ドリス・ヴァン・ノッテン 妥協を許さぬ完璧主義者の肖像

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 ベルギー政府肝いりのモード振興策のなかで登場した「アントワープの6人」のひとりとして登場して以来、世界の第一線を走り続ける服飾デザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。このフィルムは、いままで謎に包まれてきた創作のプロセスと私生活を、2015年春夏レディースから2015/2016年メンズ・コレクションまでの1年間に密着したドキュメンタリーである。

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 映像は、眼に鮮やかなグリーンの素材を敷き詰めた、木洩れ日の降り注ぐ森の小径のようなキャットウォークからはじまる。彼曰くファッションという嫌いな言葉は所詮半年ですたれてしまうものだが、目指すのは「時代を超えたタイムレスな服」、着る者と共に変化し成長する服だ。ベースにあるのは丁寧に仕立てられたクラシカルな服であり、そこに異質な要素をバランスよく取り込むことで、カラフルで個性的なコレクションを生み出してゆく。

 カメラが追う服作りの過程は、日頃から彼が纏っているシンプルな服同様に気取りがない。世界中の織物業者から送られて来る大量の生地サンプルや、いちはやく注目したインドで稼働中の刺繍工房で加工された生地がアントワープのアトリエに集められ、所狭しと並べられる。作業は、それら色とりどりの生地をパズルのように組み合わせ、「偶然の」インスピレーションを発見するまでの、試行錯誤と取捨選択の連続だ。スタッフと共に和やかな雰囲気のなかで進む作業を凝視する彼のまなざしは、しかし常に強くひたむきである。

 彼の「病的な完璧主義」は、私生活にも及ぶ。ショー後の休暇旅行でも、グーグル・マップで移動時間を計算し、事前に綿密な計画を立てて行動するという彼は、デザインの現場のみならず、日常の何をするにも一切手を抜くことが出来ない。

 公私ともにパートナーであるパトリック、愛犬ハリーと住まうアントワープ郊外にある私邸にあっても姿勢はブレない。広大な庭園を散策しつつ、色とりどりの花々を摘んでは邸内の美術品や調度品と調和するように丁寧に生ける。そしてまさしく病的なほど几帳面に、細心の注意を払って室内を整えてゆく。さながら瀟洒な美術館のようにしつらえられた私邸の映像は壮観で、これだけでも一見の価値があろう。

 20世紀末からファッション業界を襲った巨大企業による買収の誘いを断り、改めて独立系デザイナーとして生きることを決意した2001年をはじめ、結節点となったショーを映像とともに振り返るインタビューが適宜挿入されているので、彼やその作品をまるで知らない人にも、ひとりのデザイナーの来歴と現在を見渡すことができる。それだけに、彼のファンやモードシーンにアンテナを向けている人々はもちろん、およそ芸術の創造過程や芸術家個人に興味をいだくすべての人に大いなる刺戟を与えてくれるフィルムに仕上がっている。Text:川田朔也

◎公開情報
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
2018年1月13日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー