平成生まれがゆく「東京名店物語」〜浅草最古のすき焼き店・ちんやの古くて新しい味〜

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山口祐加

山口祐加
ごはんの人。東京生まれの25歳。出版社を経て、食のプロデュース会社で働いています。両親共働きで、母親に「ゆかが料理を作らないと晩御飯ないよ」と笑顔でおどされ、7歳のときに料理に目覚めました。趣味は友人にご飯を作ることと、ストイックな食べ歩き(2016年は新規125軒、2017年は新規220軒)です。 ブログ Twitter Instagram

新年、あけましておめでとうございます。ライターの山口祐加です。

2017年は飲食店を220件新規開拓したので、今年はその中の特に好きなレストランに通って常連のお店を増やしたいと思っています。

つまり、今年も食べ歩きます。

さて、Rettyグルメニュースにて初執筆した「神保町ボンディのじゃがいもの謎」がありがたいことに10月のPVランキング月間1位をいただきました…!(多謝)

記事公開後、「もともとボンディ好きだけど、じゃがいも物語を知ってもっと好きになった」と20〜50代の方々からコメントをいただき、その幅の広さに驚きました。

名店の奥深さを知ってしまった私は「愛される名店の旨味をもっと味わいたい…」と思っていた矢先、グルメニュース編集部からドンピシャの企画が。

その名も「平成生まれがいく 東京名店物語」。

25歳・名店初心者の私が、人生の先輩から名店の”いろは”を教えてもらう企画です。しかも、名店物語を案内していただくのは、17年間続くグルメガイド「東京最高のレストラン」編集長・大木淳夫さん…。大物すぎて、腰が引けております。

名店を紹介してくれる人

大木淳夫
「東京最高のレストラン」編集長を創刊より務める。他の編集作品「グルメ多動力」(堀江貴文)「東京とんかつ会議」(山本益博/マッキー牧元/河田剛)等。 Rettyアカウント

名店を知るには、老舗から始めよ

「名店の世界をご案内いただけるということで…」

「はい、よろしくね。まず名店を知る第一歩として、行くべきなのは『老舗』と言われる店。老舗を知ると、食の世界がぐっと広がる。」

「老舗ですか…。敷居が高いイメージで今まであまり行ったことがありません」

「大丈夫だよ。東京で老舗が多いと言えば浅草。なんで浅草に老舗が多いのかわかる?

全然わかりません!

「じゃあ、現存する浅草最古のすき焼き店「ちんや」に行くと色んなことを教えてもらえると思うよ。最初は敷居が高いと感じるかもしれないけど、食べれば面白さがわかるから」

「はい、では浅草のちんやへ取材してきます!」

浅草へ

やってきました、浅草。
夜でも大盛況の雷門前。
いつみても風情がありますね。

すき焼き「ちんや」は、雷門の4軒となり。
外観からして老舗の風格たっぷりです。

右の「適サシ宣言」が気になって仕方ありません

迎えてくださったのは六代目の住吉史彦さん。

「今日は、よろしくお願いします! 店へ来て早々ですが、ぜひすき焼きを食べさせてください。(大木さん、食べればわかるって言ってたけど何がわかるんだろう…)」

「わかりました。どうぞ、おあがりください。」

厳かに通されたお部屋がこちら。
敷居高い感、むんむんです。
私には10年早い気がしてきました。

早速お肉とザク(野菜たち)が登場。
見事な霜降り肉…!

よく見ると牛脂がハート型です。
牛脂、かわいい。
なんかちょっとだけ親近感が湧いてきました。

仲居さんが作ってくださいます。
若輩者の手前、大変恐縮です。

まずネギを投入。その次にお肉。

おいしそう以外の言葉がありません

音と香りを想像しながらお楽しみください。

卵の海、お肉の布団の上に香ばしいネギが寝ています

いただきます。

わぁ…。すごい…。

こんなに上品なすき焼き、初めて食べました。罪なくらい、おいしい!

霜降り肉の脂がしつこいかな〜と思いきや、思ったよりさっぱり!

霜降り至上主義からの脱却「適サシ宣言」

「このお肉、見た目ほど脂っこくないですがどうしてでしょうか?」

「それはですね、表の看板で見ていただいたかもしれませんが、手前どもが「適サシ肉」を使っているからです」

気になっていました、適サシ肉! どんなお肉をそう呼ばれているのでしょうか」

適サシ肉とは言うまでもなく『適度な霜降肉』のことでして、サシの入り方が過剰でないこと意味する造語(商標出願中)です。ちょうど一年前に、ちんやでは適サシ肉しか使わないということを宣言しました。」

適サシ肉の特徴3つ

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よくテレビで「A5ランクの神戸牛」などと言いますが、この5という数字は脂肪の量が一番多いランクを指します。

日本の牛肉には、サシの入りを12段階に分けたBMS (ビーフ、マーブリング、スタンダード)という評価基準があります。BMS数字が少ないと赤身肉、数字が大きいと霜降り肉です。さらに、12段階が5つのランクに分かれています。

A5やB5ランクと呼ばれるのはBMS 8〜12までで、適サシ肉はBMS 6〜7(4のランク)を使っています。

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脂肪の融点が高いと胃もたれしてしまうので、融点が低い和牛のメス牛のみを扱っています。

サシの入りの細かさ
牛肉を加熱した時の良い香りは、サシと赤身の境界線から発生します。つまり、サシが細かいと良い香りの出る肉ということです。

適サシ宣言をした背景は、近年マスコミなどが「A5が一番いい肉だ」と煽り、一部で過剰な脂肪量の霜降り肉が生産されるようになったことに由来します。

A5信仰が過剰になる一方、消費者(特に年配の方)の間に「霜降り離れ」が起きてしまいました。

それを受けて、今回BMSの階級を1つ移動させて「適サシ肉」と宣言しました。(詳しい経緯は店主・住吉さんのブログを参照)」

適サシ肉、奥が深い…! 確かに私も霜降り肉はたくさん食べられない印象です。お肉も想像以上にさっぱりしていますが、割り下もしつこくない味です

すき焼きに「カレーとヨーグルト」で味変化!?

