「東武アーバンパークライン」の愛称が導入された東武野田線。車両にもそのように表記されている(写真:tarousite / PIXTA)

「間もなく終点東京です。中央線、山手線、京浜東北線、東北・高崎・常磐線……は、お乗り換えです」。東京駅に到着する直前の東海旅客鉄道(JR東海)東海道新幹線車内に流れる乗り換え案内である。

上野駅から東京駅へ直通するようになった東北本線・高崎線・常磐線はひとまとめにされている一方、これらの直通運転系統を示す「上野東京ライン」や、東北本線上野―黒磯間の愛称である「宇都宮線」という呼び方での案内はしていない。しかし、東京駅で下車し、東日本旅客鉄道(JR東日本)の在来線の構内へ入ると、今度は「上野東京ライン」や「宇都宮線」という案内が多数を占めている。

一方、国土交通省が監修する我が国の鉄道の基礎資料のひとつである『鉄道要覧』の上では、東京駅に乗り入れるJR線は東海道新幹線、東北新幹線、東海道本線、東北本線、総武本線、京葉線の6路線で、山手線は入っていない。東京駅に発着する山手線の列車は、東北本線田端駅―東京駅間および東海道本線東京駅―品川駅間に乗り入れている形であり、「山手線」はあくまで運転系統上の愛称であるためだ。京浜東北線も同様である。

路線名と愛称の違いは?

では、鉄道の路線名は制度上どのように規定されているのだろうか。国交省鉄道局都市鉄道政策課は「鉄道事業許可申請書に添付する事業基本計画(以下、事業基本計画)で路線名の記載を求めている」とする。『鉄道要覧』に記載される路線名については「編集作業の際、鉄道事業者に一斉に照会をかけ、回答のあった路線名を記載している」という。

一方、同課は「路線名の変更については特に規定はない」と説明する。鉄道事業法施行規則第7条は、鉄道事業者による鉄道線路の譲渡または使用が実施される場合は国交省の認可を要求する一方で、「軽微な変更」については変更の届け出のみで済むとしている。「軽微な変更」として同8条で挙げられているのは駅の名称や臨時駅の位置変更などだが、「路線名については届け出不要」(同課)だという。

これらの説明からは、鉄道事業者が正式名といえば正式名となり、愛称名だといえば愛称名ということになると解釈できる。よって、鉄道路線の愛称名とは、鉄道事業者が事業基本計画に記載した路線名に加えて(代えて)旅客案内などに使用する通称と定義することができる。

路線の愛称名は、大きく2つに分類することができる。1つは複数の路線にまたがる運行系統に対する通称(東海道本線・東北本線を直通する「京浜東北線」や山手線・赤羽線・東北本線を直通する「埼京線」など)、もう1つは正式名に代わる新たな路線名として制定された通称である。


「宇都宮線」は東北本線上野―黒磯間の愛称だ(写真:ニングル / PIXTA)

後者はさらに、沿線自治体からの要望によって制定された通称(東北本線の「宇都宮線」や東海道本線・北陸本線の「琵琶湖線」など)、都市部の路線のイメージアップやわかりやすさを狙って制定された通称(東武野田線の「東武アーバンパークライン」や東海道本線の「JR京都線」など)と、地方部の路線の知名度向上や活性化を狙って制定された通称(予土線の「しまんとグリーンライン」や根室本線の「花咲線」など)に分けることができる。

「JR京都線」などの愛称制定の理由について、西日本旅客鉄道(JR西日本)広報部は「地域の皆様により身近で親しみを感じていただけるように、それぞれ愛称をつけている。『JR神戸線』など他路線の愛称とともに1988年3月13日から使用を開始した」と説明する。

このように多様な事情によって制定される路線愛称名であるが、社会の中で浸透しているかどうかはまた別である。

使用実態を調べてみると

愛称名の浸透度を判断する目安としては、たとえばマスコミで用いられる路線名や、沿線自治体のホームページで使用される路線名、不動産会社の検索サイトの路線名、ネットの路線検索などを挙げることができる。

そこで筆者は、JR東日本の「宇都宮線」と東武鉄道の「東武スカイツリーライン」および「東武アーバンパークライン」の沿線自治体のホームページで、正式名と愛称名のどちらが使用されているのかを調べた。

まず、「宇都宮線」は高い浸透度を示した。東北本線東京駅―黒磯駅間の沿線自治体25のうち、16の自治体が愛称のみを使用するか、または優先的に用いている。国土交通省混雑率データ(2016年度)と、NHKと在京テレビキー局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)および新聞大手5社(日経、読売、朝日、毎日、産経)も「宇都宮線」の呼称を使用していた。

「宇都宮線」は、当時の栃木県知事が茨城県知事・埼玉県知事・東京都知事の了解を得てJR東日本に働きかけ、1990年3月10日から東北本線上野駅―黒磯駅間で制定された通称である。行政が主導した通称であることが、行政やマスコミの積極採用に繋がっている要因のひとつと推測される。

