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●クラウドは企業にイノベーションのプラットフォームを与える

世界、そして日本においてもパブリッククラウドのデフォルトといっても過言ではない地位を築いているAmazon Web Services(AWS)。2017年もそのスピードは鈍化することなく、1300種類以上の新しいサービスをローンチした。その強さの秘密は何か? アマゾン ウェブ サービス ジャパンで代表取締役社長を務める長崎忠雄氏に聞いた。

○年40%増で成長、クラウドトレンドとコミュニティが後押し

パブリッククラウド市場におけるAWSのシェアは3割とも4割とも言われるが、長崎氏によると世界では数百万社、日本でも10万以上のアクティブな顧客がいるという。成長は数字に裏付けされている。今年10月に発表した最新の決算(2017年第3四半期)における売上高は45億ドル、「年率42%で成長している。年間のランレートは180億ドル」という。

成長の要因の1つとして、クラウドの浸透がある。長崎氏は「世界全体で、クラウドの価値が多くの企業に浸透し始めた」と語る。

日本の状況はどうだろうか。「日本企業におけるクラウドの導入が一段先に進んだ」と長崎氏。今年6月に同社が開催したイベント「AWS Summit Tokyo 2017」には全国から数万人が集まり、三菱東京UFJ銀行、セイコーエプソンといった大手企業がデータベースのフルマイグレーションなど、自社のクラウド体験を共有した。親会社Amazonと競合する小売業を含め、「ありとあらゆる業種、規模の企業がAWSのクラウドを利用している」という。

クラウドはトレンドではあるが、AWSの特徴として強いコミュニティがある。JAWS-UG(AWS Users Group-Japan)、それにエンタープライズ向けのE-JAWS(Enterprise JAWS-UG) ー> Enterprise JAWS-UG(E-JAWS)といったコミュニティを抱えており、これらもAWSのビジネスの加速に大きく貢献しているようだ。長崎氏はいう。

「AWSは技術の進歩が早い。そのため、われわれがすべてのお客さまにすべてのメッセージを確実に伝えるという点では改善の余地がある。そこで、コミュニティやお客さま同士でノウハウや体験を共有していただきながら、クラウド導入を成功に導いているケースが多い」

同社の成長にはクラウドの革新性も手伝っているようだ。「クラウドはイノベーションのプラットフォーム。異業種がAWSを使うことにより、新たなビジネスマッチングがいくつも生まれている」と長崎氏。オンプレミスからのマイグレーションといった技術面にとどまらず、デジタル・トランスフォーメーションなどのビジネス面においてもヒントを得ている顧客がいるようだ。

「クラウドは従来のITとは考え方が違う。コスト削減につながるのはさることながら、最大のメリットはイノベーション。企業が新たな成長エンジンを作るにあたっては、トライ&エラーで新たなことに挑戦しなければならない。これまでこうしたことが容易に行えるプラットフォームはなかったが、クラウドにより得ることが可能になった」

○日本独自の取り組みも - 大阪ローカルリージョンがオープン

2017年は、VMwareなど競合と言われてきた大手ベンダーとの提携も大きな話題となった。VMwareについては「数年前から話していた。両者が手を組んだほうがお客さまにメリットが大きいという結論に至り、新たなサービスを共同開発した」と事情を明かす。

その成果である「VMware Cloud on AWS」は2017年秋に米国でサービスインしており、日本でもヴイエムウェアが2018年第4四半期に提供すると発表している。「お客さまのオンプレミス環境とAWSをハイブリッドで接続するためのサービスはこれまでにも提供しており、VMware Cloud on AWSはその一環」と、長崎氏は説明した。

また、2017年は日本独自の取り組みが進んだ年でもある。長崎氏は、日本の取り組みとして、2018年第1四半期に大阪ローカルリージョンがローンチすること(日本国内で災害対策が可能になる)、これまでアメリカのみだった準拠法と裁判所の管轄として日本を選択できるようになったこと、日本円対応、コンソールの日本語化、「AWS Fintechリファレンス・アーキテクチャー 日本版」の公開を挙げた。

「AWS Fintechリファレンス・アーキテクチャー 日本版」は、金融機関において参照されているFISCの安全対策基準をはじめとした各種のガイドラインや標準規格の主要な要求事項を網羅的に整理したもので、FinTechと既存の金融機関をつなぐものとして期待されている。

長崎氏は「われわれはFISC主催の有識者検討会に参加し、クラウドを活用する際のセキュリティの考え方について、積極的に情報提供を行ってきた。われわれは11年この世界でビジネスをやっており、セキュリティや規制順守は最優先事項だ。11年の長があり、その経験を役立てることができた」と意義を説明した。

