ASUSから実売価格で5万円を越える無線LANルーターが登場した。同社製ゲーミングデバイス向けの「ROG」ブランドが与えられた初の通信機器だ。ゲーム向けの機能が強化されているのは確かだが、セキュリティ機能など、無線LANルーターとしても注目すべき点は多い。その実力を検証してみた。

ASUS ROG Rapture GT-AC5300

トライバンド対応、ゲーミング機能充実で5万円オーバー

 「無線LANルーターって、だいたい、いくらくらい?」 最近は、こう聞かれるのが一番困る。

 コンシューマー向けの製品ならば、これまでならミドルレンジで1万円以内というのが相場で、2万円を越える製品は別格という印象だった。しかし、ハイエンドを中心に3万円クラスの無線LANルーターも珍しくない状況となりつつあり、さらにその上に5万円台という超弩級の製品も存在する状況に、この1〜2年ですっかり様変わりしてしまった。

 今回登場したASUSの「ROG Rapture GT-AC5300」も、そんな5万円オーバーのトップレベルに位置付けられる1台だ。

 「ROG」という、同社がゲーミング市場向けに提供している製品ブランドが冠された無線LANルーターで、現状、考えられる最も高速な通信速度の実現に加え、ゲームの通信を優先したり、ゲーム用ネットワークへの接続機能などが搭載された製品となっている。

GT-AC5300の本体と付属品一式

 同様にゲーマーをターゲットにした製品は、ASUS「RT-AC88U」も存在したが、下の表の通り、今回のGT-AC5300は、ハードウェア面では2.4GHz×1、5GHz×2のトライバンドに対応していること、ソフトウェア面ではゲーミング関連の機能をさらに充実させた点が、大きな違いとなっている。

 なお、表では、同じく5万円オーバーのネットギアジャパン「Nighthawk X10 R9000」との比較も掲載している。こちらは60GHz帯を利用したIEEE802.11adに対応する特殊な製品であるため5万円越えというのも、ある程度は納得できる。

 どちらかというと、他社製品で比べるとすれば、同じトライバンドのネットギアジャパン「Nighthawk X8 R8500」(実売価格2万2431円)やTP-Link「Archer C5400」(実売価格2万1534円)がライバルと言えるのだが、あまりにも価格に違いある。

 では、その価格差はどこにあるのか? ハードウェア的にCPUパワーやメモリなどにかなり余裕があり、ソフトウェア的にはゲーミング関連の機能が充実している点になるだろう。

 要するに、ゲーム系の付加価値に対して、5万円を投資できるかどうかが、本製品のポイントとなるわけだ。そのあたりをもう少し掘り下げていくことにしよう。

スペック(ハードウェア) ASUS ROG Rapture GT-AC5300 ASUS RT-AC88U NETGEAR Nighthawk X10 実売価格 5万5413円 2万5713円 5万7801円 処理性能 CPU 1.8GHzクアッドコア 1.4GHzデュアルコア 1.7GHzクアッドコア メモリ 1024MB 512MB 512MB 対応規格 IEEE802.11ac Wave2 ← Wave2 IEEE802.11ad × ← ○ 対応チャネル 2.4GHz 1-13ch ○ ← ○ W52(36/40/44/48) ○(5GHz-1) ← ○ W53(52/56/60/64) ○(5GHz-1) ← - W56(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140) ○(5GHz-2) ← - 対応バンド数 3 2 3 通信速度 2.4GHz 1000Mbps ← 800Mbps 5GHz-1 2167Mbps ← 1733Mbps 5GHz-2 2167Mbps × 1733Mbps 60GHz × × 4600Mbps ストリーム数 4 ← 4 アンテナ数 8 4 4 変調方式(最大速度時) 1024QAM ← 256QAM 無線LAN機能 スマートコネクト ○ ← ー MU-MIMO ○ ← ○ ビームフォーミング ○ ← ○ アクセスポイントモード ○ ← ○ 有線LAN WAN(1000Mbps) 1 ← 1 LAN(1000Mbps) 8 ← 6 LAN(10G SFP+) - ← 1 LAG ○ ← ○ デュアルWAN ○ ← × Gaming LAN ○ × × USB USB3.0×2 USB3.0×1、USB2.0×1 USB3.0×2 3G/4G ○ ← × スペック(ソフトウェア) ASUS ROG Rapture GT-AC5300 ASUS RT-AC88U NETGEAR Nighthawk X10 帯域制御 QoS Adaptive/Traditional ← DynamicQoS トラフィックアナライザー ○ ← × メディア共有 DLNA ○ ← ○ ファイル共有 Samba ○ ← ○ FTPサーバー ○ ← ○ プリンター共有 ○ ← ○ バックアップ TimeMachine対応 ○ ← ○ セキュリティ IPS ○(Game IPS) ○(AiProtection) × ペアレンタルコントロール ○ ← ○ ゲストアクセス ○ ← ○ VPNサーバー PPTP/OpenVPN ← OpenVPN ゲーミング Dashboard ○ × × Game Boost ○ × ×(QoS) WTFast ○ ← × Game Radar ○ × × VPN Fusion ○(対応予定) × × クラウド機能 AiCloud ← ×

