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米PanicがFTPツール「Transmit」のiOS版である「Transmit for iOS」の販売を終了することを発表した。iPad Proを日常的に使う上でTransmitは私のワークフローに欠かせないアプリになっていたので、個人的に販売終了はとても残念だ。同社は「Coda」「Transmit」「Prompt」といった根強いユーザーを持つアプリをMac/iOS向けに開発・提供するだけではなく、App Storeへとシフトするソフトウエアの販売モデルに積極的に対応し、新しいソフトウエアのビジネスモデルの確立に努めてきた。そのPanicが撤退するのだから、iOS版のTransmitはビジネスとして成り立たせるのが本当に難しいと判断したのだろう。

公式ブログでの発表によると、Transmit for iOSの昨年の売上高は約35,000ドルだった。これからメジャーアップグレードを開発するとして、Mac用の「Transmit 5」が搭載する全てのプロトコルを追加し、思い描いている新しい機能を実現するにはフルタイムの開発体制が必要である。だが、昨年の売上高ではパートタイムの開発者の給与もカバーできない。App Storeでは有償のメジャーアップグレードが大きな収益につながりにくく、Ulyssesや1Passwordなど初期の成功を経て、それから定期購読 (サブスクリプション)に移行したアプリも多い。バージョン1.xから苦戦を強いられているTransmit for iOSがバージョンアップで逆転を狙うのは難しい。さらに、Appleが昨年iOS 11で、Transmitのファイル管理と重複する機能を多々備えた「Files」アプリを追加した影響も理由の1つに挙げている。

PanicがTransmit for iOSの販売終了を発表する前の日、Appleが元日のApp Storeの売上が3億ドルを超えたと発表した。1日の売上高では過去最高である。そんなApp Storeの好調ぶりと対照的に、Transmit for iOSは苦戦している。App Storeの有料アプリのトップチャートには、ゲーム、写真/ビデオを簡単に加工できるアプリ、ヘルス&フィットネスのアプリなどが並ぶ。Appleウォッチャーとして知られるJohn Gruber氏は、「プラットフォームの規模はiOSの方が格段に大きくなったが、仕事のツールとして使う高品質な有償アプリはまだMacが市場である」と見る。

たしかに、そうなのだろう。でも、私はタブレットがこのままプロユーザーに使われずに終わるとは思わない。Panicは「Coda」というWebコーディング向けのエディタを開発・提供しているが、CodaはiOS版の開発も続いている。

iOS版のCodaも3年ぐらい前に、売り上げが伸び悩んだ時期があった。その時にPanicは打開策として、App Store市場のスィートスポット価格の上限である9.99ドル以下に値下げした。ところが、期待したほどのインパクトを得られなかった。経営陣は「iOSに適していない種類のアプリを作っているのではないか」と考えた。価格が問題ではなく、iOSアプリ市場にはプロ向けのツールを求めるユーザーがいないのかもしれない。でも、すぐにはあきらめず、分析を重ね、そして2016年にiOSアプリの価格を逆に引き上げた。規模は小さくても、Coda for iOSを必要とし、Panicが開発に注いだ努力を理解してくれるユーザーが存在すると信じ、そうしたユーザーの期待を満たせるアプリを提供することにした。1月7日時点のCodaの価格は24.99ドルである。

昨年Appleが10.5インチiPad ProとiOS 11でiPadの生産性を向上させ、今年はそれを活かせるアプリの年になると期待していただけに、Transmit for iOSの販売終了は残念なことである。しかし、見方を変えると、2年前に「値上げして大丈夫?」と心配されたCoda for iOSが生き残るぐらいに、iOSデバイスの活用法は変わってきた。

Panicの共同創設者であるCabel Sasser氏は「個人的には、iOS市場がもっと成熟し、より多くのプロユーザーが日々の仕事をこなすツールとして真剣にiPadの採用を考えるようになり、そんな将来にTransmitが再びiOSに戻ってきて、Mac版と同じように必要とされるようになるではないかと楽観的に考えている」と述べている。果たしてAppleは、そんな期待に応えてくれるだろうか。Transmitの撤退は、順風満帆に成長し、今年も好調なスタートを切ったApp Storeに突きつけられた大きな課題である。