方改革」を呼びかけているが、遅かれ早かれプレミアム・フライデーと同じような運命をたどるであろう。

結論から述べるなら、ホワイトカラーの生産性向上が一向に進まないのは、現状に多くの問題点や不満があるにも関わらず、「そんなものだ」と状況を放置しているからである。少なからぬ取り組みを進めている企業でも、製造現場で徹底される5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字)、 構内物流の効率化、極限までの無駄の排除、乾いた雑巾を絞るような原価低減、厳格な時間管理などを実行している製造現場と、同等のレベルでホワイトカラーの生産性向上に取り組んでいるとは言えないだろう。

■会議が決定ではなく説明・情報共有の場に

ホワイトカラーの生産性が低レベルにとどまっている理由は数多い。それゆえ、今回は、「会議」およびそれに関連する業務の非効率に限定して検討することにしたい。

わが国企業では毎日、多くの会議が開催されている。担当業務に直接関連する会議が毎日、3つも4つあり、傍聴者として参加が可能な会議への出席に加えて、突然声がけされ出席し説明を求められるといったケースは、決して例外的ではない。このため会議が、担当業務に取り組む時間を圧迫している。本来業務に取り組む時間を確保するために、残業で対応せざるを得なくなり、就業時間が長くなる。

外国人管理者が、日本に会議に出席して驚くように、私たちが出席する会議には、多くの問題がある。そのいくつかを以下に列挙しよう。

●定刻どおりに会議が始まらない
●会議時間が長い
●膨大な量の会議資料があり、それが会議当日のテーブルの上に置かれているが、これら資料について、事前の説明はない
●議題が審議事項であるのに、決定が行われない

顧客からの電話対応などの理由で、予定した時刻に出席者が揃わないと、会議の開催が遅れてしまう。特に上席の管理者が遅刻すると、会議がスタートしないこともある。会議での報告事項や審議事項に必要とされる時間をあらかじめ設定していないので、予想以上に審議が長引く。会議のための資料は大量に準備されるが、参加者の多くはそれらを目にするのは会議が始まってからであり、資料内容の確認に多くの時間がかかる。

時には、報告や審議に必要な資料がととのっていないため、次回以降に報告や審議が繰り延べられることもある。それよりも何よりも、審議を経て決定を行うのではなく、その前さばきとしての説明のために会議の場が利用されることも少なくない。

上記のことが日常化している企業では、間違いなくホワイトカラーの生産性は極めて低い。意思決定に要する時間が長くなればなるほど、生産性は低下するからである。ただ、生産性よりもわが国企業の会議で重視されていることがある。それは、情報共有である。会議参加者の中には、審議される事項に直接関係のない者が会議メンバーとなっている場合もある。

彼らは会議に出席していなければ、担当業務のために時間が確保できるにも関わらず、会議の場にやってくる。それでも、良いのである。会議を通じて情報共有化レベルが上がると考えているからである。自分の業務に間接的であったとしても関連する情報には、触れておきたいという人も多い。

■大量に飛び交うメールの“CC”は読まれていない

情報共有化は何も会議に限っていることではない。大量の社内メールが毎日送られてくるが、その中には、受けて宛てに“To”として送られてくるものと“CC”で送られてくるものがあるが、一度、その比率を一カ月分計算して見るとよい。圧倒的にCCメールが多いだろう。そして、CCメールの大部分は、情報共有(「ご参考までにお目通しください」)を目的としている。

しかし、CCメールのすべてを読むだけで時間が浪費される。自分の時間を確保するために、大量に舞い込むメールを読むべきものと無視するものに仕分けする人も多い。しかし、仕分けに相当の時間がかかる。CCメールの送り手は、宛先人物全員がメールを読んでくれると考えるが、実はそうではない。そのため、「送った」「読んでいない」という不毛の問答に時間を割かなければならなくなる。どちらにしても、一方的に送りつけられるCCメールでは情報共有は達成できないのである。

会議運営が適切に行われないと、会議で時間が取られるだけでなく、会議前後にも準備や対応で時間を取られる。そして会議によって奪われた時間を取り戻すため、長時間労働が必要となる。無駄な会議があることで、事態は予想以上に深刻なものとなっているのである。