外観のデザインや有線LANの仕様が、とにかく凝っている

 GT-AC5300の外観を一見しただけでも、普通じゃないことが伝わってくるが、マジマジと眺めてみると、「カネ」のかかり具合がシミジミと伝わってくる。

 幾何学的な面の組み合わせで構成されたデザインは、従来のASUS RTシリーズにも通じる部分があるが、中央のメッシュ部分は「REPUBLIC OF GAMERS」のロゴをあしらったとても複雑な形状になっている。アンテナもよくよく見ると、本体同様に幾何学的な面の組み合わせとなっており、細部に渡ってこだわりが詰まったデザインになっている。

 好みは分かれそうだが、PCなどの「ROG」シリーズを知っているユーザーであれば、これだけで実にASUSらしさを感じられる製品に仕上がっている。

正面

側面

背面

側面には、LED、WPS、Wi-Fiの各スイッチが搭載される

 インターフェースは前掲の表のように非常に豊富で、背面には有線LANのポートがWAN×1、LAN×8も用意されている。

 個人的には、ゲームに限らず、安定した通信を求めるなら有線LAN接続をお勧めしたいところだが、本製品でもその傾向がはっきりと現れている。8つあるLANポートの上段左側の2ポートは、「Gaming Port」と名付けられており、ゲーミングデバイスの接続に最適化されている。

 いわゆるポートベースのQoSで優先設定されており、ほかのポートに優先して通信が処理されるのが特徴だ。面倒な設定などをしなくても、とりあえず、ここにゲームミングデバイスを接続すれば、快適にゲームができるというわけだ。

 また、有線LANは、WAN回線を2系統利用できるデュアルWANや、LANポートを2系統束ねるリンクアグリゲーション(LAG)にも対応している。

 PCやPS4など、ゲーミングデバイスを多数保有している場合、単純に有線LANポートが多いだけでも重宝するが、環境や用途によってさまざまな活用ができるのも、本製品ならではのメリットと言えるだろう。

1と2がGaming Portに設定されており、ゲーム機など接続した機器の通信が優先的に処理される。また、5と6はLAG構成が可能

トライバンド対応で遠くでも高速、空きチャネルを目視で選べる「Wi-Fi Rader」も便利

 無線LANの機能としては、トライバンドに対応している点が大きな特徴だ。無線LANは、同じ周波数を使って通信する機器が複数台存在すると、時間分割での通信になるため、速度が低下してしまう。クライアント側がMU-MIMOに対応していれば回避できるが、この場合は時間ではなく帯域が分割される。

 このため、例えば従来のRT-AC88Uのようなデュアルバンド機の場合、5GHz帯にゲーム機やスマートフォンやテレビなど、複数の機器を接続してしまうと、ゲームのプレー中などにスマートフォンの通信が発生し、ほんのわずかながら速度やレスポンスの低下につながる可能性がある。

