BBCはこの1年間、タテ型動画の制作に力を入れてきた。いま、その成果が現れつつある。BBCが国内外向けニュースアプリに「今日の動画(videos of the day)」と題したタテ型動画セクションを導入したのは1年前。それ以来、同社によれば、アプリで動画を視聴するビジターの数は30%増加し、ユーザー1人あたりの動画視聴数も20%増加したという。ロイヤルティも向上した。タテ型動画の視聴者のアプリ利用頻度は、動画を見ないユーザーの3倍に上る。BBCは具体的な数値を明かしていないものの、BBCニュースアプリの普及率はパブリッシャーアプリのなかでもトップクラスだ。アップアニー(App Annie)のデータによれば、BBCニュースアプリのユニークユーザーは、2017年10月の時点で世界で2000万人を超えている。

若いオーディエンスにアピール

アプリの「今日の動画」セクションには、BBCのエディターが選んだ7本のタテ型動画が並び、ニュースサイクル次第で随時更新される。11月22日版には、ジンバブエのロバート・ムガベ大統領の辞任関連が2本、ニューヨークの自動車突入テロで容疑者となった息子を擁護する母親、ランジェリーブランド「ビクトリアズ・シークレット(Victoria's Secret)」が上海で開催したファッションショーなどが選ばれた。動画は長さが60〜90秒で、字幕付きなので音声なしでも閲覧できる。放送局が豊富な動画資源を利用するのは、テキストベースの媒体社が同じことをするよりも容易だ。そのため、BBCのタテ型動画の大部分は、アプリ内で配信済みのヨコ型動画を編集したもので、最初からタテ型のフォーマットで撮影したものではない。20人からなる専門チームが、動画の制作や調達、フォーマット変更を行い、BBCのサイト、アプリ、サードパーティープラットフォームに掲載/投稿している。ただし、アプリのタテ型動画セクションに掲載する動画は、ほかのセクションとは違ったスタイルとトーンになるような工夫がされている。若いオーディエンスにアピールするためだ。

BBCニュースアプリでは、厳選されたタテ型動画の視聴体験ができる

新たな番組配信のチャンス

BBCは通常の動画以外のフォーマット、たとえばライブストリーミングや360度動画についても、アプリ内にタテ型動画として取り入れることを検討している。また、タテ型動画を見ないアプリユーザーにこのセクションを見てもらう方法についてもテストを実施している。将来的には、モバイルサイトにもタテ型動画が登場する予定だ。タテ型動画によって新たな番組配信のチャンスが生まれたと、BBCニュースのデジタル開発担当ディレクター、ジェームズ・モンゴメリー氏は言う。Appleが「iOS 11」へのアップデートを開始したことによって、Apple Newsでもタテ型動画コンテンツが視聴できるようになり、BBCはまず米国で配信を開始した。12月には英国でも配信がスタートする予定だ。英国公共放送局のBBCだが、海外では広告収入を得ることが可能なため、BBCニュースアプリでは航空会社やテック企業など、さまざまなブランドのキャンペーンがタテ型動画を使って行われている。

タテ型動画の課題と可能性

トラフィックの主軸がモバイルに移る(BBCの場合、トラフィックの6割以上がモバイルだという)なか、パブリッシャーはユーザー体験の向上に力を入れている。ハースト(Hearst)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)、ニュースコープ(News Corp)など、2016年には多くのパブリッシャーが先を争ってタテ型動画のリリースを喧伝したが、現在その勢いには翳りが見られる。タテ型動画の制作には撮影および編集方法の変更が必要なうえ、広告掲載についてもまだ手探りの状態だからだ。「我々の多くが直面している課題は、動画配信のプラットフォームや環境の多様化にともない、ヨコ型、正方形、タテ型、ショートバージョン、ロングバーションなど、それぞれに合わせる修整作業が編集上の大きな負担となることだ」と、モンゴメリー氏は言う。ワークフロー効率化のため、BBCは動画フォーマットのアスペクト比を調整するサイズ変更ツールや、字幕を他言語に翻訳するためのツールを開発した。タテ型動画に対する広告主の意欲や実際の投資額のデータは少ない。だが、eマーケター(eMarketer)のシニアアナリスト、ビル・フィッシャー氏によれば、理論上、タテ型動画広告には通常よりも高いCPMを設定できるという。「広告主の多くがプレミアムな動画広告インベントリー(在庫)を探し求めているいま、パブリッシャーは強気に出られるはずだが、英国内ではまだあまり話題になっていない」。英国のエージェンシーは、予算配分の際に依然としてタテ型動画の優先順位を低く考えがちで、小規模パブリッシャーも初期費用の増加に及び腰だ。だが、アドエクスチェンジで取り扱われるインベントリーが増えれば、流れは変わるだろう。ただし、タテ型動画に向いているのは、スケール最優先ではない広告主だ。「(タテ型動画は)ブランデッドコンテンツの主戦場になる可能性がある」と、モンゴメリー氏は言う。「アプリのオーディエンスはもっともエンゲージメントの高いコアな層だ。量より質を求めるなら、(タテ型動画は)十分に魅力的だ」。Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)