「それから、すき焼きの甘辛い味に飽きてしまった方のためにヨーグルト入りとカレーオイル入りの『変わり卵』を用意しています

「変わり卵・・・?」

卵にプレーンヨーグルトが入っています…!

お肉を投入

「ヨーグルトはすき焼きに足りない『酸味』を補い、さっぱりといただけます」

本当だ! さっぱりとしておいしい!

「カレーは、カレー粉と若干のスパイスをオイルに混ぜています。 豆腐としらたきがよく合いますよ」

淡白な豆腐としらたきにカレーのスパイス感と卵のコク、割り下の甘みが合間って、最高においしい。これ、私大好きな味です。

卵トライアングル

つけ卵の味がこれだけ変えられたら、全く飽きません。ちなみに私は、半分以上カレーオイル入り卵でいただきました。

最初は老舗のすき焼きなど身の丈に合わない…と思っていましたが、ユーモアに富んだ(そしておいしい!)お肉や、変わり卵など味の遊びがあって、なんだか楽しくなってきました

浅草に老舗飲食店が多いのはなぜ?

「すき焼き、大変おいしくいただきました。そもそも論になるのですが、ちんやを含めた『老舗店』が浅草に多い理由を教えてください」

「浅草の原点は17世紀まで遡ります」

浅草の全盛時代についておさらいしますと、
\草の中心には浅草寺(=宗教)があり、その北に、
猿若町(=エンターテインメント産業)があり、さらにその北に、
5噺供福瓮札奪ス産業)が並んでいました。そして、
だ草の南には米蔵(=経済力)が集中していました。
この世の中に2つとない土地であることがすぐわかると思います。

(店主・住吉さんのブログより引用)

「これだけ産業が集中していると、当然人も多いです。そうして生まれたのが、浅草の飲食商売。うちは1880年創業で、最初の頃は食堂のような店で牛鍋を含めたいろいろな料理を出していました。その後1903年頃から牛鍋に特化したようです。」

「そういう背景があったのですね…!初めて知りました。面白い。現在、創業137年のちんやですが、そこまで続いてきた理由は何だと思われますか?」

「うちは特に社訓や家訓はないんです。強いて理由を挙げるなら、浅草の料理屋コミュニティの存在でしょうか。老舗が多いので私と同じように店を継いだ立場の人が多く、困ったことがあればいつでも相談できます。銀座や六本木と違って、浅草で店を営む人はみんなここに住んでいますから」

「そういう存在があってこそ、今の浅草の老舗店があるのですね。長いこと続いていればお客さんとの関係も密接になりそうですが、そのあたりはいかがでしょうか?」

店主が六代目となると、お客さんは五代目という方もいらっしゃいます。代々お店に来てくださって、ありがたい話です」

「お客さんも五代続いて通われてるんですね!」

「お客さんとのコミュニケーションでいえば、創業135年の時にお客さんからすき焼きにまつわる思い出を70本ほど集めて『読み継ぎたい〜すき焼き思い出ストーリーの本』を作りました。作り終えて感じたのは、私たちは『すき焼きという名の思い出を作る仕事をしている』ということです。お店を続けていく上での大きなモチベーションになっています」

「確かに、すき焼きには思い出がつきものですよね。最後になりますがこれから先、ちんやはどんなお店を目指していこうと思われますか?」

「当たり前の話ですが、おいしいものしか残って行かないですからね。おいしさにはこれからもこだわっていきます。それからうちは、お肉の値段の高さや貴重な部位であることに価値を置いているお店ではありません。浅草は下町なので、普通の家族が、普通にうまかったねって思ってくれる店でありたいですね

普通の家族が、普通においしいと思える店。とても素敵ですね。住吉さん、本日はありがとうございました!」

新提案「記念日には、浅草ですき焼きを」

今回お話を伺って、老舗店とは「変わらない味を守り続ける店」ではなく「どこよりもおいしさの改良を続ける店」なのだと強く感じました。

適サシ肉にしても、変わり卵にしても革新的でありながらおいしさの飽くなき追求をしている。老舗の底力を見た気がします。老舗はやっぱりすごい。

そして、ここで一つ提案です。

20代カップルの記念日の行き先といえば、シャレたフレンチやイタリアンに行きがち(私も然り)です。でもここはひとつ「次の記念日は浅草ですき焼きにしよう」なんて、いかがでしょう? とってもハイカラじゃありませんか。

最近注目されている古き良き喫茶店や、赤提灯の酒場に懐かしさを感じるように、まるで昭和にタイムスリップしたような空間のなか、ふたりですき焼きをつつくなんて最高に粋だと思います。

私がおすすめしたい熟成赤身肉のすき焼きは、一人5500円で食べられます。ちょっと奮発して、20代の記念日にいくなんていいと思いませんか。

記念日には、ぜひちんやでしか食べられないすき焼きでお祝いしましょう!

ちんや 住 所東京都台東区浅草1-3-4 電 話03-3841-0010 営業時間
月・木・金/12:00〜15:00、16:30〜21:30
水/16:30〜21:30
土/11:30〜21:30(休憩なし)
日・祝/11:30〜21:00(休憩なし) 定休日火曜日/元日
(火曜日が祝日または祝前日にあたる場合は、臨時営業いたします。)
ちんや
東京都 台東区 浅草
すき焼き