次に、「東武スカイツリーライン」「東武アーバンパークライン」について見てみよう。東武鉄道では、2012年3月17日から伊勢崎線浅草駅・押上駅―東武動物公園駅間に「東武スカイツリーライン」の愛称を制定し、使用開始した。浅草駅・押上駅―東武動物公園駅間の沿線自治体10のうち、愛称のみ使用・愛称優先を合わせ3自治体が使用している。

また、2014年4月1日からは野田線大宮駅―船橋駅間に「東武アーバンパークライン」の愛称を制定した。だが、野田線の沿線自治体9のうち、愛称のみを使用、または優先的に用いている自治体は千葉県柏市のみで、正式名である野田線の使用を優先する自治体のほうが多い。

柏市土木部交通政策課は「東武鉄道からの要請を受けて調整した結果、市の公式ホームページでは愛称を優先的に使用することになった」と説明する。

一方、正式名である野田線を優先的に使用し、愛称を併記している野田市の企画財政部企画調整課は「東武鉄道から愛称使用に関する要請はなかったが、同社が愛称名を用いていることを考慮し、正式名に併記することにした」と説明しつつ、「愛称を用いると野田の名前が消えてしまう。当市としてはこれからも正式名を用いていく」と述べ、愛称名に対する複雑な思いを隠さない。

東武鉄道広報部は「イメージアップとPRのために『東武スカイツリーライン』『東武アーバンパークライン』を制定し、旅客案内、駅での掲示、車内放送などで使用している。しかし、正式名に愛着をもつ人もいるため残している」と、愛称と位置付けている理由を説明する。

不動産会社は愛称を避ける?

不動産会社ホームページの物件検索の路線名は正式名での記載が多い。例えば、不動産検索サイト5社(SUUMO、CHINTAI、いい部屋ネット、HOME'S、Yahoo!不動産)について調べた結果、「宇都宮線」は2社(うち、正式名との併用1社)、「東武スカイツリーライン」は1社(正式名との併用)、「東武アーバンパークライン」1社(正式名との併用)という結果であった。JR西日本東海道本線の大阪駅―京都駅―米原駅間の愛称である「JR京都線・琵琶湖線」も1社(正式名との併用)という結果だった。

不動産会社「ホンダ地所」(東京都墨田区)の本多平学社長は「当社では当初、紹介物件の路線名を『東武スカイツリーライン』にしたものの、『愛称ではわからない』という意見が多く、短期間で伊勢崎線に戻した。不動産業者間の流通データベースでは伊勢崎線のままであることが多い」と証言する。不動産業界ではこれらの愛称名の定着度は高くないと言って差し支えなさそうである。

路線検索では対応が分かれている。「宇都宮線」「東武スカイツリーライン」はYahoo!とGoogleの双方が使用する一方、「東武アーバンパークライン」については、Yahoo!は使用しているものの、Googleは正式名の東武野田線を用いている。

一方、開業時から『鉄道要覧』に掲載された鉄道許可申請時の路線名でなく、愛称を使用している路線では異なる傾向が見られる。「つくばエクスプレス」は、『鉄道要覧』に掲載された路線名は「常磐新線」であるものの、開業時から案内表示ではこの名称ではなく愛称を使用している。マスコミの報道などでも、常磐新線が用いられることは少ない。不動産検索サイト5社も「つくばエクスプレス」を採用しており、高い定着度を示している。

愛称名ではなく正式に路線名を変更した場合も同様である。その事例のひとつとして、東京急行電鉄田園都市線の渋谷駅―二子玉川駅間がある。同区間は従来から田園都市線の中央林間駅―二子玉川駅間と一体で運行していたが、2000年8月までは新玉川線が正式路線名だった。

沿線自治体の世田谷区道路・交通政策部交通政策課は「田園都市線への改称後、『新玉川線』を用いたことはない」という。不動産検索サイト5社でも、旧称の新玉川線の使用はゼロである。正式名の変更後は、旧路線名の使用はなくなると判断してよさそうだ。

「分かりやすさ」を忘れないで

これまで見てきた通り、当初から使用されている場合は高い定着度を示す愛称名だが、長年使用されてきた正式名に代えて導入された場合は、JR宇都宮線のように定着しているケースがある一方、必ずしも浸透していない現状がある。

正式名を変更すれば定着するであろうが、それにはコストがかかることも事実だ。「JR京都線・琵琶湖線」といった愛称を約30年前から導入しているJR西日本などが路線名を変更せず、愛称にとどめているのは、発券システムの改修などに多額の費用がかかることも要因のひとつだと推測される。

鉄道事業者にとって路線名は重要な「商品名」であり、鉄道事業者や沿線自治体のブランド戦略の一環として愛称の導入が検討・要望されることは理解できる。鉄道路線を運営するのは鉄道事業者であり、愛称導入は鉄道事業者の専権事項である。一方で、沿線利用者らには波紋を投げ掛けることもあり、沿線自治体や利用者などへの丁寧な説明は不可欠だ。旅客にとって分かりやすい案内を優先する視点を忘れないでいただきたいものである。