仕事が属人化している組織には見直しの要素がいっぱいです(写真:EKAKI / PIXTA)

「自分にしかできない仕事」は会社にとっていらない

「〇〇さんにしか頼めない」「〇〇さんにしかできない」

日本の多くの職場で聞かれるセリフかもしれません。特定の業務が特定の人に集中して属人化してしまう現象です。みんながその人を頼りにして、「〇〇さんに頼めば大丈夫」と安心しています。

一方、「〇〇さんにしかできない」と言われる仕事を持つ〇〇さんは、「これじゃあ、おちおち休めないよ」と言いながらも、そこに自分にしかできない仕事があることをどこかで喜んでもいます。

確かに「お前の代わりなんかいくらでもいるんだよ」と言われることを思えば、「君にしかできない」仕事を持つことはビジネスパーソンにとって何とも心強いことと言えます。

しかし、実際にはこうした「〇〇さんにしかできない」仕事の存在が生産性の向上を妨げ、ムダを生み出しているというのもよくあることです。

トヨタ式をベースとする生産改革を検討していたC社の経営者がトヨタ式を実践しているいくつもの企業を視察した後、先進企業と自社の社員の働き方を比較したところ、強く感じたのは「自社のベテラン社員はあえて仕事を難しいままにしている」ということでした。

拙著『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』でも詳しく解説していますが、具体的には、次のような問題がありました。

[C社が抱えていた問題]

(1)C社には部品や部材、製品などを保管するための大きな倉庫があるが、何がどこに何個あるかはベテランの倉庫係にしかわからない。そのため部品などを用意するときは倉庫係に頼むほかはなく、もし倉庫係の社員が休めばみんなが困り果ててしまう

(2)C社の機械設備は長く使っているものが多く、調整の必要なものがたくさんある。金型の交換などもベテラン社員にしかできず、若い社員はベテラン社員が調整した機械設備を操作することだけしかできない。C社の生産にとってベテラン社員はなくてはならない存在だった

(3)C社のつくっている製品は重いものが多く、部品や部材なども力のある男性社員にしか運んだり持ったりすることができない。力のある男性社員はC社にとって頼りになる存在だった

C社の経営者はこうした社員をなくてはならない存在と考えていました。もし倉庫係や機械設備の調整を行うベテラン社員がいなければ、生産などできないとさえ思い込んでいました。C社にはこんな「〇〇さんにしかできない仕事」がたくさんありました。

ところが、C社の経営者はトヨタ式の工場をいくつも見るうちに、「もしかしたら〇〇さんにしかできない仕事なんかないんじゃないか」と考えるようになったのです。

改善を怠っていただけのことだった

たとえば、トヨタ式の工場のように倉庫の整理整頓を徹底すれば、新入社員でさえ何がどこに何個あるかがすぐにわかります。

機械設備の調整なども改善を行えば、新入社員でさえ短時間でできるようになります。重いものも改善次第で女性社員でも、力のない人でも楽に仕事ができるようになるのです。

それまでC社経営者は「〇〇さんにしかできない仕事」はあって当然と考えていましたが、実際には改善を怠っていただけのことで、ベテラン社員や倉庫係が自分だけにできるように、あえて難しいままにしていたと気づいたのです。

もちろん彼らに悪意があったわけではありません。

しかし、難しい仕事を難しいままにすることで、本来は若い社員や女性社員に「できる仕事」を「できない仕事」にして、「自分にだけできる仕事」にしてしまっていたのです。これは大変なムダであり、生産性の向上を阻むものでした。

C社経営者はすぐに社内にある「〇〇さんにしかできない仕事」を洗い出し、改善を行うことにしました。

[C社が行った改善の結果]

(1)倉庫や工場の整理と整頓を徹底した結果、部品や部材、製品などがどこに何個あるのかが誰にでもわかるようになった。部品などを用意する時間も大幅に短縮されただけでなく、ムダな在庫がなくなったことで利益率も改善。倉庫専門の社員がいなくても仕事が進むようになった。

(2)機械設備の調整が難しかったのは勘と経験に頼る仕事をしていたから。すべての機械設備の改善を徹底して行うことでほとんど調整なしに操作できるようになり、金型などの交換もほとんどワンタッチで行えるようになった。機械設備はベテラン依存の「難しい」ものから、一般の社員でも操作できる「やさしい」ものへと変わった。

(3)作業環境の改善を図り重いものには補助具をつけることで力のない人でも扱えるようになり、暗いところは明るくすることで年配の人でも苦労せずに仕事ができるようになった。動かすムダ、運ぶムダを改善したことで仕事のほとんどは力のない人でもできるものに変わった

こうした改善を重ねたことで、C社の現場からは「〇〇さんにしかできない仕事」はほとんどなくなり、誰にでもできるものになりました。それまで「自分しかできない」を誇りにしていたベテラン社員にとってそれは仕事を奪われるような改革でしたが、C社経営者は生産改革の必要性を説くことで彼らの理解と納得を得ることができました。

「簡単なものを難しくしているだけ」かもしれない


仕事の中には確かに卓越した専門知識が必要なものもあり、こうした仕事は「〇〇さんにしかできない」ものかもしれませんが、それ以外のものは単に「簡単なものを難しくしているだけ」かもしれません。

仕事は「〇〇さんにしかできない」が多ければ多いほど、そこがボトルネックになり、全体の流れを妨げ、生産性を低下させることになります。当然、「〇〇さん」にとっても簡単には休むことができないといったデメリットがあります。

だからこそ「〇〇さんにしかできない仕事」を改善によってなくしていくことが大切なのです。仕事をするとき、あるいは誰かの仕事を見るとき、漠然と見るのではなく、「どうしてこんな動きをするのだろう?」「なぜこれが必要なのか?」と、「なぜ」を繰り返しながら見ると、いろいろな疑問が出てくるはずです。そこに課題があり、改善のヒントがあるのです。