遠藤保仁選手が第一線で活躍し続けるワケとは?(撮影:佐藤亮)

「国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」など、数々の金字塔を打ち建て、ワールドカップで世界を相手に戦った遠藤保仁選手(新刊に『「一瞬で決断できる」シンプル思考』がある)、実はサッカー日本代表で行われる体力測定の数値は下から数えたほうが早かった。フィジカルが強いほうが有利とされるサッカーで、遠藤選手はなぜ長く第一線で活躍し続けることができるのか?その理由を遠藤選手本人が語ります。

「先読み」と「シンプル思考」を鍛えるには

当たり前に聞こえるかもしれませんが、サッカーというスポーツはフィジカルが強いほうが有利だとされています。相対的に体が小さい日本人プレーヤーが、フィジカルの強い外国人と真正面からぶつかれば、分が悪いのが普通です。

しかし、サッカーのうまさはそれだけでは決まらないというのが僕の持論です。もし、フィジカルで勝敗が決まるのであれば、僕は日本代表に呼ばれることはなかっただろうと思いますし、プロ選手として長くプレーすることも不可能だったはずです。実際、日本代表選手の中でも、僕の体力測定の数値は下から数えたほうが早かったぐらいです。それでも世界の舞台で戦えているのは、つねに「先読み」と「シンプル思考」を心掛けてきたからです。

サッカー選手としての僕を支えてきたのは「先を読む力」です。そして、「先を読む力」は、個人のセンスに左右される部分もありますが、ある程度は自分で磨くことができると考えています。ふだんの生活の中でも、先読みのトレーニングは可能です。

身近な話でいくと、僕は車の運転をしているとき、どの車線を走れば前が詰まることなく、スムーズに流れに乗ることができるか、つねに考えています。前方の混雑状況だけでなく、バックミラー越しに映る後方の交通量や道路状況なども考慮しながら、自分が走る車線を選択しています。

家族と一緒にスーパーへ買い物に出掛けたときも、どのレジに並ぶべきか、いつも予測しながら決めています。単純に列を作っている人の数を見るだけでなく、買い物かごの中に入っている商品の数もチェックしています。並んでいる人の数が多くても、買い物かごの中の商品が少なければ、列は早く進みますからね。

ベテランの店員さんは手際がいいので、素早くお客さんをさばいていきます。そんな要素を総合的に判断して、自分が並ぶべき列を決めています。

このような日常生活での小さな予測を、意識して何度も繰り返していくと、精度も高くなり、判断スピードも上がっていきます。それは「先を読む力」がアップしているといっていいと思います。

「頭が疲れる選手になりなさい」という教えの真意

サッカーの試合中は、目まぐるしく状況が変化していきます。そうした状況を瞬間的に、的確に捉えながら、予測と判断を繰り返し、それをプレーとして表現する。その繰り返しです。

そのため試合中は、体を動かしながら、いつも頭はフル回転の状態。中学時代の監督から、「体が疲れるのは当たり前。頭が疲れる選手になりなさい」とよく言われました。状況を観察して、頭で考えて予測し、一瞬で判断し、プレーをしなさいということ。その教えは、プロとなった今も大切にしています。

「遠藤はいつもゆっくりプレーしている」とよく言われます。試合を見ている人は、僕の動きがゆっくりしているように見えるから、運動量も少ないと思い込んでいるようですが、実は南アフリカ・ワールドカップにおけるFIFA(国際サッカー連盟)の公式データによると、僕がチームでいちばん長い距離を走っていたんです。

僕のプレースタイルがゆっくりしていて、運動量が少ないように見えるのは、ダッシュをする回数が少ないからだと、自己分析しています。

もちろん、ダッシュが少ないのは、あえて、しないようにしているからです。ダッシュをするとその分ボールのコントロールが難しくなるのがサッカーです。

そのため、ダッシュをしないようにするにはどうすればいいかを考えると、先読みが必要になるわけです。たとえば、5メートル先の地点に移動するとき、周囲の状況から先読みをして、早めに足を踏み出せば、ダッシュをせずに到達できます。

サッカーでは、先読みが正確にできるほど、有利な立場を得ることができるのです。次のプレーを予測して、相手より1秒先に動き出せれば、その分パスを通したり、ボールを奪えたりする可能性は高まります。コンマ何秒でも先にアクションできれば、大きなアドバンテージになります。

仕事でも人生でも「先を読む力」がある人は、誰よりも早くアクションを起こし、有利なポジションに立つことができるはずでしょう。お客さまや上司が求めているものをいち早く察知し、それを提供する。そのような先読みができる人が結果を出すのは、サッカーもビジネスの世界も同じではないでしょうか。

2手、3手の先を読み、心理戦で優位に立つ


試合中、頭を使って、よく考えている選手というのは、次のプレーを予測するのが難しいです。いかに先読みをするか、逆にいかに先読みをさせないか、そんな駆け引きがフィールド上で行われているのです。

正直にいえば、僕はそういう心理戦を楽しんでいる節があります。相手の裏をかいたり、次のプレーを予測してボールを奪うことができたりすると、「よし、やった!」という気分になります。反対に、敵の選手に同じことをされれば悔しいですよ。

僕はあまり感情を表に出すタイプではないので、クールな印象をもたれるようですが、誰よりも負けず嫌い。そのため、心理戦で負けるのはとても悔しいです。サッカーと同じような心理戦が繰り広げられるトランプゲームにも、ついついヒートアップしてしまうくらいですから。でも、トランプのような遊びでも、心理戦で勝つためのセンスを磨いたり、発想のヒントを得られたりすることがあると思っています。

先日、プロのマジックショーを間近で見る機会がありました。マジックには必ず、見ている人を欺く仕掛けがあります。たとえば、右手に持っているトランプのカードに観衆の視線を集中させておき、左手で欺く仕掛けを用意するわけです。相手の目線をずらすという意味では、サッカーにおけるフェイントや、視線の方向とはまったく異なる選手にパスを出す「ノールックパス」と同じです。

マジックを見ていても、自分の意識ひとつで、心理戦で優位に立つためのヒントを得ることができます。営業や商談、プレゼン、交渉などの場はいずれも心理戦のはずです。

心理戦で優位に立つためには、「先を読む力」がカギを握るわけです。もちろん、相手も先を読もうとしているでしょう。だからこそ、そのさらに先、2手も3手も先を読むことが、サッカーでもビジネスの世界でも求められているのではないでしょうか。