世界的な投資家、ウォーレン・バフェット氏(左=バフェット公式ツイッターより)

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 シドニー、リスボン、ロンドン、ベルリン、シンガポール、ニューヨーク―。この12カ月、いくつもの都市で配車アプリ「Uber」(ウーバー)を利用し、破壊的イノベーションの代名詞とも言えるその威力を体感してきた。

 同社は創業から8年で1兆円を超える資金を調達し58カ国で運営する。最近ではソフトバンクがファンドを通じて大型の出資を検討することが報じられた。各国で競合サービスが生まれ、しのぎを削っている。

 スマホで乗車地点と目的地を入力すると、空車がすぐに迎えにくる。グーグルマップと連動し最短ルートが案内され、乗車時に運賃が確定している点も安心だ。

 支払いは事前登録したクレジットカードで決済される。運転手は乗客から評価を受けるため、サービスの質向上の努力を続ける。快適な顧客体験を演出すべく一連のサービスが設計されている。

 その本質は「オンデマンド型の格安タクシー」では到底説明しきれない。道順が瞬時にスマホ上の地図で案内されるため、誰もが熟練したドライバーになれる。

 Uber専属ドライバーだけでなく、副業で会社員が空いた時間に自家用車を運転するケースも増えている。政府が副業を推進したければ労働法規制の緩和のみならず、新しい仕事の創出が必要であることにも気が付かされる。

 Uberの技術的優位性は膨大なビッグデータを活用し、多くの乗客と運転手のマッチングを促進するアルゴリズムを組んでいるところにもある。

 これを活用した食事の宅配サービス「UberEATS」(ウーバーイーツ)は都内でも提供が始まりつつあるが、レストランの売り上げを増やし、自転車配達人という新しい仕事を創出しつつある。

 「民泊」を加速化させる「AirBnB」(エアビーアンドビー)も同様だ。2008年の開業以来、2億件を超える宿泊を提供。191カ国で200万件もの部屋を案内しており、世界最大のホテルチェーンとも呼べる。世界中の旅行客と不動産所有者に劇的な変化と影響をもたらした。

 この手のサービスが必ず当たるのが規制の壁である。特にUberは欧州各国で従来の業者より訴訟が起こされ、禁止の判決が出され始めている。

 我が国では民泊こそ外国人旅行客の受け皿として一定の条件下で認められつつあるが、Uberは既に免許を保有する業者の営業支援としてしか認められないだろう。

 規制する狙いは利用者の安全確保と業者の保護にあるのだろうが、利用者と社会が享受する膨大なメリットと比べ、それは果たして妥当なのか。

 リターンにリスクはつきものである。ITを活用した新産業創出や、イノベーションの風を社会の隅々に吹き込みたいと本気で政府が考えるのであれば、利用者の自己責任による選択の自由と既存業者の新陳代謝を受容する覚悟が必要なのだ。

保護規制でなく自己責任
 これはいわゆるフィンテックと呼ばれる金融業界の新規サービスでも同様だ。当局が推進しようとしても、顧客保護の規制の発想が従来と変わらないため、既存事業者に対し影響が小さい周辺サービスだけ許容しているようにしか見られない。

 リテール金融分野で自己責任という概念を工夫して導入する必要がある。金融リテラシーを育まなければ自己責任は負わせられないという発想だろうが、鶏と卵の関係になかろうか。

 もっとも、金融業界でイノベーションが生まれないのは我が国だけでなく、金融の本場、米国も同様だ。投資会社を除けば新規参入が成功せず、上位を伝統ある会社が占め続ける。

 フィンテック企業もほとんどが独立性を保てず大手に買収されている。国民の間で広く使われる金融サービスは決済のPayPal(ペイパル)くらいだろうか。

 かのウォーレン・バフェットが「金融業界ではATM以降、何ひとつイノベーションが生まれていない」と発言したのは10年前の金融危機を引き起こしたデリバティブなどの金融商品を非難してのことだったが、今でも状況は変わってないのではないだろうか。

【略歴】岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)=ライフネット生命保険社長。98年(平10)東大法卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て、米ハーバード大経営大学院留学。06年副社長としてライフネット生命を立ち上げ、13年6月から現職。埼玉県出身、41歳。著書に『がん保険のカラクリ』など。