■取締役会が必ず正午に終わる小野薬品工業の工夫

それでは、どのように会議を進めればよいのだろうか。以下に要点をまとめておく。

1.会議の生産性に関わる測定尺度を設定し、生産性向上が進んでいるかどうかを確認する。測定尺度とは、例えば定時に参加予定者全員が着席している比率、審議事項が実際に決済された割合、会議中の中途退席者数(トイレや業務連絡電話での一時中座も含む)などが考えられる。

2.会議は情報共有の場ではないことを周知徹底する。情報共有は、会議前に完了させておき、会議では、審議に集中し、的確な意思決定を迅速に行う。審議に関連する資料がととのっており、会議での口頭説明が不要な案件もある。これらについては、即座に審議に入る。情報共有を図りたければ、CCメールのようなプッシュ型の情報提供ではなく、プル型(ほしい情報は、各自が自分で取りに行く)に重点を置くとよいだろう。

3.重要な会議は午前中に開催する。筆者が社外取締役を務めている小野薬品工業株式会社の取締役会は、午前中に開催されるだけでなく、毎月会議の開始時刻は変化する。

開始時刻は流動的であるが、終了時刻の正午は厳守される。開始時刻が流動的なのは、会議で取り上げられる審議事項と報告事項の数と説明に、必要な時間が毎回異なるからである。討議すべきことが多いと午前9時に、定例の報告が大部分を占め審議事項が少ない時には午前10時半にスタートといった具合である。各案件に必要となる時間は事前に十分に検討されているので、会議終了時刻が正午を超えることはない。

また、紙媒体の資料は最小限に抑えられ、説明資料の大部分は、参加者それぞれの正面に置かれたモニターに映し出される。社外取締役も社外監査役も製薬の専門家ではない。「作用機序」「プロトコル」(臨床実験の実施計画書)と言った専門用語が多数会議では飛び交うが、初出時にはもちろんのこと、時に触れて簡潔な説明がなされるので、知らないうちに専門用語にも精通できるような工夫がある。

会議が終われば、直ちにランチタイムとなる。取締役会メンバーと少数の事務局メンバーが参加するランチミーティングの話題は多様である。社外取締役・監査役は、国際情勢やAI/ロボットに詳しい多言語を操るシンクタンクの主任研究員、経営学者、公認会計士、弁護士で構成されているが、それぞれの専門領域の見地から意見を述べる。社外役員と社内役員との意見交換が自由闊達に行われる。ランチ会場は、オープン・イノベーションの場となっているのである。

■決定を先送りしないための常石造船の工夫

4.審議事項はすべて、会議当日中に審議を終え、意思決定を行う。そのためには、審議に必要な過不足のない資料が準備されなければならない。とは言っても、会議中に確認したい情報も出てくるだろう。

「逸品」ものつくり経営塾(https://www.facebook.com/ippinjyuku/)のメンバーである常石造船株式会社では、情報不足のために審議が次回に繰り越されることはない。常石造船の会議で驚くことは、全社員の情報リテラシーが極めて高いことである。その能力が発揮できるイントラネットも整備されている。

会議中に参加者が要求した資料が必要だと認識され、その必要な資料が準備されていない時、往々にして、審議は次回に繰り越される。このような事態は、常石造船では生じない。要求された資料を、名乗りをあげた者が、社内データをその場で加工・計算して必要な資料が出来上がる。

会議は、新たに追加された資料も参考にしながら決定が行われる。資料作成者は、資料作成に必要な時間を推定し、それを会議議長に伝える。それが15分であれば、この時間で検討し方針決定ができる他の議題を取り上げる。その審議が終わる頃には、資料は完成している。

グループウエアを整備するだけでは、会議の生産性は向上しない。ちょっとした工夫で、会議は設定した時間内で終了し、審議すべき事項はすべて検討が完了し決定を導くことができる。このように会議を運営できれば、ホワイトカラーの生産性は驚くほど改善されるだろう。

会議は黙っていると、細胞分裂のようにどんどん増加してしまう。実際には情報共有ですらなく、何か問題が生じた時の全員責任体制=裏を返せば無責任体制を作り上げておくためと感じられることすらある、それを防ぐためには、断捨離ルールを適用すればよい。具体的には、「新たな会議体を設ける場合には、既存の会議を2つ廃止する」のである。

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加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授(神戸大学名誉教授、博士(経営学))
1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。

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(同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊 写真=iStock.com)