 これに対して、トライバンドに対応したGT-AC5300では、2.4GHz×1、5GHz×2の3系統を使って同時に通信することができる。例えば、スマートフォンは2.4GHz、テレビなどのストリーミング機器は1系統目の5GHzなどのように、通常の機器を2.4GHzと5GHzの片方を使って接続しておき、残りの2系統目の5GHzにはゲーム機1台で占有するといった使い方ができる。

 1台しかつないでいなければ、近隣で同じチャネルが使われない限り(場合によってはレーダーも干渉し得るが……)、干渉は発生しないため、外部要因に左右されにくい通信環境を構築できることになる。

 ただ、チャネル設定が独特で、2系統ある5GHzは、1つ目はW52/W53のみ、2つ目はW56のみの設定となる。せっかく2系統ある5GHzで、内部で干渉しては意味がないので、重複しないようにあえて設定範囲を限っているのだろう。親切なのかもしれないが、チャネルの選択は周囲の環境にも依存するため、ここはユーザーに選択肢の幅を持たせて欲しかったところだ。

3系統の無線LANを同時に通信できるトライバンドに対応。5GHz帯は5GHz-1と5GHz-2が用意され、5GHz-2の標準のSSIDには「Gaming」の文字が含まれている

5GHz-1がW52/W53、5GHz-2がW56と使い分ける仕様になっている

 また、外部からの電波干渉に対しても、「Wi-Fi Rader」によって周囲のチャネルの使用状況を長期的に監視することが可能となっており、瞬間的な状況だけでなく、一定時間データを収集した結果から空いているチャネルを選ぶことなども可能となっている。

 これは、なかなか便利な機能で、例えば使用状況から分析した各チャネルのキャパシティをパーセンテージで表示できる。今までは、重ならないチャネルをグラフから目視で判断していたが、例えば2.4GHz帯でも1chは60%以上の空きがあるなど、選ぶべきチャネルを数値で判断できたり、トラブルシューティングに役立つエラーカウントなどを表示できるようになっている。

データを一定期間収集することで、より正確に周囲のチャネル使用状況などをチェックできる

チャネルのキャパシティを数値で表示できる

 ちなみに、アンテナは外付け8本となっており、おそらく5GHz帯の2系統それぞれで4本ずつ使い分けているのではないかと考えられるが、どのアンテナがどの系統に対応しているのかは判断できない。数が多いだけに、向きの調整などでは非常に悩ましいところだ。

 実際のパフォーマンスは下のグラフの通りだ。今回のテストでは、GamingのSSIDに接続し、W56の帯域でテストを実行した。結果は、ハイエンド機らしく非常に高性能で、筆者宅でルーターから最も遠い3階窓際でも、89.5Mbpsでの通信ができた。窓際では通信できなくなる機種があることを考えると、かなり優秀な結果だ。

 クライアントの多くが866Mbps対応という点を考えると、スペック的に過剰な印象を持つかもしれないが、本製品はMU-MIMOに対応しているため、クライアント側が対応していれば、866×2を2系統、合計4台の同時通信も可能な計算になる。たくさんの機器を繋げたい場合にも、本製品の豊富な帯域が活かされるだろう。

GT-AC5300 1F 599 2F 399 3F階段付近 340 3F窓際 89.5

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

ソフトウェア面もゲーミング向けに刷新

 ソフトウェア面でも、画面デザインが一新され、ゲーミング向けにいくつかの機能が新搭載されている。

 まず目に付くのは、設定画面の最初に表示される「Dash Board」だ。通常のルーターでは、無線LANのSSIDや接続クライアント数などの状況が表示されるが、本製品ではネットワークのトラフィックがグラフで表示される上、「PING」の応答速度と偏差(瞬間だけでなく継続的な安定感のようなものの指標となる)がリアルタイムでグラフ表示される。

転送速度やPINGの値が常に表示される「Dash Board」

 続いての特徴は、「Game Boost」と呼ばれる機能だ。従来モデル(RT-AC88Uなど)の「Adaptive QoS」の画面とほぼ同じだが、「Game Boost」のオン/オフを切り替えるボタンが追加されており、これをオンにすることで、ゲームパケットを優先して処理するようにQoSを構成することができる。

