読んでみたくなる「やってみなはれ」

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 退屈すぎて社員にすら読まれていない──会社の歴史が書かれた「社史」のイメージは、見事に覆される。社史編纂に会社を挙げて取り組み、見応え、読み応えのある社史を作った企業がいくつも存在するのだ。

 日本最大の社史コレクションを誇る神奈川県立川崎図書館で社史の活用に力を入れてきた司書(科学情報課)の高田高史氏が、社内にとどめておくにはもったいない、名作社史を紹介する。

 執筆陣の豪華さが際立つのが、サントリーHDの『サントリーの70年』だ。1969年に完成した同社史では、サントリーの前身・壽屋の宣伝担当で広告コピーやPR誌を手がけていた芥川賞作家の開高健氏と直木賞作家の山口瞳氏が、2人で前後編に分けて執筆している。

 開高氏は戦後の混沌から書き始め、〈朦朧とした人びとが、朦朧としたヤツを呑む。それはカストリ、メチル、バクダン(中略)まして、〈サントリー〉となれば、これはもう、どこかのシャレた外国のエライ人だけが飲むもの、といったようなぐあいであった〉と触れる。

 創業者・鳥井信治郎氏についても、〈矛盾を矛盾とも意識せずに呑みこんでケロリとしている〉と評するなど、この社史は知る人ぞ知る名作となっている。

 ちなみに開高氏は、この社史の発行責任者でもある佐治敬三社長(当時)との深い親交で知られている。

 博報堂は創業120年を迎えた2015年に『博報堂120年史』を発行。コンパクトにまとめたペーパーバック版では直木賞作家の逢坂剛氏や、「負け犬」の言葉を流行させた酒井順子氏など同社のOB作家が執筆陣に名を連ねる。

 それぞれの書きぶりも実に個性的だ。酒井氏はPR局に配属されて〈「ぴ、ぴーあーるというのは何をする所だっけかな……?」と、目が泳ぎます〉という初々しい新人時代の思い出を綴っている。

 一方、逢坂氏は博報堂勤務時代について書くはずが10ページにわたり自らの生い立ちを書くという意外な展開に。

「自由に書いていただくようお願いしたら、逢坂さんは『挿絵画家である父親(中一弥氏)の絵を使おう』と言って、お父さんの話を書かれました。みなさん生き生きとした原稿を寄せてくださいました」(編纂委員会事務局長を務めた寺島二郎・広報室長)

※週刊ポスト2018年1月12・19日号