ハワイのブランド力が落ちない理由とは?(写真:tako/PIXTA)

ターコイズ色の海に、白い砂浜、オレンジ色の夕日、ゆっくりと流れる時間――。ハワイと聞くと、多くの人は「美しい」「楽しい」「オシャレ」など、ポジティブなイメージを抱くのではないでしょうか。

筆者はハワイに住んで14年になりますが、ハワイのブランド力が衰えている、と感じたことは一度もありません。むしろ、毎年のようにリピーターの観光客が増え、インフラ整備も進み、観光地としてパワーアップしていると感じるほどです。実際、ハワイ観光局によると、2016年の観光客数は約894万人と、前年比約3%上昇。観光客による消費額も156億ドル(前年比4%増)と、過去最高を記録しました。

リーマンショックや新型肺炎SARS(重症急性呼吸器症候群)、東日本大震災などの影響を受けながらも、ハワイが絶えず観光客を引きつけ続けられるのは、単に自然や気候に恵まれているということだけではなく、ハワイに住む人たちによる「ハワイを盛り上げよう」という努力があるからにほかなりません。

ハワイにはビルボードがない

筆者の夫は、ワイキキの200社以上の企業をメンバーに持つ「ワイキキ・インプルーブメント・アソシエーション(WIA)」というビジネス協会の会長を務めています。ワイキキの都市開発からイベント開催、治安整備、ビーチ問題までワイキキをよくするための行政と民間企業の調整役を果たしているほか、多くの法律改正などに携わってきたロビイストでもあります。

こうした夫の活動を支援し、見てきたことでわかってきたハワイの観光地としての強みが大きく3つあります。これは、観光立国を目指し、今後観光客を大幅に増やそうとしている日本にも参考になるのでではないでしょうか。

1. 環境整備にうるさいコミュニティがある

ハワイは、観光が主要産業であるがゆえ、観光地に住んでいる住民の負担などにも配慮した法律や規制などがしっかりとあります。たとえば、夜景がキレイに見える山の上にレストランが一軒もないのは、その地域はハワイ住民のための居住区であり、商用許可が下りていないためです。建築基準も厳しく、たとえば、現在リッツ・カールトンホテルがある場所は、かつてはホテルを建ててはいけない区画でした。また、以前は店の前にカフェスタイルのテーブルやいすを出すのも法律で禁じられていました。

高さ制限や歴史的建造物の保護、外観を損ねないための規制も多くあり、たとえば、路面店では2階の看板を1階より大きくすることは禁じられています(日本では上に行くほど目立つ看板になりますが……)。ハワイを訪れたことがある人はご存じだと思いますが、ハワイにはビルボード(屋外大型看板)がありません。このおかげで、クルマでどこを走っていても、広告に邪魔されず、美しい風景を楽しむことができるのです。

フリーペーパーを置く台も、抽選で場所が決められており、利用するには料金を払う必要があります。特定の企業が独占しないような配慮もされているおかげで、企業もこうしたスペースを平等に利用できるわけです。

海沿いの一等地と呼ばれる場所は、ハワイの地主であるカメハメハ王朝の土地であるため、民間企業などが勝手に買うことができず、リース契約となっています。勝手に開発ができないので、ハワイにはプライベートビーチが少ないわけです。また、サンゴやウミガメ、海洋生物の保護団体も非常に強い影響力を有しているほか、ビーチを清掃するボランティア団体も多くあり、地主や企業、住民、非営利団体などが一体となってハワイの美しい景観や自然を守っているのです。

専門のマーケティング組織がある

ハワイでは、住民の影響力が強く、たとえばワイキキでは「ワイキキ住民会議」が毎月1回開催され、ワイキキにおける問題点などを、市議会議員や市長といった行政に影響力のある人物をゲストに招いて話し合っています。また、ホテル協会や不動産協会、ワイキキビジネス協会など各業界団体も力を持っており、それぞれの業界における活動や資金集めなどに熱心。時に団結力を示して、法改正などを後押しすることもあります。

2. マーケティングがうまい

ハワイ州は世界に向けたマーケティングやプロモーションに年間8100万ドル(約90億円)を使っています。ハワイは人口140万人の小さな州ですが、マーケティングに使っている額は、日本の観光庁の年間予算の3分の1にも相当するのです。