以前は、クラウドの懸念材料と言えばセキュリティが真っ先に挙がっていたが、今ではクラウドにおけるセキュリティに関する懸念は払拭されているようだ。「"クラウドのセキュリティは大丈夫?"から"クラウドだから安心"に変わった。企業は自社でセキュリティ対策を講じるよりも、AWSに任せたほうが安心と、意識が変わってきた。われわれはさまざまなホワイトペーパー、監査、SOCといったレポートを公開しており、透明性を提供している」という。顧客は自社でそれを評価し、「AWSは安全」と認めてくれているとのことだ。

●求める人材のキーワードは「パイオニア」と「ビルダー」

○スピードの秘密

長崎氏は、さらなるAWSの特徴として、スピードを挙げた。2017年にローンチしたサービスや機能の数は1300以上、これについて、「お客さまが求めているものをいち早くサービスとして出すことにより、喜んでもらえる。このスピード感なくしては、お客さまのビジネスを支援できない」と説明する。

こうした背景には、Amazon本体の徹底した顧客中心主義が脈々と流れているようだ。「Amazonのビジネスは、インターネットで小売をすることから始まった。当時から"地球上で最もお客さまを大切にする"がミッションステートメント。すべての事業部において、お客さまにとって何が正しいのかを軸に行動・判断する」と長崎氏。だからこそ「お客さまの成功なくして、AWSの成功はない。クラウドは従来のITと異なり、売って終わりではない。続けて契約していただく必要がある。お使いいただいた時からずっと関係がつながっていく」という言葉は、真実味を帯びて響く。

長崎氏はもう1つ、親会社の影響として「Amazonは低コストで提供するための物流を作ってきたDNAがあり、このDNAでクラウドコンピューティング事業を始めたことはとても大きい」と語った。ここは競合との差別化につながっているようだ。

「クラウドビジネスは簡単ではなく、スケールが求められる。低コストを実現できる経営体質や仕組みが必要だが、これは一夜で作れるものではない。将来、残るクラウドベンダーは数社と予想している。AWSはその1社となるために、お客さまの声に一生懸命耳を傾け、必要なサービスをリリースし、足りない部分はどんどん改善していく」と緊張感を緩めない。

スピードや緊張感はスタートアップのマインドにも通じるが、人材戦略を聞いたところ、「パイオニア」と「ビルダー」がキーワードだという。パイオニアとは「道なきところに道を作る開拓者」、ビルダーとは「作る・構築する人」を指す。これは技術だけではなく、営業、サポート、マーケティングなど全ての職種において求められる要素だという。

だが、カルチャーの維持は簡単なことではない。「大企業病にならない仕組みがいくつかある」と長崎氏は述べ、できるだけ小さなチームを組むこと、プロジェクトに着手する前にプレスリリースを書くこと、などを例に挙げた。

プレスリリースについては、「お客さまが使っているシーンを想像し、何が嬉しいのかをあぶり出す。このプロセスがちゃんとできれば、開発に入って方向性がぶれても戻るところがある」と目的を説明した。「われわれのロードマップの9割以上が、顧客の声により変わる。これは官僚的組織だと実現できない」という。

○2018年、クラウドの勢いはさらに加速

このようなスピード重視の一方で、長崎氏は「われわれはビジネスを短期で見ていない。3年から5年ぐらいの長期スパンで見ている」とも言う。

「サブスクリプションで、顧客が使う量を決めるビジネスであるクラウドは、四半期サイクルではうまくいかない。われわれはどうすれば安くなるかを常に提案しているが、これはお客さまの長期的なビジネスパートナーでありたいから」

実際、同社は2006年のサービス開始以来62回値下げをしているが、中長期で考えなければ値下げとビジネスのバランスは難しい。「スケールのビジネスなので、ある程度下げられると判断したら下げる。これは今後も続ける」と、長崎氏は述べた。

2018年もクラウド導入のトレンドは継続し、「雪崩を打って、さまざまな企業がクラウド戦略を本格化させる」と予想している。「AWSはその波に答えるためにあらゆる部署に人を配置して、日本のお客さまのクラウド導入、デジタル・トランスフォーメーションをしっかりお手伝いしたい」と長崎氏はいう。

最後に、「ITの世界は、オンプレからクラウドへの転換期にある。クラウドの浸透を成功させるには、単なる置き換えではなく使いこなすことが重要。これにより、本当のクラウドの力を享受いただける」と述べた。