 前述した有線LANの「Gaming Port」に接続できない場合でも、ここで設定を有効にすることで、内部的なパケット処理を優先できることになる。

 最後が「WTFast」の利用だ。この機能はRT-AC88Uにも搭載されていた機能で、ゲーム向けに最適化された「GPN(Gamer Private Network)」経由での通信を実現できる機能となる。PINGの値などが望ましくないときに、GPN経由で接続することで通信環境が改善される場合がある。

 ただし、ASUS製ルーターを評価した前回の記事を参考にしてほしいが、日本の場合、通常のネットワーク品質がさほど悪くないため、本機能が有効に機能するケースは限られる可能性が高い。環境次第なので、効果があるかどうかは実際に試してみるしかないが、さほど大きな期待はしない方がいいだろう。

QoSの設定で「Game Boost」を有効化できる

GPN経由で通信を行う「WTFast」を利用可能

 このほか、ゲーム特有のポートフォワードの設定をプロファイルとしてあらかじめ用意することでオンライン対戦用のネットワーク設定が簡単にできたり、ゲームを選択することでゲームサーバーの稼働状況を確認できる「Game Radar」などの機能も利用できる。

主なオンラインゲームのサーバーの状態を確認できる「Game Radar」

ポートフォワード設定もメニューから選ぶだけでいい

セキュリティ機能「Game IPS」を搭載

 このように、ゲーミング向けの機能が多数搭載されているGT-AC5300だが、さらに「Game IPS」という機能も搭載されている。

 流れ上、「Game」という冠が付けられているが、機能的には、従来のRT-ACシリーズにも搭載されていた「AiProtection」と共通で、トレンドマイクロの技術を採用した2way IPS、ウェブサイトブロック、感染端末ブロックの各機能となっている。

 ゲーミングという用途を考えると、IPSなどは、むしろ無効にしておいた方がパフォーマンス的には有利に思えるが、そこを犠牲にしてでも本機能は有効にしておくことをお勧めする。

 本コラムでも以前触れたが、監視カメラの脆弱性を突く攻撃など、ネットワーク家電やIoT機器をターゲットにした攻撃を防御できる可能性が高くなる。

 ペアレンタルコントロール機能も利用可能で、子供が利用する端末が特定カテゴリーのウェブサイトへアクセスすることを防止したり、インターネットに接続できる時間を制限することもできる。

 「ゲームを快適に、しかしながら節度ある利用を」とでも言ったところだろう。

Game IPSで、脆弱性を悪用する外部からの攻撃を遮断したり、ボット化したIoT機器が外部と通信することを遮断できる

完成度は高いが日本でのニーズがどこまであるか

 以上、ASUSのROG Rapture GT-AC5300を実際に使ってみたが、完成度は非常に高い製品であることは間違いない。

 ASUSのルーターは個人的にも好みの製品である上、これから買うならIPSなどのセキュリティ機能を搭載したルーター以外は、事実上選択肢にならないと考えているので、そういった意味でも良い製品だと言える。

 しかしながら、やはりネックは実売5万円という価格だ。ハードウェアの豪華さを考えると、納得できなくもないのだが、かと言ってゲームという観点でも見ても、トライバンドの使い分けとQoSの併用で似たようなことができなくもないので、そこまでの価値を感じることができない。

 海外であれば、WTFastが使える点が大きいのかもしれないが、国内ではメリットを感じられるユーザーは少ないだろう。製品としては興味深いが、実際に日本でどこまでニーズがあるのかは難しいところと言えそうだ。

 なお、最後にUSB 3.0で接続したSSDに対してCrystalDiskMark 6.0.0を実行した結果を掲載しておく。複数台のSSDを接続してみたが、どうもUSB 3.0のパフォーマンスが発揮されていないように見える。原因を追求し切れなかったので、今回は参考程度に考えておいて欲しい。

USB 3.0接続SSDへのCrystalDiskMark 6.0.0テスト結果(参考)