フリーアナウンサー 生島ヒロシ氏

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短いほど喜ばれるスピーチだが、歓送迎会の挨拶で褒め言葉に困ったことはないだろうか。話芸のプロが教える瞬時に心をギュッと掴むテクニック──。

■テーマは1つに絞り3分を目安に話す

スピーチの基本といえば、まず最後まで聞いてもらうこと。そのいちばんの条件は、何といっても短いことです。短ければ短いほど、聞き手が集中して耳を傾けてくれている間に終わるので、内容が無理なく参加者の心に残ります。

では短いスピーチとはどの程度の長さなのか。一般的にスピーチの目安は3分以内といわれていますが、短いほど聞き手に喜ばれることを考えれば、3分でも長いかもしれません。なかでも話が下手で長いのが最悪です。だから「私はスピーチが苦手なので、手短にお話しします」と言って、「誠におめでとうございました! 失礼しました」で終わったら、本当に短かったと、ウケると思います。

もっと短くするならば、「万歳三唱」をしてもいいでしょう。あまり親しくない同僚や部下から挨拶を頼まれて話すことがないときには、この手を使えばサプライズで喝采されるかもしれません。かといって、短いスピーチは気をつけないと、おざなりの印象を与えてしまいます。必要な要素をただ並べただけで、自分らしさがないと、とくにそうなりがちです。

逆に、挨拶が長くなってしまういちばんの原因は、あれもこれも話そうとすることです。アガる人でよくおちいるのもこのパターン。自分で収拾がつかなくなり、話が支離滅裂になって、頭の中が真っ白になってしまうのです。そのためには話したいことがたくさんあっても、中心に据える話は1つに絞ることが、スピーチを短くまとめるための絶対条件になります。あれこれ入れると話の焦点がぼやけ、印象も薄くなってしまいます。

突然のスピーチの場合は、起承転結で話をまとめるのは、まず無理です。その場合は、逆ピラミッド型で話すといいでしょう。起承転結という発想より、重要なことから優先して話します。自分の中での優先順位を1、2、3、4、5とつける。重要なことから話を始めて、時間がなければ、4と5の話は捨てる。起承転結できれいにまとめるより、1番大切な言葉から話すと、あとで、「あれも言えばよかった」と後悔することもありません。

■先人の言葉や体験を、引き合いに出し褒める

ところで、親しくない人から挨拶を頼まれたり、急に指名されたときに、僕は最近の時事ネタを振りに使います。マイナス金利の問題や中国人の爆買い、民主党と維新の党の合体といった旬の話題や、ビジネスがらみなら業界話をマクラに、「そういう状況の中で、ようこそお越しくださいました」と世間話から始め、「このたびは○○さんがこんなに出世されて」「今度転勤になられる」などと続けるのです。

その先は、先人の言葉を用いて、褒めにもっていくのもいいでしょう。たとえば、「私の大好きだった作家の城山三郎さんの描いた広田弘毅元首相は、戦争回避に動きながらA級戦犯になりましたが、『風車風が吹くまで昼寝かな』という句を残しています。その泰然自若として、わが人生を受け入れるという姿勢には大変共感を受けます。○○さんにもそうした物事に動じないしっかりしたところがあり……」とやるのです。あまり親しくない関係の場合に、その人の環境にふさわしい歴史上の人物の言葉や体験を引き合いに出し、スピーチの中に入れたりするのもひとつの方法です。

あるいは、経済界の方が好きなドイツ出身のアメリカの詩人、サミュエル・ウルマンの「青春の詩」の一節も使えます。「青春とは人生のある時期ではなく、心の持ち方を言う」という言葉を引用しながら、「心の持ちようがいくつになっても青春なんです。○○さんも、まだまだこれからです」と話をもっていってもいいでしょう。

スピーチはあまりにヨイショするとみっともないものですが、褒め称えることが基本です。ただし、褒めるにしてもストレートにもち上げるのではなく、ビジネス界でウケるような言葉を自分なりにうまく解釈して、当てはめることをお勧めします。

■具体的な話を入れ人物像を伝える

「今回の主役の○○さんは、こういう先人の言葉に代表されるようなことを、社内環境、経済状況の中で頑張ってこられ……」みたいに話を組み立てます。あるいは、「これまでに業績を挙げたのは、白鳥の水かきではありませんが、目に見えない水面下の努力は大変なものがあったと思います」といった、光と影の部分、表に見えないところで努力を重ねてきたことを話に交えれば、わざとらしくならないでしょう。

挨拶をするのに親しくなければ、その人物に近い友人などに話を聞いて、褒める点をおさえておくことも重要なポイントになります。たとえば、朝出社するときに、エレベーターを使わず3階まで階段を上ってくる人だとします。「おいくつになられてもこれだけエネルギッシュな仕事ぶりは、われわれの知らないところでの努力があればこそで……」といった褒め方ができます。

「雰囲気がいい」とか「お若い」「性格が明るい」といった表現は褒める常套句ですが、心がけたいのは、具体的な話を入れ、その人物の姿を浮かび上がらせることです。その日の主役の優しい人柄を伝えたければ、ただ「優しい人」と表現するのではなく、「とても優しい人で、迷子の子どもを背負って母親を探し回ったことがあります」というように話せば、優しさが十分に伝わり、心に響きます。

■日常生活の中に、話を落とし込む

ルーティンワークの中から探すのであれば、「私が営業の電話1本してるうちに、いや、○○さんは5本もしてるんですよ」と話せば、それだけで聞き手には、仕事がテキパキできる人だとわかります。総花的に「彼はまさにジェントルマンで欠点がありません」「本当に前向きな素晴らしい方で」と褒め殺すだけでは、ちっとも面白くありません。エピソード的なところに落とし込んでいくと、日常生活の中のリアルな姿が見えてきて、生き生きとしたスピーチになります。

できるものなら、話に普遍的な広がりがあるものを最後にもってくるとスピーチが締まります。つまり、主役と自分の関係だけではなく、その関係性の中からすべての人が首肯できるような話です。

たとえば、「晴天の友となるなかれ。雨天の友となれ」という言葉は、調子がいいときは人が集まってくるけれども、不遇のときに離れていかない人こそ真の友だといった意味です。

これは、友情関係の普遍性、あるいはサラリーマンとして生きるうえで、自らを律する大切なことを示唆していて、列席者は、そこで何となくストンと腑に落ちるわけです。そんなまとまりをつけられれば、ただの思い出話でなく、具体性の中に、その話をワンランク上の印象にもっていくことができます。

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生島ヒロシ
フリーアナウンサー
1950年、宮城県生まれ。75年カリフォルニア州立大学ロングビーチ校ジャーナリズム科卒業。76年TBS入社。人気アナウンサーとして活躍。89年に独立。講演、イベント司会などでも活躍。東北福祉大学客員教授。著書は『口下手な人のためのスピーチ術』など多数。
 

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(フリーアナウンサー 生島 ヒロシ 構成=吉田茂人 撮影=小川 聡 写真=iStock.com)