4列シートの高速バスは運賃が安い一方、「狭い」「辛い」といったマイナスイメージで敬遠される側面も。2列、3列シートで「格安」イメージとの差別化が図られるなか、格安が売りの4列シートも改善されてきています。

価格は2列の半分以下 しかし「辛い」?

 高速バスの座席配列にはおもに、1人掛け座席が通路を挟み1列ずつ並んだ2列シート、1人掛けが1列ずつ、あるいは1人掛けと2人掛けからなる3列シート、すべて2人掛けとなっている4列シートがあります。

 2列シートは座席数が少ないぶん、ゆったりとくつろげるのが特長で、運賃は最も高価です。最近では、座席の周囲をパーテーションやカーテンで仕切り、個室を設けた豪華なバスも増えています。3列シートは夜行高速バスや、長距離を走る昼行高速バス(車中泊のない高速バス)でおもに採用されている配列です。2列シートより席数は多いものの、1人掛け席も多いことから、隣の人をあまり気にせずにくつろげるのが特長です。


ジェイアール東海バスの夜行高速バス「青春ドリームなごや号」(東京~名古屋)。4列シートのバスで運行される(須田浩司撮影)。

 一方で4列シートは、一般的な観光バスと同様のシート配列で、格安を売りにする高速バスで使用されることが多いもの。とにかく安く移動したいという人に人気です。

 たとえばJRグループが運行する東京〜大阪間の夜行高速バス「ドリーム号」シリーズで比較してみると、2列、3列シート双方を配した「ドリームルリエ号」の2列シートが1万4000円から(2017年12月期の最安運賃。以下同)、3列シートが8500円からなのに対し、最も安い「青春エコドリーム号」の4列シートは3800円からとなっています。しかし、4列シートはこのように運賃が安いぶん、「座席が狭い」「隣の人に気をつかう」「プライバシーが確保できない」といったマイナス部分もあります。


JRグループが運行する東京〜大阪間夜行高速バス「ドリーム号」シリーズの比較。運賃は2017年12月期の最安値(須田浩司作成)。

 これらの問題を払拭するものとして、「格安」ではない2列シート、3列シートが登場してきたという背景があるなかで、近年、4列シートのサービス改善を図るバス会社が登場しています。

4列シート、ハードだけではない進化も!

 ウィラーの高速バス「ウィラーエクスプレス」では、座席のヘッドレストから乗客の前方にかけて伸縮し、頭を覆う「カノピー」と呼ばれるカバーが付いた4列シート「リラックス」を、2013年冬に「リラックス《NEW》」として改良。カノピーを伸ばした際、頭とカノピーのあいだにできる空間を広げたほか、シートが体を支える性能、シートベルトの強度なども改善しました。

 ジェイアール東海バスでは、従来型よりも1席あたりの幅を広げて中間に肘掛を装備したり、大型フットレストを設けたりした「4列ワイドシート」を導入。同様のシートは名鉄バスなどでも採用されており、同社の一部車両には、着替えや化粧直しが可能なパウダールームまで備えています。一方、他社では反対にフットレストを廃止して足元空間を広くしたものや、シートピッチを拡げた車両も数多く登場しています。

 シートや車両といったハード面が進化する一方、従来車両のまま4列シートの使い勝手をよくしようとする動きもあります。2人掛けの座席をひとりで使えるという「ダブルシート」などと呼ばれるプランで、京王バス東(東京都府中市)などが運行する「中央高速バス」新宿〜伊那・飯田線(「ひとりだけシート」と呼称)や、山一サービス(京都府京丹波町)が運行する「アミー号」、前出の「ウィラーエクスプレス」などで導入されています。


「青春大阪ドリーム名古屋号」の4列シート。座席数は40(須田浩司撮影)。

「青春大阪ドリーム名古屋号」の大型フットレスト(須田浩司撮影)。

「青春大阪ドリーム名古屋号」は各座席に電源コンセントが(須田浩司撮影)。

「ダブルシート」プランは通常運賃より高くはなりますが、隣に荷物を置いて席をゆったり使いたい人などに好評です。ただし、道路交通法により着席は1席のみとされ、かつシートベルトの着用が義務付けられているので、「ダブルシート」の利用にあたっては、シートを2席使って横になったり、必要以上に荷物を隣の席に置いたりすることには注意が必要です。

「安さ」が売りの4列シートを改善するワケ

 このように4列シートの快適性を向上させる動きはあるものの、2人掛け座席である以上は基本的に「隣の人」がいることが想定され、「ダブルシート」を利用しない限り「プライバシーの確保」といった問題の解決は構造的に難しいといえるかもしれません。そもそも安価な運賃が売りであるはずの4列シートで、快適性を追求するのはなぜなのでしょうか。

 事業者によって状況は異なりますが、おもな理由としては「多くの乗客を運べる」「3列シート車より運賃を安く設定できる」が挙げられます。たとえばジェイアール東海バスが東京〜名古屋間において運行するバスで比較すると、3列シートの「ドリームなごや号」が3900円であるのに対し、4列シートの「青春ドリームなごや号」は2400円、乗車定員では前者が28名から38名、後者は40名です。また最近では、3列シートの2階建てバス(三菱ふそうトラック・バス「エアロキング」)が老朽化したため、ほぼ同じ乗客数を運べる4列シートの「青春ドリームなごや号」へ置き換えるといった側面もあるようです。つまり、2階建てバス並みの輸送力と、3列シート並みのサービスを4列シートのバスで実現する必要性に直面している、といえるでしょう。

 最後に、私(須田浩司)が考える4列シート攻略法をふたつ紹介しましょう。

ネックピローとマスク、飲みものを用意

 2列や3列シートと比較すると、4列シートはリクライニング角度が浅めなことが多く、態勢が不自然になりがちです。特に首回りには相当の負荷がかかり、そのまま寝てしまい目覚めたら首が痛い……ということもあります。このようにならないためにも、空気で膨らますU字型のネックピロー(首枕)を用意しておきましょう。また、バスの車内は乾燥しがちですので、喉を傷めないようにマスクと飲みものも用意しておくとよいでしょう。

トイレが心配ならば通路側の座席を

 4列シートの夜行バスで、座席を任意に指定できる場合、座席の場所にも注意したいものです。多くの夜行バスでは高速道路SAなどでのトイレ休憩が1、2回ありますが、このとき4列シートの窓側に座っていて、隣の人が寝ている場合は、外に出る際にその人を起こしてしまうことがあります。車内にトイレが設置されている場合でも、「起こしたら悪いな……」と気をつかって遠慮してしまうこともあるかもしれません。トイレが近い人や、気をつかってしまいがちな性格の人は、通路側の座席を予約することをおすすめします。


名鉄バス「新宿線」の車両(須田浩司撮影)。

名鉄バス「新宿線」の車両は基本的に4列シートだが、1人掛けの「Sクラスシート」(右手前)もある(須田浩司撮影)。

名鉄バス「新宿線」の4列シート(須田浩司撮影)。

 運賃の安さで支持される4列シートの高速バスですが、その安さを維持したまま、今後さらに快適なバスが登場することを期待したいものです。

【画像】寝顔を人に見られる心配なし? 「カノピー」付き4列シートとは


「ウィラーエクスプレス」の4列シート「リラックス《NEW》」。全席に伸縮式のカノピーが取り付けられている(画像:ウィラー)。