ストレスと折り合いをつけるには?

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星野博美は『転がる香港に苔は生えない』(文春文庫)において大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した人物として知られています。そのため紀行作家の印象もあるのですが、エッセイ集『今日はヒョウ柄を着る日』(岩波書店)を読むとその前提は崩れます。

文章をどう生み出すのか

星野博美は現在、実家のある戸越銀座に戻り、年老いた両親と三人暮らしをしています。仕事をするときは家を出てコーヒーショップへ向かい、原稿を書くという日々を送っています。人に会うのは月に1度から2度のペースを保っているそうです。そうした暮らしぶりからは、悠々自適なイメージが浮かぶかもしれませんが、随所でさまざまなストレスに遭遇している様子がうかがえます。特に、年老いた両親の物忘れの激しさに時に怒りを覚えることもあるようですが、それを「両輪は別の国の人たちで、私はそこへ留学した日本人である」と考えることでやりすごそうとしています。いずれ自分も老いるわけですから、その異国でのマナーを学ぼうとするということです。星野博美は、こうした表現がとてもうまいエッセイストです。おもわずほっこりとしてしまうことは必至でしょう。

過去の記憶も

さらに本書では自身の過去に遡行する話も多く取り上げられています。祖父の死去前後の記憶について、かつて住んでいた香港の風景や、自宅とコーヒーショップの往復から、ふとつむぎだされる記憶の断片も興味深く読むことができるでしょう。彼女の言葉は、さらりと書いているようでいて、毎日の文章修行の中からアウトプットされたものが選ばれています。とてもぜいたくな一冊に仕上がっているといえるでしょう。