「カーセンサー」ブランドマネジャーの中村与希氏

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「グレーな部分が多い」といわれる中古車業界。実際には存在しない商品を宣伝する「おとり広告」で来店を誘い、別のクルマを買わせるといった手法が過去に横行していた。

 そんな状況に危機感を抱いた中古車情報メディア「カーセンサー」(リクルートホールディングス)は、業績への悪影響もいとわず業界の健全化に取り組んだ。

 しかし、改革にあたっては販売店から反発の声もあったという。中古車業界の何が問題で、どこにメスを入れたのか。「カーセンサー」のブランドマネジャーである中村与希氏(リクルートマーケティングパートナーズ)に話を聞いた。

●中古車業界は消費者側が圧倒的に不利?

――価格なども含めて、中古車業界に対しては「グレーが多い」という批判があります。

中村与希氏(以下、中村) そうした側面があったことは否めません。中古車はクルマの状態や走行距離などの細かい条件が違ってくるため同じクルマはなく、価格構造がわかりにくくなっています。

 クルマというのは、人生のなかで何度も買うようなものでありません。そのため、必ずしも買い手が相場や周辺知識に精通しているわけではありません。このクルマはなぜこの価格なのか、実際の価値はどのくらいなのか……それほど情報を持っているわけではないのです。

 一方、売る側は長年クルマに携わっているため、価格設定なども含めて買う側より多くの情報を有しています。しかし、その優位性を悪用するケースもありました。いわゆる「おとり広告」で、消費者を販売店に誘導するために実際には存在しないクルマを広告に掲載するというものです。

 この10年、「カーセンサー」はカスタマーが安心・安全に中古車を購入できるように、さまざまな改革を実施してきました。「おとり広告の排除」「総額表示の推奨」をはじめ、カスタマーの判断基準となる「カーセンサー認定」、購入後も安心できる「カーセンサーアフター保証」。この4つの施策に力を入れることで、中古車業界の透明性確保に努めています。

●“存在しないクルマ”を載せる「おとり広告」

――不動産業界とも共通していますが、「おとり広告」については「商習慣として根付いていたのでは」という指摘もあります。

中村 「おとり広告」は過去に存在していました。極端な例ですが、「100万円でポルシェが買えます」という広告があったとしましょう。カスタマーは、その広告を見て「安い」と感じ、販売店に問い合わせをし、来店します。しかし、販売店は「そのポルシェは売れてしまいました。でも別のポルシェなら、値段は高いですが性能が良いものがありますよ」と言って別の車の購入を促します。

 中古車業界に、このような「おとり広告」を使って来店を誘う仕掛けが横行していたことは事実です。以前は、“存在しないクルマ”の広告もありました。そのため、カスタマーからは「実際にお店に行ったら、『そのクルマはない』と言われた」「カーセンサーには、すでに在庫がないクルマも掲載されているのか」との声がありました。

 そこで当時、「カーセンサー」は「業績が下がったとしても、おとり広告を排除しよう」と決断。2004年に「カーセンサートラスト」という取り組みをはじめ、「おとり広告」を3か月で排除することができました。

――具体的には、どのような施策でしょうか。

中村 クルマには個別に識別するための車台番号が付与されています。広告には、その車台番号を入れることを義務化し、入力しなければ広告掲載されないフローを確立しました。また、契約成立後はすぐに非公開にするオペレーションを構築しました。

――広告が減れば、「カーセンサー」の広告収入も減ってしまうのではないでしょうか。

中村 逆にいえば、収入を落とさないと中古車業界の浄化は図れなかったといえます。実際、「カーセンサー」はページ数が減って薄くなりました。

 たとえば、ある販売店は広告をいつも20ページ載せていましたが、車台番号を表示させた結果、10ページに減少したとします。しかし、広告の掲載量が減ると「あそこは業績が悪化しているのではないか」などという噂にもつながります。販売店はそうした評判を嫌うため、正確な情報で広告出稿を行うようになりました。そして、次第に業界が健全化していったという経緯があります。

●「カーセンサー」の改革で「おとり広告」を排除

――中古車業界には、若いときに“やんちゃ”していた方も少なくないイメージがあります。ずいぶん、神経を使ったのではないですか。

中村 やはり、クライアントの方にご理解いただくことに一番力を注ぎました。販売店からすれば、「おとり広告」の排除によってカスタマーからの問い合わせが減るなど、自分たちの利益が削られることに直結します。ひとつのビジネスモデルとして成立している以上、彼らもおいそれと許すことはできなかったのでしょう。

 ただ、業界を健全化し、カスタマーに正しい情報を伝えて透明性を高めていくことが、カスタマーが安心してクルマを購入することにつながります。そして、中古車市場を活性化するためにも大事なことです。そういうことを伝えていきました。

「カーセンサー」はリクルートグループの一員として、日本中古自動車販売協会連合会と共に中古車業界の透明化を図ってきました。「カスタマーに対して誠実であるべき」という信念を持ったメディアだからこそ、乗り越えられた難関だと思っています。

――それ以降、「おとり広告」はどうなりましたか。

中村 ほぼなくなったと自負しています。

――しかし、広告では「50万円」などと明示されているにもかかわらず、車庫証明などの諸経費がかかり、結果的に総額は広告表示よりも高くなることが多いですね。

中村 そうですね。たとえば、購入後のクルマを保管する場所を決める必要があります。その際、手書きで地図を書くことになるのですが、カスタマーからすれば面倒な作業です。そこで、販売店が地図作成を代行するケースが多いのですが、そういった費用などが積み重なり、最終的な購入価格が高くなります。

 しかし、たとえば広告では50万円だったクルマの料金が結果的に上がることで、「話が違う」というクレームや中古車業界に対する不信感につながってしまいます。

――本体価格と総額がこれだけ乖離している業界も珍しいと思います。よく、メスを入れましたね。

中村 私が入社した08年当時、「カーセンサー」における総額表示率は20%でした。しかし、カスタマーから「広告では50万円なのに、総額を見積もったら手数料込みで90万円になった。これはおかしいのではないか」といった声がすでにあがっていました。カスタマーからすれば、本当に知りたいのは総額ですからね。

 こういったカスタマーの声を受け、総額表示率を向上させる取り組みとして、09年に「カーセンサーnet」のアルゴリズムを改変し、総額表示されているクルマが上位に表示されるように設定しました。

 しかし、販売店とすれば、本体価格にさまざまな庶務手数料を上乗せして利益を確保するというビジネスモデルです。そのため、さまざまな意見をいただきました。なかには「私は賛成だが、他社の販売店が総額表示をしないと正直者がバカを見る。あまり意味がないのでは」という声もありました。

 しかし、業界内にも「総額表示をしたほうが、結果的には効果が高い」という認識が徐々に浸透してきて、今では総額表示率は80%まで上がっています。カスタマーにとって透明性の高い業界になったのではないかと思います。

――ありがとうございました。

 後編では、「若者のクルマ離れ」や「カーシェアリング」などについて、さらに中村氏の話をお伝えする。
(構成=長井雄一朗/ライター)