旅こそリフレッシュ作用があります(写真:imacoconut / PIXTA)

最新刊『SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』が話題の精神科医の名越康文先生は、大の旅好きで知られます。「旅」には、心をリフレッシュする効用があると言います

なぜ、すべての旅人は賢者のような眼をしているのか

旅は、ソロタイム(ひとりぼっちの時間)の過ごし方として、最良の方法の一つです。


当記事は夜間飛行が運営する「プレタポルテ」の提供記事です

特急列車の車窓から外を眺めている旅人たちの表情は、どことなく哲学者のように、厳かな空気を帯びます。

目に飛び込んでくる未知の風景、いつもとは違う風の香り。そうしたものと感応するうちに、人は日常の「群れ」に埋没していた時の身体感覚から、少し距離をおくことができます。

普段過ごしている会社や家族、身近な友人など、大小さまざまな「群れ」の空気から離れ、固定化した心の壁を越えていく。旅人が垣間見せる、どこか思慮深く、それでいて緊張感もある表情は、日常生活とはまったく異なる視覚、聴覚、「初めての何か」から無意識のうちに、影響を受けた結果です。


旅が持つ心理学的な効用(イラスト:伊藤美樹)

人間は常に、周囲の環境から影響を受けています。身近な人間関係はもちろん、部屋やオフィスの家具、衣服、食事といった、日常を取り巻くさまざまな環境からも、多大な影響を受けている。

旅に出ることによって、あなたの身体は周囲の人間関係や、様々なモノから引き離され、まったく違った「人」や「モノ」から、影響を受け始めます。その結果、あなたの意識は自然と、「群れ」から引き離されていく。

これが、「旅」のもたらすリフレッシュ効果であり、心理学的な効用です。

物を持たない野生動物が、人間のような鬱屈した心を持たないのと同じように、人も、ものを持たず、移動し続けていた頃の人間は、心を軽く、新鮮に保つことができていたのではないか。私はそう、夢想することがあります。

狩猟採集生活で常に「ソロタイム」を過ごしていた

農耕を行い、定住するようになるまでの数百万年という長いあいだ、人類は狩猟採集生活を送ってきました。それはいわば「旅をし続ける生活」であり、彼らは常に「ソロタイム」を過ごしていたと言えるかもしれません。

農耕を覚え、一箇所に定住するようになった人類は、旅の代わりに、「掃除」と「片付け」をするようになりました。


ずっと移動し続けていた狩猟採集民の所有物は「持ったまま移動できるもの」だけであり、そこには「掃除」も「片付け」も存在しませんでした。

定住し、所有するものが多くなればなるほど、私たちは多くのモノから影響を受け、それによって、アイデンティティを強化するようになった。その結果、私たちは、「変わること」あるいは「生まれ変わる」ことが、苦手になったのだと思います。

持ち物を手放し、身一つで旅に出る。そうやって自分のアイデンティティの一部から手を離すことによって、「群れ」に制約され、神経症気味になった私たちの心を、リフレッシュすることができるのです。