大倉山を背に日の丸を掲げた高梨沙羅

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 高梨沙羅(21=クラレ)がおかしい。ノルディックスキー・ジャンプ女子でW杯総合4度の優勝を誇る女王。ところが五輪イヤーの今季は、W杯個人戦で開幕から4戦連続勝ち星がない。昨季までの圧倒的な強さは影を潜め、海外勢の台頭もめざましい。平昌五輪を1カ月後に控え、金メダル獲得を公言する女王は今、何を思うのか。ミスターばりの擬態語で自らの現状を表しつつ、高梨がスポニチの独占インタビューに答えた。

 たいていの人ならばブランコに乗って靴飛ばしをした経験があるはずだ。勢いをつけてタイミングよく蹴り出せば、靴は大きく飛んでいく。タイミングを外すと、靴はボテっと落ちたり、上に舞い上がってしまったり。

 今の高梨は靴の飛ばし方を忘れた子供のようである。ジャンプ選手は助走路の曲線(R)を時速90キロ近いスピードで滑り降りていく。上から押さえつけられる圧力(G)に抗するようにして飛び立つ。だが高梨の現状は、その踏み切りで力が伝わらないでいる。

 「調子の良い時はRでGを感じて、それをはね返すだけで踏み切り台に力が伝わるんです。踏み切るって考えなくていい。ブランコに乗っている感じで、グイーン!って飛んでいく。踏み外して飛べない時はRでGを感じられてないことが多い。すんって感じで落ちる。流しそうめんみたいに、すんって」

 サーカスの大トリを飾るような大きなブランコの軌道と、誰にもすくってもらえなかったそうめんの軌道を、高梨はそれぞれ手で描いてみせた。

 不振の始まりは1年前だったように思える。17年の年明けにドイツで行われたラージヒルのW杯で連勝。ところが帰国後の日本でのW杯でノーマルヒルへの切り替えに戸惑い、5戦連続で優勝から遠ざかった。徐々に歯車が狂い、「踏み外した」「しっくりこない」などのコメントが目立ち始めた。

 「あの時は完全にアプローチが狂っていたけど、今はまだそこまでも上げ切れていない。何本かいいジャンプは出るけど、厚みを増すには練習が必要」

 今季は合宿でも悪天候のせいで本数をこなせず、感覚的には1年前にも及ばない。フォームの固まらない高梨を尻目に、ルンビ(ノルウェー)やアルトハウス(ドイツ)がかつての自分のように圧倒的な強さで君臨。4年前は追われる存在だった高梨は、今度は追いかける立場にある。

 「追いかける、追いかけられるという感覚はありません。ジャンプは個人競技で対相手の競技ではないので。自分との闘い的な部分がある。だから自分に勝てるか勝てないかに懸けている」

 高梨はいつもそう言う。だからこそ、自分に負けてまさかの4位に終わったソチ五輪が忘れられない。事あるごとにソチの夢を見るという高梨。自分目線のリプレーだった悪夢が最近は変わったのだという。

 「五輪後にしばらく見ていたのは自分が飛んでいる時の夢。最近は客観的に見ているんです。自分はコーチボックスにいて、選手の自分を見ている。普段から第三者的に自分を見るようになったからかもしれない。だから今はソチの夢も嫌な夢じゃないんです」

 ただし、その夢の中の高梨はやはり「すんっ」と落ちていってしまう。

 「4年前の自分を見返してやりたい。その悔しい気持ちを糧にやってきている。やっぱり自分に勝ちたい」

 そのためには平昌でグイーン!と飛ぶしかない。残り1カ月。高梨はその感覚を見つけ出そうともがいている。