東京藝術大のバベルの塔のクローン

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 2018年は“稼ぐ文化”元年になりそうだ。18年度の文化庁予算案は1077億円と約15年ぶりに大幅な増額になった。文部科学省の予算全体が減る中での文化芸術関係予算の拡充となる。柱は稼ぐ文化への転換だ。VR(仮想現実)技術や観光、街づくりと文化芸術を掛け合わせ、ビジネスや地域活性化などに役立てる。そのために産業界へ文化芸術資源を提供し、産業界と共に稼ぐ仕組みを構築しようとしている。

デジタル革命
 「文化の力を使って有史以来のデジタル革命を起こしたい」―内閣参事官・文化庁長官官房参事官の笹路健氏は力を込める。

 18年度予算案には仏像や絵画といった文化財の「精密複製」(クローン)技術やVRを利用したビジネスモデルの開発拠点整備を盛り込んだ。他にも街づくりと文化を掛け合わせるために地域の美術館や博物館などを連携させる事業、地域の芸術祭や音楽祭で外国人旅行客などの増員を支援する事業が新設された。いずれも地域の文化資源を活用しながら稼ぐモデルを構築するものだ。

 この予算編成に向けて、内閣官房と文化庁は特別チームを設置し、文化経済戦略を練ってきた。文化庁委託調査によると、博物館や出版、デザインなどを含む文化産業のGDP(国内総生産)は約8兆8000億円で日本のGDP全体の1・8%しかない。米国の4・3%、フランスの4・0%に比べて成長の余地はある。

彫像走る
 ただ文化産業のGDPに対し、文化庁予算は1000億円強しかなく、文化の大部分は民間が支えている。公的資金は文化財の修復保存など、経済原理が回りにくい部分を支えてきた。この“稼げなかった文化”も、稼ぐモデルができればより多くのクリエーターが集まり多様性と創造性が広がるはずだ。つまり新施策では公的予算を呼び水として、産業界と連携し何倍もの価値を示す必要がある。

 そのカギの一つが文化財のクローンデータだ。VRなら実物では不可能な、息がかかる距離まで近づける。足腰や視力に不安があっても鑑賞できる。VRなら彫像を走らせることも可能だ。またデータがあれば精密に複製物をいくつも作製することもできる。デジタル観光やソーシャルゲームなど応用範囲は広い。笹路氏は、「眠っている文化資産は山ほどある。文化に先端技術や観光などを掛け合わせて付加価値を付ける」と意欲的だ。

楽しみ二重三重
 美術品だけでなく、地域の歴史や食といったコミュニティーの持つ文化も対象だ。歴史的な合戦の地で、人気ゲーム「マリオカート」のようにカートで走り回るVRゲームなどの技術は実現している。ゲームで子どもを集め、親に歴史や文化を伝え、家に帰ってから親子で夏休みの自由研究としてまとめるなど、文化と教育コンテンツ、技術を掛け合わせれば、二重三重の観光が楽しめる。

 さらに政府は、こうした文化経済活動に取り組む企業を評価する「文化銘柄」の創設の検討を始めた。美術品相続税の猶予制度を設け、美術館に文化財が集まる仕組みを作る。内閣官房として経済産業省や観光庁、外務省などの事業を総動員し、3月までに実行計画を策定する予定だ。文化で稼ぐ姿を示せられるか、18年は勝負の年になる。
(文=小寺貴之)