山梨リニア実験線で試験中のL0系(「Wikipedia」より)

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 リニア中央新幹線の関連工事入札をめぐり、スーパーゼネコン4社が談合を繰り返していたことが発覚した。最初に捜索を受けた大林組が4社の談合を認め、違反を公正取引委員会に自主申告した。課徴金の減免が狙いだ。談合していた4社は一枚岩ではない。大林組が強制捜査後「自首」したのは、株主代表訴訟を回避する狙いもあるといわれている。

「談合の噂は昨年3月頃からあったが、ようやく事件化された。東京地検特捜部の狙う“本丸”は、リニア工事での談合ではない」(法曹関係者)

 リニアのルートが正式決定された2011年頃から、将来発注される工事について4社で受注調整することで合意していた疑いがある。「正式に合意したのは14年」と大林組の幹部が供述している。リニア談合を主導したとみられている大林組と大成建設の担当者は私立大学理工学部の同級生。4社の担当者は親密な関係にあった。

 東京地検と公取委は、将来発注予定の工区別にスーパーゼネコン4社のイニシャルが割り振られた文書を入手している。「K」は鹿島、「T」は大成、「O」は大林組、「S」は清水建設である。4社は得意分野を担当し、計15件を事前調整していた。4社がそれぞれ受注した工事契約額は600億円で、ほぼ同額である。大成建設は大林組に対して、「南アルプストンネル」の受注を断念するよう求めていたという。実際に同トンネルは大成と鹿島が受注した。

 リニア談合に発注元のJR東海の意向が色濃く反映されている、との指摘がある。JR東海は被害者なのか、共犯者の疑いはないのか。柘植康英社長は昨年12月20日の記者会見で「工期を最優先させたい」と語った。

 大成のジョイントベンチャー(JV)はリニア名古屋駅工事に先立ち、JR東海から名古屋の新駅ビル「JRゲートタワー」(地下6階地上46階、17年全面開業)を受注。12年から建設工事に入ったが、地下工事が難航するなどして100億円強の赤字が出たという。大成は「JRゲートタワー」の地下に建設予定のリニア新駅「名古屋駅中央工区」の工事を受注すれば赤字を埋め合わせることができると考えていた。ところが、この工区はJR東海が指名競争入札方式にしたことで、複数のJVに参加資格が与えられた。しかも大林組のJVにはJR東海の100%子会社、ジェイアール東海建設(名古屋市)が参加した。

 東京地検が偽計業務妨害容疑で大林組を捜索した際に容疑の対象となった、名古屋市の名城非常口新設工事でも、大林組のJVにジェイアール東海建設が入っていた。

「ジェイアール東海建設がJVに入ることは、受注するために有利。工事情報も入る」(スーパーゼネコン幹部)。

 ジェイアール東海建設が大林組のJVに入ったことで、大成は名古屋駅中央工区と名城非常口新設工事の受注を断念した格好だ。

●リニア開業に遅れも

 この事実はスーパーゼネコン4社の談合が、JR東海の意向を忖度しながら行われていたことを裏付けている。

「そもそも大林組、大成、鹿島の3社の担当者が受注を分け合うことで合意。清水の担当者はあとから加わり、4社で受注調整することが決まった。大林組の責任者は土屋幸三郎副社長。大成の元常務執行役員と私立大学の理工学部の同級生だった」(関係者)

 スーパーゼネコン4社の談合が認定されれば、JR東海はこれからの工事の発注ができなくなる。どうするのだろうか。JR東海は「粛々と工事を進めるだけ」と語っているが、リニアの開業は遅れることになるのではないのか。

 地表から最大で1400メートル下を掘り、山梨、静岡、長野の3県をまたぐ南アルプストンネル(約25キロメートル)は、工事中に高圧の水脈に当たる恐れが高い。品川、名古屋の両駅では、地上で通常の列車運行を続けながら新駅を建設する。これらの難工事はスーパーゼネコン4社以外ではやれない。とはいえ、4社がそろって強制捜査を受けた事実は重い。品川―名古屋間の建設では、まだ多くの工事の契約がなされていない。これらの発注に、この談合事件がどのような影を落とすのであろうか。

 東京地検も公取委も「リニアは民間の発注だが、公共財である。一義的な被害はJR東海だが、その影響はそれだけにとどまらない」としている。ちなみに、4社のJVが受注した工区(工事)は以下の通りである。

