なぜ不景気でも「平均所得」は上がるのか

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■統計データは見せ方次第で意味が変わる

さまざまなニュースや論評などで、根拠として各種の統計データが用いられる。データがあれば信憑性が増し、視聴者や読者の納得を得やすいからだ。

しかし、統計データは見せ方次第で意味が変わってくることがあるので、注意が必要である。たとえば、インターネットのブログに次のような内容が書かれていたとしよう。

「景気は回復傾向にある。なぜなら年収1000万円以上、同500万〜1000万円未満、同500万円未満のどの階層でも、平均所得が上がっているからだ」――。

なるほど、高所得層も低所得層も平均所得が増えているということは、景気が上向いていると考えられる。しかし、自分の所得は増えていないし、景気回復も実感できない……。

この疑問を解くために、ここではわかりやすく、ある国の国民を「高所得者」と「低所得者」の2種類のカテゴリに分けて考えてみる。両者のボーダーラインは500万円だ。そして、この国の人口は4人で、それぞれ所得は1400万円、600万円、300万円、200万円である(図)。2つのカテゴリの平均所得額を見ると、高所得層の平均は1000万円、低所得層は250万円ということになる。

ところが、不景気になり全員の所得が2割減ったとしよう。すると、高所得者のうちの1人(600万円)は、低所得者のカテゴリに移動する。その結果、高所得カテゴリにいるのは元1400万円(現1120万円)の人だけになり、平均はその人の所得1120万円とイコールになる。

一方、低所得カテゴリは、元600万円(現480万円)の人が移ってきた影響で全体が押し上げられ、カテゴリの平均は293.3万円となった。つまり、不景気で4人全員の所得が2割減ったにもかかわらず、いずれのカテゴリでも平均所得は上昇したのである。

■データと実感の間に「差」が生まれる理由

今回は4人という少ない人数で見たが、実際に「全カテゴリの平均所得が上昇すると同時に、貧しい人が増える」という状態は、景気の悪化局面で起きることがあるのだ。

さて、前述のネットブログは、景気回復の根拠として、どの階層でも平均所得が上がっていることをあげていた。しかしいま見たように、必ずしもそうとは言えないことがわかる。これがデータと実感の差、違和感への答えである。このような「集団全体の性質と、集団を分けたときの性質が異なる」現象を、「シンプソンのパラドックス」と呼ぶ。

ちなみに、今回のカテゴリは500万円を境界線にしたが、400万円にするとどうなるか。元600万円(現480万円)の人も高所得カテゴリに残り、高所得層の平均は「(1120万+480万)÷2=800万円」。低所得カテゴリは「(240万+160万)÷2=200万円」となる。不景気になり、確かに両カテゴリともに平均所得が下がっている。

このように不連続なデータを「カテゴリカルデータ」というが、もともと連続なデータを自分の主張に合わせて区切り方を調整することができる。したがってデータが正しいからといって、その主張が必ずしも正しいとは言えないこともあるので注意したい。

(東北学院大学 工学部教授 神永 正博 構成=田之上 信)