以前、ビタミンの働きや効用についてお話ししました。私は薬を使わない薬剤師ですが、最近ちょっと疲れすぎだわ……というとき、ビタミン剤を補給するのはアリだと思っています。

病院で処方されるビタミンと市販ビタミンに違いはあるのか

もちろん、ビタミンはふだんの食事から摂るものです。でも仕事で忙しかったりして、ただでさえお疲れのところに栄養バランスの取れた食事を考えてなんて言ったら、ますます大変ですよね。だから一時しのぎ的にビタミン剤、あるいはサプリメントに頼りたくなる気持ちもよくわかります。

ところで、病院で処方されるビタミン剤と市販のビタミン剤に質的な違いはあるのでしょうか?たとえば眼科で出されるビタミンB2やB6、手足のしびれなど抹消性神経障害に処方されるビタミンB12と市販のビタミン剤に違いはあるのでしょうか?

処方されるビタミン剤も複数種あるので一概には言えませんが、病院で処方されるものは必要な品質チェックを受けていますから、品質的に確かであると言えます。

たとえば病院で処方されるビタミンC(別名「アスコルビン酸」)。医師が患者の病状によって摂取量を判断し、処方します。もし1日2000mg必要と判断すれば、処方薬には確実に2000mgのビタミンCが入っています。

市販のビタミン剤で2000mg摂ることも可能です。信用できるメーカーの商品であれば問題ないでしょう。ネットで調べれば、病院で処方されるビタミン剤のメーカーが製造している市販品の商品名がわかります。

しかし、サプリメントになると少々話が違ってきます。市販のビタミン剤が一般用医薬品の中の「第3類医薬品」であるのに対し、サプリメントは食品です。そもそもの目的が異なります。

ビタミンCが1粒500mg入ったサプリなら4粒飲めば2000mgです。ただし、品質的な保証はありません。

サプリは信用できるメーカーのものを選ぶ、これに尽きる

サプリメントの選び方としては、信用できるメーカーの商品を選ぶ、これに尽きると思います。過去たびたび、国民生活センターなど食品検査機関がサプリメントを調べたところ、表示されている栄養素の分量が足りなかったりするニュースがありました。食品なので医薬品ほど重大な事件にはなっていませんが。ここで確かなことは、メーカーの表示「1粒で○○○mg」がどこまで正確かは、消費者には確かめられないということです。

今どきは200円台で買える商品もあります。安いから信用できないというわけではありませんが、「?ん?安すぎない?」と注意は払うべきでしょう。逆に、高ければ安心できるというわけでもないので悩ましいのですが。

サプリメントの場合、カプセルの品質も気になります。いくら中身が良質でも、カプセルの品質はどうなのか?カプセルの材質はゼラチンです。原料には豚や牛の皮が使われ、加工するプロセスでさまざまな添加物が入ります。問題はその品質です。カプセルが溶けずに胃の中にたまっていた、なんていうニュースもありました。この点も、いくら心配したところで実際のところ、消費者にはわかりようがありません。メーカーを信用するしかないのです。

選び方として、「よく売れている商品を選ぶ」のには一理あります。よく売れているということは、それだけ多く生産され、多く消費されていることですから、品質チェックを受ける回数も多いでしょう。また、何か問題があれば発覚しやすいともいえます。

サプリを“カジュアル飲み”しても健康になれない

ビタミン剤とサプリメントについて考えてきましたが、私は安全性や安心感の面から、決して常用するものではないと思っています。サプリメントのCMを見ていると、「これを飲み始めてから調子がいいです。ずーっと飲みつづけたいです」などと言う人が出てきますが(CMですから当然ですけど)、健康な人が栄養素を「ずーっと」錠剤で摂るなんておかしな話です。

栄養素は食事から摂るものです。私たちの体をつくっているのは食からの栄養なのです。タンパク質、糖質、脂質の3大栄養素にビタミン、ミネラルを加えた5大栄養素をバランスよく食べることが基本です。残業が続いたり、旅行や出張で環境が変わったり、何からの理由でその食生活が崩れたときに利用するのがビタミン剤やサプリメントだと思います。いわば「非常食」なのです。

きれいなピルケースに色とりどりのサプリを詰めて毎日“カジュアル飲み”する女性を見かけますが、これは非常食を常食にしているようなものです。決して健康的とは言えません。少しずつ常食である食事にシフトしていきましょう。ランチは定食にするとか、付け合わせの野菜を残さないとか、温かいものを飲むとか。忙しい毎日のなか、できることを見つけていきましょう。

以前にもお話しましたが、水溶性・脂溶性どちらのビタミンでも摂り過ぎによる弊害が出ることがあります。サプリメントは、その利用目的、摂取量に十分注意をして飲んでくださいね。

非常食は日常にしないこと!



■賢人のまとめ
市販のビタミン剤と病院で処方されるビタミン剤の違いは「品質の確かさ」です。当然、病院で処方されるほうが「確か」です。サプリメントは食品なので薬品並みの品質チェックは通っていません。あなたが信用できると思うメーカーのものを選んでください。また、サプリといえどもビタミンの飲み過ぎには注意が必要です。ビタミン摂取もまずは食事が基本。あくまでサプリはその補助食品と考えましょう。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。