マーケティングはすべて、年間4億ドルにも上るホテル税をもとに設立されたハワイ州観光局(HTA)という州政府の観光業を請け負っている組織が行っています。ホテル税は2018年1月から従来の9.25%から10.25%に引き上げられたので、より多くのマーケティング費用を投入することが可能になると言えます。

HTAは、米国本土や欧州、日本などそれぞれの地域に合わせたマーケティングを展開しており、特に米国本土に次いで観光客が多い日本には、東京にハワイ州観光局(HTJ)を設け、「ハワイエキスポ」などイベントを開いたり、日本マクドナルドやローソンなど日本企業と連携したりして、さまざまなプロモーションを行っています。

9月に行われた毎年恒例のHTA主催のサミットでは、それぞれの地域に対する2018年のマーケティング戦略を発表。日本については、バーチャル・リアリティ(VR)やSNSを通じて日本のミレニアル世代へのアピールを強めるほか、日系移民の150周年を絡めたマーケティングなども考えているようです。

このほか、ハワイ州では国際線および国内線の飛行機内で、検疫の申請と一緒に、任意アンケートを取っていて、ハワイへ来た目的や名前、住所、年齢、渡航人数、滞在期間などを書いてもらっています。ハワイ在住者も含めて、ハワイ州に出入りする人の動向調査をすることで、その行動データを分析し、今後のマーケティング戦略に生かすようにしています。

3. 文化や自然に関心の高いリーダーがいる

ハワイが好きな日本人が多い理由には、ハワイの恵まれた気候や自然が挙げられると思いますが、日本と同じ島国だから、ということも日本人に「親近感」を抱かせているのではないでしょうか。

一方、ハワイは日本と異なり、移民が多く、多民族がともに暮らしている島でもあります。こうした中、ハワイの人々は先住民に対して敬意を払いながら、それを伝承し、広めていく活動に力を入れています。たとえば、先住民の文化であるフラは、今や日本を含め世界中に愛好家がいますし、先住民が始めた「アロハフェスティバル」の運営は、現在、夫が会長を務めるビジネス協会WAIが行っています。

「日本ファン」のリーダーを増やすべきだ

このイベントをWAIが受け継いだ当初は赤字でしたが、「ハワイの伝統文化を伝え、守ることは必要」との判断から継続。「ハワイアン文化を伝えると同時に、ハワイの多様な習慣と伝統をたたえることによって、アロハスピリットを育成する」ことを目標に掲げ、ハワイ州最大のお祭りへと発展させました。日本文化との融合もハワイでは多く見られ、たとえば、「まつりインハワイ」は、日本の祭りをハワイに広めるために毎年開催されている、地元民にも人気の高い文化交流イベントです。

ただ、こうした文化を継承し、守るためにはリーダーシップと多くの資金が必要ですが、ハワイでは幸いなことに、WAIのようなビジネス団体や企業、財団などが支援や寄付を行っており、ハワイの文化を守ることに力を入れています。

前述のHTA主催のサミットにも、ホスピタリティ協会や財団、文化団体などの幹部が出席。「ハワイ文化をどう守り、観光業に結びつけるか」というテーマのセッションが行われました。ここでは、ハワイの伝統文化をどう継承するかについてだけではなく、各国での伝統文化と観光業の融合例や、各国の先住民が観光業を通じてどのように経済的立場を向上させているかなど、多様なテーマで盛り上がりました。

ハワイに住んでいる誇りと、ハワイに対する感謝の気持ちを持つ。ハワイに住んでいる人たちのバックグラウンドはさまざまですが、それぞれが共通の気持ちを持って、力を合わせることが、ハワイを世界随一の観光地に引き上げているのではないでしょうか。

日本にも、日本を愛し、日本の文化を守るために動くリーダーが必要ですが、それを日本人だけが担う必要はないのではないでしょうか。ハワイが、「ハワイ好き」という共通点を持つ世界のリーダーや企業の協力によって発展してきたのと同じように、日本も世界中の「日本ファン」の協力を仰いで、日本の文化や伝統を守ってもらい、広げていってもらうことができれば、と思います。