企業名    工事名
大林組    品川駅(南工区)、名古屋駅(中央西工区)、名城非常口など4件
鹿島     南アルプストンネル(長野工区)など3件
清水     品川駅(北工区)など4件
大成     南アルプストンネル(山梨工区と静岡工区)など4件。すべてがトンネル工事である。

 また、準大手が受注した工区は以下のとおり。

安藤ハザマ  品川駅非開削工区(東京都)
西松建設JV  梶ヶ谷非常口及び資材運搬入口(神奈川県)
       第四南巨摩トンネル西工区(山梨県)
飛島建設JV  伊那山地トンネル青木川工区(長野県)
戸田建設JV  中央アルプストンネル松川など(長野県)
前田建設工業 坂下非常口(愛知県)
ジェイアール東海建設JV  名古屋駅中央東工区(愛知県)

●大林・大成が談合を主導か

 談合はスーパーゼネコン4社だけなのか。JR東海がすでに発注契約をしている22の全工事でスーパーゼネコンが受注調整を行っていた。スーパーゼネコンが受注しなかった工事でも、4社が受注調整に関与していたとみられている。大林組は駅舎工事に定評があり、大林組の本社は品川駅の目と鼻の先にある。

「本社に近く、駅舎は得意分野。大林組が受注したいと思うのが当然だ。トンネルの難工事は大成と鹿島しかできないともいわれる。だから大成は大林組に南アルプストンネルの受注を断念するよう強く求めた」(ゼネコン関係者)

 大林組の幹部は東京地検や公取委の聴取に「副社長が直接、工事の受注調整をしていた。副社長は名城非常口の工事について『話がついている』と言っていた」「名城以外の(リニアの)非常口工事は他のスーパーゼネコンが獲ることになっていた。かなり早い段階で名城非常口は大林組が取ることが決まっていた」と話しているという。

 スーパーゼネコン4社の談合が発覚する糸口となったのは、リニア名古屋駅新設工事と名城非常口の2つの案件だった。前述のとおり大成は名古屋新駅ビル「JRゲートタワー」の建設で100億円雄赤字を出していたから、リニア名古屋駅は大成が受注することになっていた。ところが「駅舎は絶対に落とせない」とする大林組がJVにジェイアール東海建設を取り込み逆転した。しかも、リニア名古屋駅の工区は2工区に分割発注されることになり、「中央西工区」を大林組が受注した。

「JR東海側の意向で本命視されていた大成から大林組JVが逆転受注した。2工区に分割されたもう一方の名古屋駅中央東工区は、ジェイアール東海建設が受注している」(ゼネコン関係者)

 名城非常口新設工事は受注調整で大林組のJVに決まっていたとされるが、鹿島が選定過程で大林組に近い見積もり額を提示したため、慌てた大林組がJR東海の社員から得た情報をもとに、さらに低い金額の見積を提示して受注に成功したとされ、最終段階で大林組が無理をしたため、名城非常口が東京地検の捜査の突破口になったのではないかとみられている。

●捜査の発端

 リニア名古屋駅は地下30メートル。現在の駅とほぼ直角に交わるかたちで建設される難工事。一方、名城非常口は大深度地下トンネル工事に使う建設機材を降ろすために重要な拠点となる。名城非常口を受注したスーパーゼネコンが事実上、大深度地下トンネルを受注することになる。名城非常口は“約束手形”のようなものだ。

「南アルプストンネル工事は3工区に分けられ、大成JVが2工区、鹿島は1工区を受注した。実は大林組も大成JVが獲った2工区のうちの1工区の受注を希望したが、大成側からオファーを見送るよう強い要請があった」(ゼネコン関係者)

 リニア名古屋駅、名城非常口、南アルプストンネルの最重要地点で、大林組、大成、鹿島の利害が鋭く対立していたわけだ。これ以外の工区の調整はスムーズに行っていただけに、大林組のゴリ押しをJR東海側が側面からサポートする構図に怒ったスーパーゼネコンの関係者が、公取委につながる人物に情報を漏らした疑いも浮上している。

 鹿島、大成建設、清水建設の担当者は、当初から「受注調整を否定している」(捜査関係者)との情報も流れているが、果たして誰が悪いのか。捜査の進展が待たれる。
(文=編集部)